第六十三話「三者三様、街へ」
「――それで?影を渡る奴は倒したが、死体を操る方には逃げられたみたい、だと?ついでに賢者の石も手に入れられず。聞いて呆れるな、話にならん」
フードの下、ヒューバートはとびきりの嘆息を吐き出すと、クローディアの顔面には裏拳を、リオノーラのこめかみには無造作に蹴りを叩き込んだ。
二人の体がたやすく吹っ飛ばされる。
(全く見えなかった……私らダブルナンバーと序列第九席のシングルナンバーとでは、これほどにレベル差があるのか!?)
と、リオノーラは愕然とする。
ペッと折れた奥歯と血を吐き出し、クローディアは鼻血を拭った。
「俺の顔に泥を塗るような真似をしてみろ。次はないぞ」
「言い訳のしようもない。我らの不覚だ。すまなかった」
「悪かった。敵を舐め過ぎていた」
と、リオノーラも素直に謝罪した。
「余計な手間が増えた。やっと手にした情報だったというのに。死体を操る奴の正体がわからぬ以上、振り出しに逆戻りだ。何としてもそいつの正体を割り出し、二日以内に賢者の石を手に入れるぞ」
ヒューバートの言葉に、リオノーラとクローディアはこくりと頷いた。
「けれど、どこに?」
「街だ。魔族の姿をしていたからこんな外れに隠れていたが、人の姿なら街に紛れ込むに違いない」
その頃、カッソールの丘からヒルデガルトが走って移動していた。
(突然、解放されたけど……何が起こっているというの?私を解放する理由が見当たらない。考えられるとしたら、能力者の身に何かがあった)
「はぁ、はぁ……」
自分の息遣いだけが夜に響く。薄い月光を頼りに、南門へと向かう。
城門が開くのは朝の六時だ。一番近くの西門に向かえば、何者かの待ち伏せに遭うかもしれない。逆に追い付かれることもあり得るかもしれない。ならば、南門か北門に向かうべきだと考えた。
賢者の石も含め、単純に死ねばいいわけではない。死後、自分の死体や血が良からぬ者たちに利用される恐れがある。
(ここは一旦、街に戻るべきね)
ただ状況は何も好転しているようには思えなかった。寧ろ嫌な胸騒ぎがする。より悪い方向に転がり落ちて行くような……。
ベランギがカッソールの丘の一本木に辿り着いた時には、東の空が白み始めていた。
「そのまま留まっているわけはないか……さすがに西門はない。だとしたら、北か南か。間に合うか」
(見つけ出し、殺してでも、せめてもう一つの賢者の石は回収しなければ!おそらく団長に送った使いの二人も、『死骸蟻団』の連中に潰されていると見るべき)
「孤立無援ね」
フッとベランギは自嘲気味に笑った。
(唯一の救いは、まだ私の正体を誰にも見られていないということだけ……)
奇しくもそれぞれ三者三様の理由で、大市開催中のアリアブルグへ向かうことに。




