第三十二話「元魔王、出撃す」
続々と上がってくる嫌な報告に、皆一様に苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「あちこちで襲撃が始まっている。やはり空間を渡れる能力者がいたか」
ガイは眉間に皺を刻み、低く唸った。
「幸い中心部にはまだ被害は及んでいない。けれど、四方八方で異形の襲撃が相次いでいる。中には三つ目の魔族の目撃情報も上がってきている」
騎士団を束ねるミレイが、全員に聞こえるようにそう報告した。
「一番被害の大きい地域は?」
市長が確認をとる。
「東地区だ。巡回警ら隊もかなりやられている。住民の避難は完了しているから、一般人の被害がないのが唯一の救いだ」
と、ミレイは早口に応じた。
「戦力を分散させるのは、本意ではないが、各地区の襲撃を鎮圧せねばマズいことになるぞ」
「……マズいこととは?」
監察官ダグラスはハロルド老に説明を求めた。
「今は戒厳令下で情報封鎖をしておるが、魔族が街に侵入したと住民に知れると、大パニックが起こる。我先にと皆アリアブルグを離れようと、城門に殺到し、統率が取れなくなる。そこを狙われたら、何万の人が殺されることか……」
「なんてことだ!?どうすればいいんだ?」
頭を抱え、ダグラスは机に突っ伏す。そんなことになれば、皇都に返り咲くどころの話ではなくなる。
「戒厳令による情報封鎖もいつまでも保たん。人の口に戸は立てられぬ。そうすれば、被害は今の比ではないぞ。市長、決断の時だ!」
強い口調でハロルド老がロイスに迫った。
「うーむ」
腕を組み、ロイスは天井を仰ぐ。
「最大戦力を中央で囲っていてよいものではない!!彼らの力は街のために振るわれるべきじゃ!」
机を叩き、ハロルド老が煮え切らぬ市長に決断を促す。
「それこそ陽動ではないか?中央に集まる戦力を分散させ、その隙に住民の集まるここを叩くための。中央を守るためにこそ、彼らの力は温存されるべきだ!」
ロイスとハロルドがお互い、意見を譲らず睨み合う。
それまで黙って聞いていた警察署長のジョーが手を挙げて、発言する。
「市長、騎士団の騎士たちや私の部下が、既に何人も命を失っております。今も街を守るため、命を削り、戦っているかもしれません。彼らもこの街の守るべき住民ではありませんか?」
「そうだな……リガード署長の言う通りだな。私が間違っていたようだ。すまない」
なかなか大人になれば、自分の非を認めるのは難しいことだが、ロイスにはそれができる実直さがあった。だから、彼は皇都から派遣されているとはいえ、市長としての尊敬を一身に集めていた。
「エセルバ騎士団長、アスティンギルドマスター、大賢者殿、各地区の襲撃鎮圧をお願いします」
直截簡明に市長は三人に頭を下げ、支援を要請した。
「東地区には俺が向かおう」
「では、私は西に」
「なら私は南だな。騎士団の指揮権は、これよりラーデル第一副団長に預ける。市庁舎及び中央区画の守護に専念し、敵の侵入を絶対に許すな!」
「はっ!」
ミレイの横で直立していた青年騎士が胸に手を当て、勇ましく返事した。
「市長、北が空いているが……。城壁守備隊も、中央の避難者対応と各区画守備にほとんど割り振っており、余剰人員などないが、どうするのだ!?」
監察官のダグラスが青い顔をして、市長を顧みる。
「北には、ギルドからミスリル級パーティー【銀馬蹄】を向かわせましょう」
「助かります」
と、ロイスは素直に頭を下げた。
「よし!反撃じゃ!!各地区の巡回警ら隊へ連絡じゃ!情報の共有と彼らへの協力を最優先にと伝令を回せ!」
ハロルド老が近くの守兵に指示を出し、各地区の警ら隊へ伝令を走らせる。
にわかにその場は慌ただしくなった。
ガイはすっくと席を立つと、さっさと部屋を出ていった。
部屋を出る前、ティファはガイの耳に口を寄せて、
「あなたのお連れは、シュリと一緒に市庁舎近くの学校に避難しているのでご安心を」
と、教えてくれた。




