第六話「元魔王、街に到着す」
道中、デミリッチ含め二十匹近くの様々な魔物を片付けつつ、二人は五日かけて川の最下流域にある都市に辿り着いた。
小高い丘の上から、眼下に広がる大きな街を見下ろして、ガイは大きく伸びをした。
「思った以上にでかい街があったな。やっと野宿から開放される。首も肩ももうバキバキ」
「人の街……」
アリシアはガイにもらったローブを目深にかぶり直した。
それをガイがすかさず、すぱんと手ではたいて、アリシアが隠そうとしていた狐耳を露わにする。
「わー、何するんですか、師匠」
「隠す必要なんてない。堂々としてろ」
「獣人や亜人は被差別民。人の街ではこの方がいいんです」
と、アリシアは再びローブを目深にかぶる。
それをまたまたガイがはたいて、
「結局それじゃあ差別を助長するだけだ」
「師匠は強いからそんなことが言えるんです!」
アリシアはキッとガイを睨んで強い口調で言った。
「だったらお前も強くなれ。そして、お前が差別を受けてる獣人や亜人の希望となればいい。お前にはその素質がある。吟遊詩人に英雄と謳われるくらいには」
「私が英雄……」
「まぁ、俺には遠く及ばんがな」
というジョークは、アリシアには見事にスルーされる。
「でも!私を連れてると師匠だって嫌な思いをするかも!」
「だったら街を滅ぼすか。別にいいよな?」
と、とぼけた調子でガイが軽口を叩くと、
「いいわけないでしょうが!街を滅ぼして皆殺しにした挙げ句、街を地図から消すなんてダメに決まってます!」
「いや、皆殺しとまでは言ってないけど……真に受けるなよ。ジョークに決まってるだろ」
「はぁ……わかってますよ」
大きなため息を吐き出して、アリシアは首を振った。
「師匠の軽口にのっかったのに。全く乗り損です。師匠のユーモアセンスってバッタ並ですか?私がブラックユーモアで重ねていったのに、"皆殺しとまでは言ってないけど"、ってバッタでももっとマシなツッコミしますよ」
呆れ顔でアリシアは言った。
「うっ……」
ぐうの音も出ないガイに、アリシアはローブをたくし上げ、明るい笑顔で手招きする。
「さぁ、師匠!行きましょう!ぼさっとしてないで!」
(師匠とならどんなことがあったって、私はきっと大丈夫!)
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