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第二十八話「元魔王、取り逃がす」

 辺り一帯、完全に焦土と化していた。


 とても生き物がいるとは思えない状況であった。見渡す限り、大地は真っ黒に焼かれ、消し炭が風に吹かれて、焦げた臭いしかしない。


 そこに生きとし生けるものの気配を全く感じない。


「……ここまで苛烈(かれつ)(きわ)める(さま)は、今まで見たことがない。火の勇者でもこれほどの(ほのお)は、使いこなせてはいなかった。(すさ)まじいな」

 ミレイは顔をしかめ、舌を巻く。


「これほどの極大魔法を扱える人がまだいたなんて、素直に驚きね。本当に現代の大賢者ね」

 ティファも驚きを隠し得ず、感嘆(かんたん)(あら)わにする。


「雑魚は一掃できたが、どうやら三体の魔族は仕留め損なったようだ。この隔離空間内に、(わず)かに瘴気(しょうき)の気配が残る。おそらくは瘴気転式(デビルズコード)による、何らかの固有技能(ユニークスキル)(なん)(のが)れたみたいだな」

 辺りを一通り探索し、ガイはそう結論付けた。


「空間を渡る能力ならマズいわね。簡単に街に侵入される恐れが出てくるわ」


「これからどうする?」

 ミレイは二人に意見を求めた。


「奴らがそう簡単に(あきら)めるとは思えない。再びの襲撃に警戒しつつ、奴らの行方を追うべき。探索魔法の使い手が二十人程いれば、四方に網を張れるだろうが、空間を渡る能力であれば、発見は難しいかもしれん」


「一度街に戻り、報告すべきね。探索魔法を扱える人員の確保をまず依頼しないと。次、どういう形で仕掛けてくるか。このまま厳戒体制を堅持(けんじ)しつつ、対応するしかなさそうね」


「こうなると、敵側も慎重にならざるを得まい。そう迂闊(うかつ)な行動は控えるだろうから、こちらから攻めるというわけにも、簡単にはいかない。出方を待つしかないな」


 三人は馬の(きびす)を返して、急ぎ街へ戻ることにした。


 そんな彼ら三人の様子を、レーベ川の対岸から遠目に遠望する影が三つ――――バイアケスたちであった。


 額の三つ目は、人の視力の十倍はあり、この距離でも三人の様子をつぶさに見ることができた。


 その目のおかげで、城壁上でガイが殲滅(せんめつ)魔法の詠唱に入るのにいち早く気付き、ブーハビーズの固有技能(ユニークスキル)で難を逃れることができた。


忌々(いまいま)しい人間どもめ!!こうもこの僕の計画をことごとく邪魔しくさりやがって!」


「まぁ、いいじゃない。あの軍勢もどうせ使い捨てだったわけだし」


「外からが無理なら、オレの能力で内から攻めればいいっしょ!さすがに街中であの極大魔法はぶっ放せないっしょ」


「街の内側にも、ドブネズミや犬猫の類はいるわけで、私の死魂(しこん)兵だっていくらでも生み出せるしね」


「それに、あの黒ずくめの男はそこそこヤバいっしょ。あの男をどうにかする対処方法を考えとかないと、下手したら下手するっしょ」

 と、顔中ピアスだらけの一見非常識そうなブーハビーズが、ボキャブラリーこそ貧弱だが、的を射た意見を述べる。


「それより、歩き()めで疲れたわ。だから、ちょっと休憩したいわね。はぁ〜あ」

 と、そもそもやる気のないラスカーファは、ジェエリーネイルを見せびらかすように大きく広げた手を口に当て、あくびをした。


「ラスカーファがそう言うならそうしよう」

 バイアケスは一も二もなく、愛しのラスカーファの提案に賛成した。


「ブーハビーズ、ラスカーファのために()()を頼むよ」


「まかせとくっしょ!瘴気転式(デビルズコード)結扉双極(けっぴそうきょく)回廊(かいろう)


 ブーハビーズが印を結ぶと、何もない空間に突然、真っ赤な扉が出現した。同時に、ブーハビーズの手に三本の鍵が現れる。


 そのうちの赤い鍵を用い、扉を開ける。


 赤い扉の先は、回廊となっており、その回廊の左右には青と白の扉がいくつかあった。そして、回廊の一番奥の突き当りには、入口と同じ赤い扉がある。


 ブーハビーズは青い鍵をラスカーファに渡した。


 その鍵で青の扉の一つを開けて、

「少しこの部屋で休ませてもらうわ。また夜になったら声をかけてちょーだい」

 と、ラスカーファは言って、部屋に入って扉を閉めた。


 ブーハビーズの固有技能(ユニークスキル)は、扉を生み出し、回廊内にいくつかの空間――部屋を生成する能力と、赤い扉を行き来することで、扉の直線上、一キロの距離までを任意に移動できる能力であった。


 ただそれには、扉と一緒に出現する鍵が必要であった。また、生き物が回廊内にいるときは入口を消すことができないという条件と、鍵を持つ者が回廊内にいる場合、入口の扉の出入りは自由にできるという条件があった。


 だから、ブーハビーズはバイアケスを回廊内に入れると、土壁(つちかべ)を作るアースウォールの魔法で入口を(ふさ)いだ。


 入口を塞いでも、もう一つの出口となる扉から、鍵があれば出ることができるので、なんら問題はない。


「相変わらずなかなか便利な能力だね」


「だけど、戦闘には全然使えないっしょ。本音言えば、オレもバイアケスやラスカーファみたいな直接戦闘に向いた能力が良かったんだけどなぁー」


「ブーハビーズは能力なしでも、そこそこ強いんだからいいじゃん」


「ま、たしかに」

 と、あまり深く考えず、ブーハビーズは長髪を()きあげて、そう応じた。


「で、バイアケス、次はどうするつもりっしょ?」


「夜の闇に紛れ、街に侵入し、ラスカーファの死魂(しこん)兵で街を襲撃する。その騒動に乗じて、さっきの三人をまず(つぶ)す。おそらくあの三人が主力だろう。けど、ブーハビーズの言う通り、あの黒ずくめの男はヤバそうだから、君の回廊にヤツを幽閉しといてもらえると助かる」


「なるほど!いくら強くても、回廊内に閉じ込めれば無力化できるってことか!」


「まぁ数ヶ月、回廊に幽閉しておけば、餓死させられるでしょ。鍵が無ければ、扉は内からも外からも開かないわけだしね。死ねば生き物じゃなくなり、扉は自然と消えるから、生死も判別し(やす)い」


「そういう封印的な使い方もあるのか!新しい気付きっしょ、これは!さすがバイアケスっしょ!」


「残りの二人は、三人で()れば余裕でいけるでしょ。ブーハビーズの固有能力(ユニークスキル)がなくても、僕とラスカーファの能力があれば、後は十分」

 と、バイアケスは不敵に笑った。

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