表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/80

第三十三話「元魔王、幽閉さる」

 街中央の避難区画を抜けると、ガイは脚力強化の魔法をかけ、東地区へと急いだ。


 ブーハビーズの瘴気転式(デビルズコード)結扉双極(けっぴそうきょく)回廊(かいろう)」内に(ひそ)む三人の魔族は気付いた。


殲滅(せんめつ)魔法と隔離魔法の使い手が魔法を使ったようだ。ある程度の位置が知れたね。ちょうど真逆の離れた位置だ。うまく引き離せたみたいだ」


「じゃあ先に隔離魔法使いの所まで私を送ってちょーだい」


「僕もラスカーファと同じ所で出るよ。ブーハビーズは殲滅魔法使いを頼むよ」


「ああ。まかせとくっしょ」


 バイアケスとラスカーファの二人を、西地区の方に現出させた扉から送り出すと、ブーハビーズは東地区の方へと向かった。


 回廊内の白の扉の一室には、子供や住民が見つからなかったので、死なない程度に痛めつけて捕らえた、巡回(けい)らの任に当たっていた騎士たち三人が、ラスカーファの死魂兵(しこんへい)十体ほどと一緒に入れられていた。


「……ミカナの様子は?」

 右半身をべっとりと血に濡らしながらも、ラーサムは仲間の心配をする。


 灰色の軽鎧(けいがい)に、左手に剣を持ち、ラーサムは周囲の猫頭の死魂兵(しこんへい)を警戒する。


 顔の右半分――目から(ほお)にかけて、ひどい裂傷を負っている。(ひも)で縛って止血はしてあるものの、右肘から先は切り落とされ、ひどい怪我であった。


「血が、血が止まらないよ、ラーサム!ミカナが、ミカナがこのままだと死んじゃう!」


 泣きながらケイシーが、両手でミカナのお腹の辺りを押さえている。けれども、床にできた血溜(ちだ)まりがどんどん広がっていく。


 ミカナは半目を開いた状態で床に横たわり、うわ言のように「さむいさむい」と繰り返していた。


 三人の中ではまだ傷は浅い方だが、ケイシーも太ももを貫かれており、紐で縛って止血はしてあるものの、重傷であった。


 三人は巡回警ら中に運悪くブーハビーズたちと遭遇してしまい、戦闘するも、一方的にやられて捕らえられてしまった。


「なんとか助けがくるまでもってくれ!ミカナ、死ぬなっ!」

 幼馴染(おさななじ)みのミカナを励ますラーサム。

「この春、やっと念願の騎士になれたってのに、いきなりこんな所で死んでいいわけないだろうがっ!」


「ラーサム!ミカナが!痙攣(けいれん)!」


 突然、ミカナが手足をバタつかせる。失血性ショックによる意識レベルの低下か。


「ミカナ!!」

 悲痛な叫びを上げ、ラーサムは血が出るほどに唇を噛む。


「誰でもいいから助けてよ……ミカナを助けて、お願い」

 そばかすの頬を涙でぐしゃぐしゃに濡らして、ケイシーが涙声でしゃくりあげる。


 その頃、回廊の外では――――


 月夜とガス灯が照らす、人通りの絶えた石畳の道を黒い人影が疾駆(しっく)していく。


 通りの先の広場に、鮮やかな赤の扉とその脇に(たたず)む、顔中ピアスだらけでロン毛の、青白い肌をした三つ目の魔族が視界に入る。


「よう!待ってったっしょ」

 ()れ馴れしくその魔族――ブーハビーズは、ガイに声を掛けた。


「お前がバイアケスとやらか?」


「残念。オレはブーハビーズ。バイアケスは北に向かったっしょ」

 ブーハビーズはさらっと答えた。


 たしか北には、ミスリル級パーティーの【銀馬蹄(ぎんばてい)】が向かったはずではなかったか。


(レカイオンが恐れるほどのヤツ。【銀馬蹄(ぎんばてい)】の連中では、荷が勝ち過ぎる。マズいな)


「おいおい、他人の心配か?オレっちはアウトオブ眼中ってか?」


「……その扉、お前が空間を渡る能力者か?」


「ご明察っしょ!」


 虚空から黒の魔剣を抜き放つガイ。


()()()()()()!ちょっとアンタに見てもらいたいもんがあるっしょ」

 赤の扉を開いてブーハビーズが言う。


「入って右から三番目の白い扉なんだが――」


「入るわけないだろ」


「まぁ、そうなるわな。おい、死魂兵(しこんへい)ども!中のヤツらを連れて来るっしょ!」


 ブーハビーズが中に声を掛けると、三番目の白い扉がおもむろに開いた。


「ミカナを乱暴にしないで!」


「触るな!俺たちでミカナを運ぶ!」


 生気のない真っ青な顔をした女に、肩を貸して二人の男女が白い扉から出て来た。


 右半身血まみれの短髪の青年と、足を引きずるツインポニーテールのそばかすの女だ。三人とも騎士団支給の灰色の軽鎧を着ている。


 猫頭の異形たちが、三人の喉や背に鋭利な爪をかざして、いつでも殺せるという格好で取り囲む。


「人質というわけか」


「ご明察っしょ!まぁ、一人は虫の息みたいだけど」


 ぎりりっと奥歯を噛んで、ラーサムはブーハビーズを(にら)みつける。

「人質なら俺一人でいいだろ!二人を解放しろ!」


「お前、うるさいっしょ。死魂兵(しこんへい)、死なない程度に黙らせろっしょ」


 ブーハビーズがそう言うと、猫頭の異形どもがラーサムを殴る蹴るして、ぼろ雑巾のように彼を床に転がす。


「ラーサム!!」


「だ、だいじょぶ……」


「――話が途中だったっしょ。ま、簡単に言うと、このガキども見殺しにすっか、この扉の奥に入るか、単純な二択をアンタに考えてほしいってだけっしょ」


「……………………」


「オレとしては、アンタみたいな強者と()りあってみたいんだけど、とりあえずは仲間の意向なんで。どちらを選んでもらっても、オレ的にはオールオーケーだけど」

 ぎらりと青魚の背のような鈍い光をたたえて、ブーハビーズはガイを見た。


 ブーハビーズは本当にどちらでもいいような顔つきだった。だから、人質の数も少ないし、見捨てても問題ないような、騎士を選んだのか。騎士なら任務で死ぬのも折り込み済みのはず。この非常時に騎士である彼らを見捨てても、ガイが非難されることはないだろう。それを見越して二択を(せま)っているのか。なんてサディスティックな野郎だ。


 祈るような目でケイシーがガイをまっすぐ見つめる。


 ぼんやりとガイは思った。

(アリシアと同じ瞳の色だな。やれやれ……)


「……わかった。言う通りにしよう。扉の内に入ればいいんだな」

 黒剣を空間収納にしまうと、ガイは両手を広げて言った。


「なぁんだ。つまんねぇの」


「出て来たらいくらでも相手してやるよ」


「絶対出て来れないっしょ」


「なるほど。俺をここに閉じ込めるって計画か」


「そうゆうこと。どうっしょ?気が変わったっしょ?」


「そいつら解放するならいくらでも相手してやる」


「それは面白くないっしょ。アンタが自主的にそいつら見捨てて相手してくれなきゃ、意味ないっての。もういいっしょ。さっさと中に入るっしょ」

 猫でも追い払うように手の平をひらひらさせて、興が冷めたブーハビーズは、話を終わらせた。


 ガイはゆっくりと赤の扉をくぐり、中へと入る。


 その背で、バタンと扉が閉められる音と、がちゃりと施錠(せじょう)される音が響いた。


 同時に、猫頭の異形どもがラーサムたち三人を殺そうと動いた。


「やはりな」

 思った通りの展開。


「ラーサム!!!寝てる場合かっ!!」

 と、ガイが一喝(いっかつ)する。


 その声に触発され、

「うぉー!!」

 腹から声を出し、最後の力を振り絞り、左手一本で近くの異形三体に組み付き、その体勢を崩してもろとも床に倒れ込んだ。


「よくやった!」

 その(すき)に、こんな狭い所で魔法を放つわけにもいかないので、ガイは手刀で異形どもを一蹴した。


 ある異形は猫頭を刈り飛ばされ、ある異形は胸を貫かれ、十体ばかりの異形は、ガイによっていともたやすく全て片付けられた。


「ラーサム!ミカナが!もうミカナが……」

 ほとんど反応を示さなくなったミカナを前にケイシーが泣き崩れる。


 その時、ガイが指を鳴らして、効果範囲型の完全回復魔法を三人にかけた。


 みるみる傷が(ふさ)がり、ミカナの顔にも赤みが差し、血色が戻る。ケイシーの太ももも血が止まり、傷が()える。ラーサムの顔の傷も無くなり、右腕すら再生する。


「えっ?手が」


「ラーサム、ケイシー……私、生きてるの?」


「ミカナ!ミカナ!良かった。本当に良かった!」 

 ケイシーは起き上がったミカナを抱き締め、今度は嬉しくて泣いた。


()()()()!本当にありがとうございます!ミカナを救ってくれて!」


 一千の軍勢を一瞬で焼き払った黒き大賢者の活躍は、騎士団、城壁守備隊の間ではすっかり広まり、ガイのことを知らぬ者の方が少なかった。


「あ、ありがとうございます!」

 あわててケイシーも立ち上がり、深々と頭を下げる。


 それに(なら)って、ミカナもガイに向かってお辞儀をした。


「気にするな。それよりここからどう出るかだ。どうやら、この空間に完全に閉じ込められたようだ」


 入ってきた扉のドアノブに手をかけ、開けようとするも、鍵がかけられていて開かない。


 至近距離でファイアボールを炸裂させるも、扉はびくともしない。さすがに魔法では破壊できないか。


 瘴気転式(デビルズコード)による、一定条件下では、他の干渉をほとんど受け付けないタイプの能力のようだ。破壊力や殺傷能力こそさほどないが、条件にハマると底なし沼のように(とら)われ、能力を解除するのがかなり面倒なものであることが多い。


「――さて、どうするか?」


「すみませんっ!俺たちのせいで……」


『申し訳ありません!』

 三人が頭を深く下げて謝る。


「生きてて良かったな、お前の恋人」

 と、ガイはラーサムにそう声を掛けてやった。


「た、ただの幼馴染みっすよ!」


「そうです!ただの!幼馴染みですっ!」


 顔を真っ赤にラーサムとミカナが、息ぴったりに否定した。


「じゃあそっちのツインテールが彼女か?」


「違います!!私はラーサムみたいな子供に興味はありません!どっちかというと、大賢者様のように強くて大人な男性がタイプです!きゃっ」


 別件で頬を真っ赤にして、ケイシーははにかんだ様子で、両手で顔を(おお)った。その指の隙間から、ちらちらガイの表情を(うかが)った。


「ところで、俺のことは知ってくれているようだが、えっと……お前がラーサムでその隣がミカナ、で、お前さんがケイシーで合ってるか?」


「はいっ!!私、ケイシー・リーブス、十八歳!射手座のB型!趣味はパンケーキ作り!父母妹(ちちははいもうと)の四人暮らし!実家は鍛冶屋です!休日は公園で剣の練習をしたり、読書したりして過ごしてます!絶賛彼氏募集中です!彼氏と行きたいデートスポットは……」


「はいはい。もういいから。大賢者様が困ってるから」

 ミカナが強引にぐいぐい行くケイシーを下がらせた。


「それで大賢者様、これからどうします?」


「とりあえず向こう側の扉から全部開くか、調べてきてくれないか」


『はいっ!』

 さっきまで瀕死に重傷だったのが嘘のように、三人は元気よく返事をし、従順に反対側の赤の扉まで走っていって、一個一個扉を調べ始めた。


「……そこそこヤバい状況かもな、これは」

 と、ガイは一人(つぶや)いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ