表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/80

第二十九話「元魔王、待機す」

 ガイら三人が帰り着く頃には、夕陽が城壁を赤々と染め始めていた。


 昼前にアリシアたちとアリアブルグに帰ってきてから、息つく(ひま)もない。


 城門で待っていた騎士たちに馬を預けると、城門前広場に臨時で(もう)けられた天幕(てんまく)の一つに案内される。


 そこでは、市長のロイスと監察官のダグラス、城壁守備隊長のハロルド老、警察署長のジョーの四人が待っていた。


「魔族どもはどうでしたかな?」

 と、代表してハロルド老が(たず)ねてきた。


「取り逃がしたようだ」

 そうミレイがやや憮然(ぶぜん)とした表情で応じた。


 目の(はし)にかかる鮮やかな青の髪を耳にかけながら、ティファは提言した。

「城壁の四方に探索魔法を持つ者を配置し、厳戒体制を堅持(けんじ)しつつ、外からの敵の侵入に備えるべきかと。また敵の中に空間を渡る能力を持つ者がいる可能性があります。そうなると、簡単に城壁内に侵入される恐れが出てきます。なので、市中の警戒レベルも(げん)に引き上げ、巡回(けい)らを強化した方がいいかもしれません」


「では、市中の巡回警らの人員を倍にし、警戒を強化します」

 迅速なジョーの言葉に、ロイスは大きく(うなず)いた。


「ああ、そうしてくれ。すぐ手配を頼む」


「わかりました」


「ギルドからも警ら人員を回せるよう差配します」


「それは有り難い。城壁守備隊もアスティン嬢の提案に従い、探索魔法の使い手を集め、外の警戒をよろしく頼む」


「承知しました」


 ジョーとハロルドは近くの部下を呼び寄せ、すぐさま指示を出す。


「場合によっては市内での戦闘も想定しておかねばな。各区画の住宅密集地の住民に、市庁舎及び市内中央への避難をあわせて呼びかけよう。その他の世帯へは夜間外出禁止令を出し、備えるよう関係各所に通達を」

 と、ロイスも近くの市庁舎関係者に伝えた。


「……それで、取り逃がした魔族はどうするつもりで?」

 ダグラスが口を(はさ)み、騎士団長であるミレイの方に視線を向けた。


「居場所を特定できれば……」

 そう言うミレイの言葉を引き取り、


「そもそも彼らの目的は、このアリアブルグにいる人間の皆殺しだと思うから、人が集まる場所が狙われる可能性が高いと考えるべきかしら?」

 と、ティファは確認を取るように、ガイの方に目線を()り、意見を求めた。


「奴らの目的か……」


「ここアリアブルグは魔族との東の境界だから。さらなる人類圏侵出を企図(きと)するなら、おそらくそれが目的でしょうね」


「なるほど。けど、それは(あと)だろうな。――奴らも馬鹿じゃない。殲滅(せんめつ)魔法で一千の軍勢が瞬時に灰と化したのを見ている。こちらの戦力がそうそう(あなど)れないと理解しただろう。そして、その()に現場を見に来た俺たち三人の様子を、どこかから(うかが)っていたはずだ。きっと俺たち三人が、この街の最大戦力と認識しただろうから、まずその俺たちを(つぶ)すべく動くに違いない」


「だとすれば、腕の立つ者を多く、巡回警らに配置し、警戒対策を強化することで事は足りそうですね」

 ふと、ダグラスが発言した。

「大賢者殿のお話では、相手もお三方(さんかた)を潰そうとしているとのこと。それなら向こう側が勝手に現れてくれるはず。彼らの思考からすれば、一番手っ取り早い襲撃という形で陽動を仕掛けるのが常套(じょうとう)でしょう。だから、巡回警らを最大限に強化して、一般人に被害が出ないよう対策し、襲撃場所にお三方がすぐに駆け付ければ、魔族らの居場所を特定できる」


「やはりこちらから仕掛けるのは難しいか」

 乱暴に巻き毛を跳ね上げて、ミレイは苛立(いらだ)たしげに言った。待つのは性分(しょうぶん)ではなさそうだ。


 ガイは腕を組み、

「相手の出方を待つしかない」


「相手に主導権を握られるのは(しゃく)じゃが、(つね)、守る側はそれをどう(さば)くかで真価が問われるものじゃから、仕方あるまい」

 長年城壁を守り続けてきたハロルド老がそう(つぶや)く一言には、重みがあった。


「では、お三方には市庁舎の方で待機願います。何かあればすぐに連絡しますので。少しご休憩ください」

 と、市長が言った。


「襲撃を待つというのも気が気でないですが……」

 眉根をひそめ、ティファが言うのもわからなくもないが、他に方法がないのだからしょうがない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ