第三十七話「元魔王、お姫様抱っこする」
「アリシア!レカイオン!」
ガイは二人のもとに駆け寄る。
「あたしは大丈夫。たいした怪我じゃない」
「良かった」
「うん」
レカイオンは嬉しそうに頷いた。
「でも、アリシアはひどい怪我。両手が骨折してて。あと、軽い脳震盪で力が入らないみたい」
ガイが来るまでの間に、レカイオンが添え木をしてくれていた。両腕を双剣の鞘で固定されているアリシアが、地面に寝かされていた。
「師匠……」
アリシアが口を開く機先を制し、ガイが謝る。
「すまない。さっきので魔力を使い果たした。今は回復魔法が使えない……」
「ううん。大丈夫。骨折は日が経てば治るから。師匠、さっきの技、凄かったね」
「ああ……」
ガイはバツが悪そうに鼻の頭を掻いた。
「……でも、恐いからもう使って欲しくないかも。助けてもらったのに、こんなこと言ってごめんなさい」
そう言って、アリシアはガイから顔を背け、謝った。
「ああ、もう使わん」
しばしの沈黙。
でも、ガイには言わなければならないことがある。
意を決し、ガイは言った。
「……アリシア、黙っていて悪かった。俺は魔族なんだ」
「そんなのはどうでもいい……」
そっぽを向いたまま、アリシアはぼそっと言った。
思っていた反応と違い、
「どうでもって、俺は魔族なんだぞ!」
と、よくわからないことを口走る。
「だから何?魔族だからって、今までの師匠と何が変わるの?」
「ぶっちゃけ別に何も変わらないけど……」
「前に、私が尊敬する人が言ってた。『……人の中にも嫌なヤツもいれば、魔族の中にも気の合うヤツもいる。種族なんてどうでもいい』って!
それより私が怒ってるのは、レカイオンは知ってたみたいなのに、どうして、私が聞かされてないってこと!私の方が先輩なのに……」
涙目でガイを睨んで、アリシアが頬を膨らませる。目一杯木の実を頬張ったリスみたいだ。
「へ?」
「アリシア、いじけてる」
ほんの少し口角を上げて、レカイオンが言った。
アリシアの視線に気付いて、ガイがレカイオンの顔をちらりと見るも、そこにはいつもの無表情があるだけだが、アリシアにはその表情の違いがわかるからこそ、腹立たしかった。
(今、すんごいドヤ顔してるぅぅぅ!!)
「お前、そんなことでそっぽ向いてたの?」
朴念仁が火に油を注ぐようなことを言う。
「師匠のばかあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
耳がきーんとする。
「まぁ、黙っていたのは謝る。すまなかった。レカイオンは同じ魔族だから、俺が魔剣を使ってたからすぐに気付かれただけだ。けど、それだけ元気があれば大丈夫だな。ほっとした」
ガイはアリシアの頭をワシワシと乱暴に撫でると、ひょいとアリシアを抱え上げた。いわゆるお姫様抱っこというヤツだ。
「え、え、え?師匠……」
相変わらず無表情だが、レカイオンがすごく羨ましそうにしているのを見て、ちょっぴりアリシアの気分は晴れた。
「全くお前は無茶ばかりして。心配させんな。とりあえず回復魔法使えるヤツに診てもらおう」
「うん」
ガイの分厚い胸に顔を埋めて、アリシアは満足気に微笑む。そして、レカイオンにドヤ顔のお返しをする。
レカイオンの右眉が跳ね上がる。悔しそうだった。
ちょうどそのとき、ラーサムたち三人がやって来た。
「探しましたよ、ガイさん!」
「ガイ様、無事に出られてホント良かったです。一時は皆、殺されちゃうと思ってましたから」
「そちらは?」
ミカナがアリシアとレカイオンを見て、尋ねる。
「俺の仲間だ。さっきの魔族との戦闘で怪我をしている。俺は魔力切れなんで、回復魔法の使えるヤツの所に案内してくれないか」
「もちろんです!」
「空間収納も使えないんで、そこの黒剣を一緒に運んでもらえると助かる」
「了解っす!このラーサム、責任もって運ばさせてもらいます!」
と、意気揚々とラーサムが黒剣の柄に手をかけるも、全く持ち上がらなかった。
柄と分厚い刀身を腕で抱え上げるように、ちょうどお姫様抱っこの要領で、額に青筋立てて、ラーサムがなんとか持ち上げる。
けれども、他の連中は彼のことなど気にもせず、さっさと移動し始めていた。
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