第七十五話「元魔王、竜魔族に接敵す」
こめかみに血管を浮かび上がらせ、体中から灰色の煙と白色の湯気を立ち昇らせながら、ヘリオスは怒りに打ち震えていた。
「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!この俺を出し抜くとはいい度胸だぁぁぁぁぁ!!!」
(やけに騒がしいと思って舞い戻ってみれば……やれやれまた厄介な者に出くわしたモンだ)
木々の隙間より、遠目にガイはヘリオスの姿を認めた。
(こっちに気付いてなきゃいっそ無視するか)
どこか遠い目をしてそんなことを考えていると、ぎろりとこちらを睨む目と目が合った。
「あぁあん?ごるあぁ!こそこそと覗き見とはいい性分してんなぁぁぁ!こっちは気が立ってんだぁ!!」
喉を鳴らして凄むヘリオスが、問答無用でガイへと向けて、竜の吐息をぶっ放した!
しかし、こんなロングレンジからの炎の射線を避けることなど、ガイには造作もなかった。
木々を一瞬にして灰と化し、火炎放射さながらの炎がガイのすぐ脇を行き過ぎる。
手甲剣のような竜鱗の刃を両手に生やしたヘリオスが、一気に間合いを詰めてきた!
ガイは腰のバスタードソードを抜くと、がぎっと鈍い音をさせ、刀身で竜鱗の刃を止める。
「あらやだ。通りすがりのパンピーにいきなり斬りかかるなんて、あなた通り魔ですか?」
ふざけた物言いで要らぬ挑発をするガイ。
「ただのパンピーがそんななまくらで俺の牙竜刃を止められるかよ」
ヘリオスがにやりと口角を上げる。ガイのくだらぬ挑発には乗らず。
「そう安い挑発には乗ってこないか。それで、お前さんはなんでそんなに程良いこんがりローストに焼けてんだ?」
と、ガイは素朴な疑問を口にする。
「異端、お前こそなんでこんな所をうろついてやがる?紅い宝玉が目的か?」
「お前、紅玉を知っているのか?そいつをどこで知った?」
ガイの目つきが変わる。ぎらりとした底冷えする目つきに。
「やはりあの宝玉が目当てか。栗色の髪をした女を殺して俺が奪った」
「……………………」
(栗色の髪?ヒルデガルトは俺と同じ黒髪。だとするとべランギと呼ばれていた女が持っていた方の紅玉か。あの女が殺さたのなら、四日後の約定はなくなる。なら、ヒルデガルトの安否を……)
「この俺を前に考え事か!舐めるなよ!」
バスタードソードを力任せに跳ね上げると、乱れ斬りを見舞う!
けれども、そのことごとくを涼しい顔をして、ガイはただのバスタードソードで受け流す。
(口振りからして、こいつはヒルデガルトの方の紅玉の存在は知らないと見える。だが、魔族に首を突っ込まれると、扱う物が物だけに危険極まりない。最悪、賢者の石ならまだしも、万が一にも魔導書タブラ・スマナグディナの写本なりが存在していたら……)
「まだ考え事を続けるか!ならこれで終わらせてやる。死んで後悔しろっ!」
言うや、ヘリオスの両腕のすぐ下から二本の腕が生え出てき、それらも竜鱗の刃を備え、合計四本の腕でガイを襲う!
「そうがっつくなよ。慌てる乞食はもらいが少ないって言うだろ」
四本の腕による乱撃を見事な剣技でさばききるガイ。
ヘリオスは腰に巻いていた尾も解き、鞭のようにしならせ、隆々とした尾による打撃も加え、攻撃をさらに一段加速させていく。
連打に次ぐ連打!
(ヒルデガルトの安否も気になるが、やはりもう一つの紅玉の回収を優先すべきだな)
ガイはすでにヘリオスが紅玉を奪われていることを知らない。ヘリオスが紅玉を持っていると思っていた。
「事情が変わった。少し本気で相手をしてやる」
ゾクッ!!背筋に恐ろしいほどの悪寒が走る。
ヘリオスは驚いた猫のような俊敏さで、ガイから飛び退いて距離を取った。




