第三十一話「待つ身」
「あっ。火事だ」
街の中心部にある学校の五階の窓から、東の方を見て、アリシアは呟いた。
「えっ?どこ?」
近くにいたシュリが窓を覗き込んでみるが、全然火の手など見えなかった。
二人のいる学校には、他にもたくさんの人々が巡回警ら隊からの避難指示を受けて、各教室に別れて避難してきていた。
「――東の城壁の手前ら辺。今朝、帰ってきたときにくぐった門の近く。あそこ」
そう指を差してアリシアが言う。
「そんなの見える距離じゃないわよ」
「見えるよ!うっすら煙と火が」
「アリシアには見えても、常人には見えない距離よ。夜だし、暗いし。レカイオン、あなたには見える?」
と、シュリはレカイオンに話を振った。
レカイオンは目を見開いて、東の方をじっと凝視していた。その手が小刻みに震えていた。
「どうかしたの?大丈夫?」
レカイオンの様子が変なのに気付いて、心配気にシュリが声を掛けた。
「……バイアケスが来てる。皆殺される。もうダメ。何もかも終わり」
青ざめ、絶望に打ちひしがれた顔で、レカイオンは俯いた。
「心配ない!師匠がすぐやっつけてくれる!!」
と、アリシアは力強く断言した。
「ガイが……」
なんの根拠もない言葉だが、不思議と安心できた。
「俺の手の届く範囲でなら守ってやる」
そう言った彼の優しげな顔が思い出された。
(きっと大丈夫!ガイがいるから)
レカイオンは心を強くし、ギュッと拳を握った。
「――そうね。マスターも一緒だから絶対大丈夫よ」
「青い髪の人、強いの?」
と、アリシアが訊く。
「強いなんてものじゃないわ。マスターは世界に二十五人しかいない白金級冒険者の一人なんだから。強いのはもちろん、古今東西の魔法の知識に精通し、博学なのよ!しかも可愛い」
シュリがドヤ顔で自慢げに胸を張る。
「師匠の方がすごいもん!黒いし、空飛べるし、でっかい剣ぶんぶん振り回すし、黒いし!!」
なぜか対抗意識を燃やして、アリシアが言い募る。
「そうね。ガイもすごいわね」
「うん!師匠、戦ってるとき、すんごいカッコいいし」
「戦ってるときだけね。なんか普段はエロい目してるわよ」
「それは確かに」
「エロくてもいい。あたし、おっぱいおっきいし」
と、ぼそりとレカイオンが言った。
それを二人がびっくりした表情で見るも、アリシアがあわてて言い返す。
「お、おっぱいが全てじゃないし!私だってまだまだ成長中だし!」
「ガイ、あたしがおっぱい当てるといつも嬉しそうだけど」
(こ、この女!確信犯だったの!?)
と、シュリは驚きを隠せず、亜麻色髪の爆乳ポニーテールをしげしげと見つめた。
「レカイオンは私の後輩なんだから!先輩の私を差し置いて、師匠にくっつくの禁止!」
「やだ。ガイの手あったかいし。はぁ……なんでもいいから、ガイ、早く帰って来ないかなぁ……」
大きなため息を吐いて、レカイオンはぼんやりとした三日月を見つめた。
それはアリシアも思うところは一緒だった。
「……そだね。早く師匠、帰って来てほしいね」
内心シュリも、ティファに早く会いたいと思う気持ちがあるので、二人の気持ちがよくわかった。けど、待つしかない身では、どうか無事であることを祈るばかりだった。




