第五十四話「元魔王、考えが至る」
「起きろ!死魂兵ども!」
ラスカーファ=ミレイは、土中に潜ませていたサンドワームの死魂兵五体を起動させると共に、周囲にも伏せてあった動物系の死魂兵二十体ほどを呼び出した。
ミレイの固有技能「操死身帯同」は死者の姿形、記憶、能力をコピーして使うことができるもので、ラスカーファの固有技能「死魂籠絡装填」を使って、事前に死魂兵をこの場に仕込んでいた。
ラスカーファの能力は、死者の魂を籠絡し、その魂を、人や魔族より知能レベルの低い、生きている魔物や動物に憑依させて死魂兵とし、簡単な命令を聞かせる能力であった。
土中より突如出現したサンドワームの死魂兵三体が、ヒルデガルトの身柄を巻き取って確保すると、後方に連れ去る。
「レカイオン!アリシアを頼む!」
「了解」
もう二体がアリシアの方に向かう。レカイオンは走りながら双剣を抜くと、巨大なサンドワームに臆することなく、跳躍して仕掛けた!
サンドワームが輪状に並ぶ尖った歯の口を押し広げて襲いかかる。しかし、レカイオンの敵ではなく、双剣の乱撃を受け、全身をばらばらに切り刻まれる。
アリシアと合流したレカイオンは、アリシアの手を縛る縄を切った。
「アリシア、いける?あの異形ども相手しなきゃ」
宿屋から持ってきていた短剣をアリシアに手渡す。
「うん。大丈夫!もう不覚は取らない」
わらわらと近付いてくる死魂兵を睨んで、アリシアが力強く言った。
ガイは突っ込んでくるラスカーファ=ミレイを迎え討つ。
青白い肌の両腕を下から上へと振り上げると、不可視の冷気による斬撃がガイへと走る。
コートの裾の先が凍った刹那を見損じず、ガイは冷気の斬撃を避けきり、拳を振り上げる。
ラスカーファ=ミレイは回し蹴りを放つ。
その蹴りを左腕で軽くいなすと、ラスカーファ=ミレイの顔面に容赦なく、拳を叩き込んだ!
白目を剥き、後頭部から地面に叩きつけられるラスカーファ=ミレイ。
死魂兵と戦闘しながらのアリシアが、ガイに向かって叫んだ。
「師匠!気をつけて!影にもう一人いる!!」
アリシアの忠告が無ければ、腹を貫かれていたかもしれない。
今までガイのいた空間を鋭い槍による突きが行き過ぎた。
ラスカーファ=ミレイに追い打ちをかけようとしていたガイは咄嗟、アリシアの声で後方に飛び退いて難を逃れていた。
ラスカーファの影から目の下を布で隠した辮髪痩身の男が槍を手に現れた。上半身裸で両肩にショルダーガードをしているという出で立ち。よく見ると手に持つのも槍ではなく、矛のようだ。どうやらこことは文化圏の異なる異国の戦士のようだ。
「アリシアがあの短時間でやすやすと攫われたのは、お前の不意打ちによるものか。お前らが『赤星たちの十字団』ってヤツか?」
「ベランギ、起きろ」
「その名で呼ぶんじゃないよ!リュウハン」
ベランギと呼ばれたラスカーファ=ミレイがゆらりと立ち上がる。中身の奴の名前か。
「目的は達した。引くぞ」
「引いていいのか?さっきも言ったが、どうやって二つの紅玉を一つの賢者の石に融合させるんだ?」
「キメラ理論に基づく合成魔導式を用いれば可能だ」
何の迷いもなく平然と答えるリュウハン。
ラスカーファの第三の眼が挙動不審にぎょろぎょろと動く。ベランギは考える。
(さっきのあの女、ヒルデガルダそっくりな女が見せた反応はなんだ?賢者の石の融合はそう簡単にはできないということか?)
「戯れ言に付き合う理由はない。ベランギ、行くぞ」
「待て、リュウハン。これまで何年も探し続けてきたものが、こんなにあっさりと手に入るなんて、何か裏があるのかもしれない。この男の話を聞いてみる価値はありそうだ。それで、お前は何を考えついた?」
「ハザエル・カルブンクルスなんて物は存在しない」
それが、ガイが至った考えだった。




