第七十一話「対峙」
「間に合わなかったわね。ヒューバードを失うことになるなんて」
「団長!シャロンさん!」
「クローディア!」
「レオノーラ!」
「団長たちが近くまで来ていて、すぐ合流できて急いで戻って来たけど……」
ヒューバードの遺体を見つめ、レオノーラは自分の無力を感じ、肩を落とす。
「レオノーラ、沈んでいる場合じゃないわ。クローディアをこちらへ」
シャロンはヘリオスへの警戒を怠らず、クローディアたちを自分の後ろへと下がらせると、ずいっと三人の前にカインが出た。
「お前は俺が殺る」
「いやはや異端の気配に気を取られていたら。こうも簡単に接近を許すとは。しかし、貴様、人間にしては悍ましい気配を纏いやがるな。憑き物の手合いか?」
ヘリオスが油断なく、『死骸蟻団』を束ねる、自分と同じ銀の髪色をした男を観察する。
しかし、カインはふとヘリオスから視線を切り、あらぬ方に目を遣った。
「場所を変えよう。邪魔はされたくない」
「確かに。あれは異端だ。お前ら相手に片手間で殺るには無理がある。だが、俺がお前らを相手にする道理もない」
「こちらは仲間を殺されているんだ。それにお前が持つ賢者の石は我々が先に目を付けていたものだ」
「だから何だ?俺の知ったことか」
「なら、そいつとこいつを賭けて勝負するってのはどうだ?」
と、カインは黒剣「影を飲むもの」をヘリオスへと提示する。
「ほぅ。今は眠っているようだが、そいつは人が手にするには過ぎたる物。俺にこそ相応しい魔剣だ。いいだろう。相手になってやる、人間。それで、場所はどうする?もうまもなく異端がここに来るぞ」
「シャロン、頼む」
「ええ」
アッシュブロンドの髪をかき上げ、シャロンは凛気転式を発動した。彼女の能力は『間隙断層』。縦軸と横軸の二点間を二メートル以内で任意設定し、その二次元間を見えない斬撃にて裂く副次的な空間断裂と、その空間断層に百メートル四方の間隙を二時間の間、生成できる主要な亜空間生成の固有技能であった。
「空間断裂に亜空間生成とは、エグい能力だな」
胡乱気な眼差しを断裂した空間内に向けて、ヘリオスが言った。
「安心していいわ。間隙断層空間内では空間断裂は使えない。裂いた空間内でさらに空間断裂を使えば、理論上、次元崩壊を起こすから。そうしたら、真っ先に消し飛ぶのは次元崩壊の中心にいる私。転式を展開している能力者が死ねば、被能力者はその能力が解除されるから通常空間に復帰する」
「そうだな。昔、同じような能力で次元崩壊を起こしたヤツの話を聞いたことがある。信用しよう」
「魔族の割には用心深いわね」
「では、この中で殺り合うとしよう」
と、先陣きってカインがシャロンの生成した空間内へと入って行く。その背にヘリオスが従う。
「リオノーラ、クローディア、ヒューバードの遺体も中へ」
「はい」
言われて、二人はヒューバードの遺体を空間内へと運び込む。
中は明るく、何も無い真っ白なだだっ広い空間が広がっていた。
シャロンたち三人は隅で、今から始まる二人の戦いを静かに見守る。
黒剣をシャロンに預けたカインは、高位魔族ヘリオスと対峙する。




