第六十五話「抗争、魔剣奪取」
少しばかり時間を遡る。
リックワース商会の商館が大火に焼かれたどさくさに紛れ、アーセナルトは黒の大剣を密かに持ち出した。
そして、仲間と合流すべく、ひっそりとアリアブルグの街を出る。街道を北西に向かって馬を疾駆させるも、アリアブルグに繋がる街道で網を張っていた『死骸蟻団』序列第四位のシャロン・メイカーによって、その動きを捉えられる。
「ビンゴ!あれがヒューバートからの情報に上がっていた例の魔剣ね」
崖の上からアーセナルトと黒の魔剣の姿を視認する。
かすかに東の空が白み始めていた。
いつの間にか、シャロンは三人の男女に取り囲まれていた。
「おい、女!ここで何をしている?」
リーダー格らしき髭面の大男が野太い声を出した。
こちらの様子に気付いたか、魔剣を持つ男が馬を止め、崖の上を見つめている。
「あなた達こそどこの誰で、ここで一体何をしてるのかしら?魔剣を持ってるあのおじさんと知り合い?」
「魔剣のことを知っているとは、女、お前、何者だ?」
シャロンを問い詰める大男の瞳に不穏な鈍い光が宿る。
(この三人、ただ者じゃないわね。私が接近に気付かず、取り囲まれるなんて)
「ゲイビー、この女はまずいわ。『死骸蟻団』のシャロン・メイカーよ。私達もただじゃ済まない。アーセナルトさんを逃がすのを最優先に考えるべきよ」
大男の後ろにいる、マフラーのようなものに顔の半分を埋めた根暗そうな女が冷静に口を開いた。
「へぇー。私のことを知ってるなんて。同じ穴の狢かしら」
「私達は『蒼精輝機団』の構成員よ。私達を殺れば、上層部が黙っていないわ。全面戦争になるわよ」
根暗女がそう忠告してくる。
「チッ。あのクソバカ団長!知っててこの私を派遣しやがったな」
と、シャロンは三人に聞こえない小声でぼやく。
「魔剣さえ渡してくれれば、私としてはあなた達と殺り合う気は毛頭ないわ」
「馬鹿か!ただでくれてやるわけないだろうが」
「私達『死骸蟻団』は盗賊団なんでね。盗んで来いと言われたら、それは絶対命令なのよ。何があろうと」
そうシャロンが言い終わらぬうちに、三人が血飛沫を上げて絶命する。何が起きたのか、本人たちも気付かぬまま、一瞬で事は決した。
崖の下を確認すると、黒の魔剣だけが街道に打ち捨てられており、馬に乗る男の姿は既にそこにはなかった。
「あのおじさん、機を見るのに敏いわね」
魔剣を持ったままだと、どこまでも追いかけられ、殺されると判断したアーセナルトは、魔剣を奪われて尚且つ殺されるという最悪の事態を避け、せめて情報だけでも持ち帰ろうと、魔剣を捨て逃げる手を選んだのであった。
「この場で皆殺しにできれば避けられたかもしれないのに。これで『蒼精輝機団』との全面戦争は確定ね、はぁー」
シャロンは深いため息を吐き出し、魔剣を拾い上げる。
「さらには、ヒューバートが『赤星たちの十字団』から賢者の石を奪ったら、赤と蒼、両方同時に相手にすることになるわね……。まったくウチのバカ団長は何考えてんのよ!とにかくすぐに戻って、蒼との抗争に備えてガーヘルトらに即行動員かけないと」
(でも、赤に続いて蒼も関わってくるなんて。私が思う以上に、事態は加速度的に進行しているのかも)




