第二十三話「元魔王、ケツを捻り潰される」
「どうして、レカイオンは当然のように師匠と手を組んで歩いてるのよっ!」
五月に近付き、日も伸びてきてまだ明るかった。
なので、少しでも早くアリアブルグへ戻るため、もと来た道を辿り、歩いていた道中のことである。
「だって、あたし、丸腰だから、ガイの近くにいないと危険」
「だからって、デートみたいに手を組む必要はないでしょ!」
「暗くなってはぐれても大変。手をつないでた方が安全。合理的な理由」
抑揚のない、平坦な声で言う割には、頬だけはほんのりピンク色をしているレカイオン。
「師匠からもなんとか言ってよっ!」
「ガイもイヤじゃないでしょ?」
凶悪なまでの柔らかさをガイの腕に押し付けて、レカイオンは言った。
「え、ま、まぁ……エスコートくらいはも、問題ないかな」
アリシアの言う通りの隠れ爆乳だと、ガイは腕を通して深く理解した。
完全に鼻の下が伸び切っていた。
「ぎょえあ!!ケツがぁー!?ケツ、もげたー!?」
アリシアが全身全霊でガイのケツ肉を捻り潰す。
ガイはその場でケツを押さえて、地面に倒れ伏す。
どうやって捻ったら、これほどまでの激痛を与えられるのか?世界七不思議の一つだと、ガイは思った。
「ガイ、大丈夫?」
無表情なレカイオンが、ちょっぴり頬を紅潮させて、顔を覗き込んでくる。
思ってる以上にレカイオンが可愛すぎる件だ、これは。しかし、この件にしっかり対処せねば、このままではケツがなくなる。もはや半分取れかけてる気さえする。
「ごほん」
変な咳払い一つして、
「護身用に武器はあった方がいいな。何かいいのはあったかな?」
ガイは起き上がって、虚空に手を突っ込んで、空間収納のアイテムボックスから、二振りの剣を取り出す。
「こいつは水精の加護を受ける連星剣だ。双剣を扱うレカイオンにぴったりの剣だろ。柄の先にある水晶の青が濃い方がリチュア、薄い方がレポアという名をしている」
「ガイ、ありがとう」
「良かったね、レカイオン。これで師匠の手をずっと握らなくてよくなったね」
アリシアが皮肉交じりな笑顔で言うと、
「別に危なくなくても、手を繋いだらダメってワケじゃない。さ、行こ。ガイ」
と、レカイオンは連星剣を腰に差すと、どこ吹く風で、ガイの腕に手を絡めて歩き出そうとする。
「じゃあ、私も!!」
負けじとアリシアがガイの反対の手を握る。
なんかバチバチ睨み合ってるんですけど……。恐くて何も言い出せずに、ガイは両手に花で歩いていく。
しばらくして、レカイオンがぼそりと呟く。
「……あたし、ずっとガイと一緒にいられないかも。あたし、魔族だから、額に角あるし、人の街には入れない」
「そのくらいの角なら、鹿人族で通せば大丈夫よ。鹿人族の女性や子供には、あなたと同じくらいの角を生やした人もいるから」
アリシアはツンと横を向きながら言った。
これぞ、教科書のような、見事なツンデレ!とガイは思ったが、口にした途端、ケツを永遠に失うような気がして、あえて黙っておくことにした。
「アリシア、教えてくれてありがとう」
「べ、別にレカイオンのためじゃないし!師匠が優しいから、あなたが街に入れないと困るだろうと思って、言っただけだし」
口を尖らせるアリシアもなかなか可愛いところがある。
「アリシアは優しいな」
と、ガイはアリシアの頭をもふもふと撫でた。
「師匠、ふふふ」
くすぐったそうにしていたが、アリシアは笑顔で、ガイに撫でられるままにしていた。
それを羨ましそうにレカイオンが見ていた。
そうして、三人はアリアブルグへの帰途を急いだ。