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第二十五話「元魔王、厄日である」

 アリアブルグに戻ると、城壁からして、物々(ものもの)しい様相を(てい)していた。


 城壁上には、大口径の大砲が等間隔に(いく)つも設置され、物見(やぐら)が限界の高さまで高くされ、周囲を警戒している様子がありありと伝わってくる。まさに厳戒体制である。


 三人が都市内へ入場のために、城門前の列に並んでいると、一人の衛兵が駆け足で三人の前にやって来た。


「よくぞご無事で!お二人がお戻りになられたら、ギルドまで馬車でお連れするよう言われております!」


 衛兵の青年がビシッと敬礼し、ガイとアリシアを出迎えた。手にはメモが(にぎ)られている。おそらくガイとアリシアの服装や容姿の特徴が書かれているのであろう。


「ご苦労であります!」

 と、アリシアが青年を真似(まね)て、ビシッと敬礼ポーズを返した。心なし狐耳(きつねみみ)もピンッとまっすぐ立っているように見えた。


 ちらりとメモを見て、青年が(たず)ねる。

「あの、そちらの御婦人は?」


「愛人です」

 にっこりともせず、レカイオンが真顔で答える。


「わっ、バカ、違う!ややこしいことを言うな!話が変な方向に()れたら、面倒だろうが。――事情があって森で保護した女性だ」


 そうガイが端的(たんてき)に説明すると、急にレカイオンがローブをたくし上げ、手の平を上にして、衛兵の青年に手相を見せながら、

「おひかえなすってぇ!あたしゃ鹿人族(かじんぞく)のレカイオンと申します。以後お見知りおきを」

 と、突然仁義を切った。


「……どこで、そんなあいさつを覚えた?いつの時代の侠客(きょうかく)だよ。俺でもリアルで見たことないわ」


「アリシアがみんなこうやってあいさつするって教えてくれた」


「あいつは……」

 (とう)のアリシアは、吹けもしない口笛を吹くふりをして、すっとぼけた顔をしていた。


「さぁ、こちらに!」

 と、青年が気を()かして、さらりとレカイオンの仁義を右から左へ受け流して、馬車へと三人を案内してくれた。


 よくできた青年だ。ガイは青年にせめてものお礼にと、大銀貨三枚をこっそり手渡(てわた)す。


「こんなの頂けません!」


 愚直(ぐちょく)な青年が大銀貨を返そうとするも、何も言うなとばかりにガイは首を振って、

「ツッコまずにそっとしといてくれてありがとう。受け取っといてくれ」


気苦労(きぐろう)お察しします」

 しみじみとした口調で青年は言って、深々と頭を下げ、サッと大銀貨を(ふところ)にしまった。一度は固辞(こじ)するも、何度も断るのは悪いと、ちゃんと心得ている者の所作(しょさ)だ。


 本当によくできた青年だと、ガイは感心した。


 そんなどうでもいいやり取りを経由して、三人はギルドに到着した。


 ギルド正面の扉を開けると、受付カウンターからエミリエンヌがぶんぶんと手を振ってきた。


「ガイさん、アリシアさん、おかえりなさい!四階のマスタールームで、マスターとシュリ先輩と【銀馬蹄(ぎんばてい)】の面々が待ってますよ!」


【銀馬蹄】って確か、ミスリル級パーティーだったか。西の探索をまかせるって、ギルマスが言ってたっけと、ガイは自分の記憶を確認しつつ、四階へと階段を上がっていった。


 マスタールーム前に、シュリが立っていた。


「あっ!ガイ、アリシア!無事で良かった!」


「シュリも元気そう!二日振りだね」

 アリシアはシュリに駆け寄って、両手の手の平をお互い合わせて、再開を喜んだ。


 なんか女子らしいほのぼのした光景に、一人ガイは目を細めた。


「ところで、彼女は誰?」

 眉間(みけん)(しわ)(きざ)んで、唐突(とうとつ)(けわ)しい顔つきになって、シュリが()いてきた。


「あい……!?」

 すると、レカイオンが門番の青年にかました、(きわ)どいボケをかまそうとしたので、あわててガイは口を(ふさ)いだ。


「あい、何?」


「あい、あい、あい……、あれだ、あれ。合鴨(あいがも)のローストって美味しいよね!」


「いきなり何よ、それ。そんなわけないでしょ」

 シュリが冷たい目でこちらを見つめている。


 なぜか分からないが、冷や汗が止まらない。


 ここを切り抜けるには、シュリの思考の(なな)め上を行く答えを用意するしかない。


 そうだ!ガイは(ひらめ)いた。


「彼女は魔族のレカイオンです。仲間になりました」

 にこにこして、ガイは正直に伝えた。どうせ隠すつもりもないし。


「え、えぇぇぇー!?……はぁ?魔族?鹿人族じゃなく……?」


「うん、そう。魔族。街の皆が恐がるといけないから、門番には鹿人族と伝えておいたよ、てへぺろ」


「てへぺろじゃないわよ!!あんた、馬鹿なの!!人と魔族が仲良くなれるわけ……」


「ある!!!!!!」


 シュリが言おうとした言葉を打ち消すように、その先を彼女に言わさないように、ガイは大声で言い切った。


 シュリもアリシアもレカイオンも、いつにないガイの声の大きさに驚きを隠せなかった。


 三人とも黙り込んでしまう。


 そして、ガイは(おだ)やかにこう続けた。

「……人の中にも(いや)なヤツもいれば、魔族の中にも気の合うヤツもいる。種族なんてどうでもいい。誰がなんと言おうと、レカイオンはもう俺の大切な仲間だ。そして、アリシア、シュリ、お前らも。ただすぐには受け入れられないヤツらもいるだろう。そいつらには配慮はするつもりだ。けど、シュリ、お前には嘘を()きたくはなかったから、正直に話した」


「ずるいわね。そんな風に言われたら、彼女を否定できないじゃない」


「すまない」


「何謝ってるのよ!謝ることなんて別にないわよ。逆に謝らないといけないのは私の方よ。よくよく考えたら、私ら獣人も被差別民なわけだし、魔族だからって差別することは、私らを差別するヤツらと同じになるところだった。そんな差別発言をしてしまうところだったのを、止めてくれてありがとう、ガイ」


 そう言ってシュリは、レカイオンの方に向き直って、左手を差し出し、

「改めまして。私は、シュリ・シュナ。これから仲良くしてくれると嬉しいわ」


「あ、あたしは、レカイオン・ラー。よ、よろしく」

 と、たどたどしく言って、レカイオンは恐る恐るシュリの手を握った。


 シュリはその手をギュッと握り返してきた。心地いいぬくもりと手の圧だった。


 しばらくレカイオンは不思議そうに自分の左手を(なが)めていた。


「ガイの手も(たくま)しくていいけど、シュリの手も柔らかくていい」


「どういうこと?二人は手を繋いで歩いてるわけ?」

 再び眉間に深い皺を刻んで、峻厳(しゅんげん)な顔でシュリが問う。


「うん。いつもこんな感じで」

 ぴとっと、ローブの下に隠された、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な柔らかさをガイの腕に押し当てて、()じらいある様子でわずかに(ほお)を赤らめたレカイオンが答えた。


「……ガイ・グレーシアスさん、奥の応接間へ、ど・う・ぞ!」

 急によそよそしく、語尾を強めでシュリが言うのに、なぜか途轍(とてつ)もない恐怖を感じるガイであった。


 しかし、下手に何か言えば藪蛇(やぶへび)になり兼ねないので、ちらちらとシュリの顔色を(うかが)いつつ、部屋へと入る。


 シュリはツンとした顔をしていた。とにかく機嫌(きげん)が悪そうだ。なぜ急に?と朴念仁(ぼくねんじん)は思うが、(さわ)らぬ神に(たた)りなしと判断し、彼女の前を通り過ぎようとしたら、思いっきり(すね)を蹴られた。


 余りの痛さに声も出せず、(うずくま)るガイ。脛と足の小指は元魔王だろうと痛いのよ。


「あら、ごめん遊ばせ。つい足が出てしまいましたわ」


 今日は何かと気苦労が()えない。


(ああ、とんでもない厄日(やくび)だ、今日は)

 そう思いつつ、ガイは応接間のドアを開け、中へと入った。


 部屋の中では、サラサラロングの青髪(あおがみ)エルフのギルドマスターと、ゴツいガタイの剣士、魔法杖(まほうづえ)を持つ魔女、羽根帽子の狩人(かりゅうど)、キャソックを着用する少女の五人が立ち話をしていた。


 ガイたちが部屋に入ると、話を()め、それぞれ視線を彼ら三人に向けた。


 狩人の青年がガイを見て、(のど)をゴクリと鳴らした。その彼の横腹をキャソックの少女がつつく。


 視線の外にいたシュリがサッとギルドマスターティファのもとに駆け寄り、何事かを耳打ちする。おそらくレカイオンのことを伝えに行ったのだろう。


 さすがにギルドマスターは肝が座っている。報告を受けても顔色一つ変えずに、何事もなかったかのように、ミスリル級パーティー【銀馬蹄】の面々を紹介してくれた。


 お互い軽くあいさつと自己紹介を交わすと、タイミングを見計(みはか)らって、ティファが話を切り出した。


「まずは、お互いの探索結果の()り合わせをしましょう」


「それじゃあオレたちから」

 と、手を挙げ、【銀馬蹄】のリーダーである、斬鉄の通り名で知られる剣士ガルフが話し出す。


「西の探索についてだが、我々【銀馬蹄】のメンバーがキメラ二体に遭遇し交戦した。動物型のキメラの討伐には成功したものの、人型のキメラには手傷を負わせるも、逃走を許してしまった。人型のキメラとはわずかに言葉を交わすも、有益な情報は得られなかった。遭遇場所は、アリアブルグから一日ほどの距離で、普通はあんな所に自然にキメラが現れたとは考えにくい。ましてや、人型のキメラなど自然発生するわけがないことを考えると、何者かの作為を感じる。以上が我々からの報告だ」


「ガルフさん、ありがとう。では、ガイさんからもお願いします」


「ああ。東では魔族と交戦し、討伐したということは、シュリから聞いてるか?」

 ガイの問いかけに【銀馬蹄】のメンバー全員とティファが(うなず)く。


「さらに奥でも魔族と交戦した。その魔族から、今回のアリアブルグ襲撃の首謀者(しゅぼうしゃ)は、バイアケスという魔族だという情報を得た」


「魔族が三人も関わっているの!?」

 爆炎の異名を持つ魔女ルーリアが、思わず声をあげた。

「……ごめんなさい。話を続けて」


「いや、俺からは以上だ。他に情報らしい情報はなかった」


「最後にギルドから、とても悪い報告を」

 ティファがそう前置きして()げる。


「北北東からおよそ一千近くの人型化け物の軍勢を(ひき)いて、三人の魔族がアリアブルグに向かい、進軍しているという情報が入って来ました」


「一千の軍勢って……」

「さらに魔族が二人も加わって……」

 千里必中と名高い弓使いクレストとキャソックを着る聖女ミアが、蒼白の顔色で(つぶや)く。


「それで、城壁にあれだけの防備を整えていたのか」


「ギルドが今持つ情報はすべて、市長に(すで)に報告しています。ギルドとしてもアリアブルグ防衛に最大限の協力をしていくつもりです。それで、これから市長とアリアブルグ騎士団関係者及び城壁守備隊関係者との都市防衛会議が市庁舎で開かれる予定です。つきましては、ガルフさんとガイさんのお二人には、(わたくし)と共にその会議への臨席(りんせき)をお願いしたく思います」


「わかった」


「承知した」

【作者からのお願い】

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