表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/80

第五十二話「元魔王、気付く」

 レカイオンが女を見て叫んだ。


魔眼(まがん)のバロール―――ラスカーファ!!な、なぜ、お前が……!?」


 月光に(きら)めく銀髪(ぎんぱつ)のソバージュ。第三の眼がギロリとレカイオンを(にら)み、青白い肌の魔族がそこに(たたず)む。赤いヒールに真っ赤なルージュを引くその姿は、不気味な妖艶(ようえん)さを(ただよ)わせていた。


(先のアリアブルグ襲撃でギルマスに首を落とされ、倒されたと聞いていたが……。何かが妙だ。この違和感はどこからくるものか?)

 目の前の魔族の女を観察し、洞察するガイ。


「その紅玉(こうぎょく)は……」

 (かわ)ききった口中(こうちゅう)で、ヒルデガルトが(かす)れた声を出した。


 それに反応し、ラスカーファは嬉々(きき)として語り出した。

幾世代(いくせだい)もの天使の子孫の血を浴び続け、熟成された賢者の石は、天使の紅玉(こうぎょく)と成る。美しいだろう?この色褪(いろあ)せることのない深い()の輝き。これだけで如何許(いかばかり)の力を有していよう?」


 月光に石を()かし見て、ラスカーファはうっとりとその紅々(あかあか)とした色を()でる。


「だが、これはまだ不完全なもの。(つい)となるもう一つの石と融合することで、至高なる賢者の石――『天使(ハザエル)の紅玉(・カルブンクルス)』は完成する!」


 ハザエル・カルブンクルスとは、召喚術の奥義(おうぎ)が書かれた魔導書でもなく、天使の術式でもなく、天使そのものの力の凝縮、究極の賢者の石の錬成だというのか。


 だとしたら、原初の賢者の石をラステカの始祖たちはどうやって創造し、初代王――天使ハザエルを如何(いか)にして召喚したかという新たな疑問に直面する。


 それこそ、卵が先か(にわとり)が先かという話だが、それよりも何よりも現実問題として、凝縮された天使そのものの力の(かたまり)が今、眼前にあるという事実を先に考えねばならない。


「その絶大なる力でお前は一体何をするつもりだ?」


 逆説的に、天使(ハザエル)の紅玉(・カルブンクルス)があれば、天使降臨も死者蘇生も、大地から天への魂の昇華も、存在の大いなる連鎖を辿(たど)って神性との同一を()たす事も、(ある)いは可能となろう。


 それはもはや錬金術の奥義(おうぎ)に通ずるものである。いわば、天使(ハザエル)の紅玉(・カルブンクルス)こそ十二の錬金術の奥義(おうぎ)(しる)されると言われる伝説級の魔導書タブラ・スマラグディナの完成形とも言えるのではないか。


「さてね。私に団長の考えはわからない。集めろと命じられたから集めるまで」


 レカイオンが今にも飛び掛からんとする目で、ラスカーファを(にら)み上げる。


(また妙な引っ掛かり……この女から感じる違和感はなんだ?)


「団長……?火の勇者……」


 ――――声か!!と、ガイはハッと気付いた。

「お前、ミレイ・エセルバかっ!」


 ラスカーファの(まゆ)が大きく()ね上がる。


「ほぅ。よくわかったね」


「団長と火の勇者ってキーワード。そこから元火の勇者パーティーのメンバーにして騎士団長だったミレイ・エセルバが連想された。そして、何よりその声。声は変えられぬと見える」


 声に関しては色々あり、それから気に掛けるようにしていた。なので、今回はなんとか気付くことができた。


「騎士団長は死んだんじゃあ……?それが魔族ってどういうことなんだ!?」

 思わずセイヴィアが声を上げる。


「死体に乗り移り、それを操る能力か、それに類する技能(スキル)持ちか。騎士団長ですら仮の姿なのだろ」


「想像におまかせするよ。(みずか)らの能力をバラす馬鹿はおるまい」

 と、ラスカーファの姿形(しけい)をしたミレイ・エセルバは不敵に微笑んだ。


 彼女の技能(スキル)――凛気転式(ブレイブコード)操死身帯同(そうししんたいどう)』は、死体に乗り移り、その者の姿形(すがたかたち)、能力、記憶をコピーし、我が物として扱うことのできる技能(スキル)であった。


 ただ操れる死体は一体のみで、それがある一定値(いっていち)損壊されると、修復不能となり、本体にダメージを受けることになる。ミレイの体は気に入っていたのだが、バイアケスとの戦闘で継続(スリップ)ダメージを受けてしまい、修復不能にまで追い込まれ、やむなくミレイの身体を捨てて彷徨っていたところ、たまたま見つけたこのラスカーファの死体に乗り移ったのだった。


 そして、副産物としてこの体、ラスカーファが持つ記憶に触れ、長年探し求めてきたもう一つの天使(ハザエル)の紅玉(・カルブンクルス)が、ここアリアブルグにあると特定できた。


 何もバイアケスたちはただ人を殺し、街を(つぶ)すためだけにアリアブルグ襲撃を(たくら)んだのではなかった。アリアブルグに究極にして至高なる賢者の石「天使(ハザエル)の紅玉(・カルブンクルス)」が、二つ(そろ)ってあるという情報を入手しており、それらを手に入れて、魔族圏の三大勢力の一角、三巨頭(さんきょとう)が一人ベルネストに献上し、士官と一族再興を()たそうと考えてのことだった。


 ミレイはラステカの生き残りが創設したと(うわさ)される奴隷商会「リックワース商会」をマークしていたが、なかなか尻尾が(つか)めず、アリアブルグにないかもしれないと(あきら)めかけていた矢先のことであり、渡りに船であった。


 しかし、この馬鹿どもは街の人間を皆殺しにして、探すつもりだったみたいで、はっきりとした位置は相変わらず(つか)めずにいた。


 そんな折に、アーセナルト・リックワースが大賢者に接触を(はか)ったという情報が飛び込んできた。

 それでミレイは確信した。


「さて、人質交換といこうか」

 宿願を()たせると、にやりとラスカーファの顔が笑みの形に(ゆが)んだ。

【作者からのお願い】

「面白い」「続きが読みたい」「先が気になる」なんて思われる方がいましたら、ブックマークとともに、下↓にある☆にチェックを入れて頂けると、とても励みになります!よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ