第四十七話「元魔王、巻き込まれる」
翌日。【風の凪亭】において、朝食をとりながら、レカイオンと話すガイ。
「アリシアはまだ寝てるの?」
「昨日の今日だからな。心の整理もあるだろう。ただ変な負い目を感じてなきゃいいが」
朝から食欲旺盛なガイは、ガツガツと二人分の朝食セットを軽く平らげながら、普段と変わらぬ様子であった。
「ガイはあれで良かったの?」
「どういうことだ?」
レカイオンの質問に食べる手を止めて、ガイは聞き返した。
「最初の老人以外は、向こうの人たちに害意のようなものはあまり感じなかったけど」
「……………………」
そう言われてみれば、ガイの魔剣の査定についても、逆にやや高いくらいで、適正といえば適正な鑑定であった。
会頭が会話の端々でマウントを取りにきていたが、悪意という程ではなかった。
帰った後も、嫌がらせなどあるかと警戒していたが、それもなかった。
あのときはアリシアのことで頭が一杯だったので、他のことに一切気が回らなかった。今、レカイオンに指摘され、よくよく思い返してみたら、そうかもしれないと思い当たる。
「昨日は、いつものガイらしくなかったね。アリシアのことが余程心配だったんだね」
虚勢で余裕を装ってはいたが、アリシアを取り戻すことに必死で、周りが見えていなかったのは確かだった。
最悪、リックワース商会のヤツらを皆殺しにして、アリシアと街を出ることも考えていた。
「視野が狭くなっていたのは事実だな」
(しかし、何の目的があり、ヤツらは俺たちに接触してきた?アリシアを取り戻すのが目的なら、もっとゴネているはず。そうすんなり帰すわけがない。金か?いや、そんな短絡的なことではあるまい。だとしたら、アリシアを盾に俺を取り込もうとしたと考えるのが妥当か。けれど、何のためだ?)
そんなことを考えていると、隣の大工職人風の男性客二人が話している内容がふと耳に入ってきた。
「聞いたか?昨晩遅く、北地区にある奴隷商の商館が火事で、結構な人数亡くなったって話」
「リックワース商会の商館だろ。奴隷商なんて因果な商売してるから、バチが当たったんじゃねぇの?」
「色んな所で恨み買ってるってウワサだしな」
「非合法なトコからも、獣人や亜人を買い付けて来たりしてるって聞いたぜ」
「大市の奴隷オークションで出すことになってた、奴隷たちも輸送中、魔物に襲われて全滅したって話だし、踏んだり蹴ったりだな」
「何人かは助かって、オークションに出品されるって、オレは聞いたが……」
「まぁ、奴隷なんて維持費もかかるし、貴族様でも財産家でもない、オレら一介の小市民には関係ねぇけど。まぁ、火事と聞いてざまぁと思ったけどな」
「ははは。同感同感。あくどいことして儲けてるヤツの不幸話は聞いてて楽しいよな」
口さがないおっさん同士の会話である。品も配慮もない、でかい声での。別にそれをどうこう言うつもりもない。内輪の話のノリというものだと理解できるくらいの分別はある。
だが、内容は実に引っかかりを覚える、非常に気になるものであった。
「行って来たら?気になるんでしょ?あたしが昨日の事、蒸し返しちゃったばっかりに。アリシアにはあたしからうまく言っておくし」
「その必要はない。気になるもクソもなく、どうやら既に巻き込まれているようだ」
「……そのようね。殺気がダダ漏れね」
レカイオンの瞳が冷たい色を帯びた。立ち上がり、振り向いたときには、腰の剣は抜き放たれ、二人の喉元目掛けて投げられた匕首を叩き落としていた。
その落ちた匕首を拾い上げると、すかさずガイが投げ返した。同時に、レカイオンはもう一本の腰の剣を鞘ごとガイに投げ渡すと、表に駆け出した。ガイもそれに続く。
朝の通りは、安息日のためか、幸い人通りはほとんどなかった。通りの石畳に真新しい血痕が続いている。
二人はそれを追う。
血痕は路地裏へと続く。二人を誘い込むように。おそらく待ち伏せされているだろう。
けれど、二人は躊躇せず、路地裏へと駆け込む。
案の定、正面から二人と頭上から一人が匕首を投げながら、襲いかかってきた。
「レカイオン、殺すな!」
こくりと頷く動作が見えた。
匕首をたやすく白刃で弾くと、頭上から短剣を抜いて迫り来る一人を紙一重で躱すと、鞘でその横っ面をぶっ叩く。
そして、正面の二人へと突っ込む。白刃を逆刃に、鞘との二刀流で正面の二人も難なく伸す。
――――も、打撃が甘かったか、正面の一人が魔法筒を自分たちとレカイオンの間に放り投げた。
激しい爆発が起こった。
「レカイオン!!」
もうもうと砂塵が巻き起こる。
「……大丈夫。流絡纏剣で爆風ごと衝撃を吸収したから。けど、二人はばらばら」
魔族特有の瘴気を魔力のような力に転化し、固有技能を顕現させる能力――――瘴気転式。レカイオンの瘴気転式『流絡纏剣』は、剣で受けた魔法や物理衝撃を吸収し、その力を蓄積したり、剣撃に乗せてその力を自在に放出し、自身の攻撃に転換できる技能であった。
「まぁ、ここにまだ一人、伸びてるヤツがいるが、俺たちが直接話を聞くのは無理そうだ」
騒ぎを聞きつけた、近くを巡回していた警察隊の連中がすぐに、二人のいる路地裏に駆けつけてきた。
「一体、なんの騒ぎだ!」
「俺たちを襲ってきた奴らを追いかけ、逆に追い詰めたら自爆しやがった。こいつはその生き残りだ」
と、ガイは黒い覆面のいかにも怪しい姿の男を、警察隊に突き出す。
「あっ!これは、大賢者殿!」
警察隊の面々が敬礼をする。
レカイオンが突然、大きな声を出した。
「ガイ!!もしかして、これって陽動じゃない!?」
「アリシアっ!!」
二人はあわてて【風の凪亭】へと戻る。三階の逗留している自室へと駆け上がり、扉を開けると、部屋はぐちゃぐちゃ、争った形跡が……。
壁には匕首でメモが貼り付けられていた。
そのメモにはこう書かれていた。
『狐人族の娘は預かった。今夜一時に西の城壁外、カッソールの丘にある一本木まで、ハザエル・カルブンクルスを持って来い。さもなくば娘は殺す』
【作者からのお願い】
「面白い」「続きが読みたい」「先が気になる」なんて思われる方がいましたら、下↓にある☆にチェックを入れて頂けると、とても励みになります!よろしくお願いいたします!




