表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/80

第二十一話「元魔王、斬り結ぶ」

 物心(ものごころ)が付いた(ころ)には、レカイオンは(すで)に戦場にいた。


 数百年に及ぶ魔王の不在により、魔族間の統制は失われ、対人類圏だけでなく、魔族同士の争いも激化していた。


 多くの命が毎日失われていくのが日常だった。


 さっき昼ご飯を一緒に食べていたヤツも、昨日話したヤツも、一昨日(おととい)他愛(たあい)もないことで笑いあったヤツも、みんなみんな死んでいった。


 その(たび)に心の濃度が薄くなっていくように、感情は希薄になり、生存本能のみが先鋭化(せんえいか)していった。生き残ることが至上命題であり、生きる全てであった。


 その先鋭化した生存本能が告げる。


 逃げろ、と。目の前のこの男はヤバい、と。


 そうは言っても、簡単に逃がしてもらえる相手ではない。


(すき)を突いて逃げるタイミングを(はか)らねば)


 レカイオンは双剣を手に正面から仕掛けた!


 乱舞(らんぶ)のように、上段、中段、下段、前後左右――四方八方から連撃を()り出すも、そのことごとくを黒剣で受け流される。


「先程の斬れ味はどうした?逃げ腰の剣だな、レカイオン。まだ左腕のヤツの方がマシだったぞ」


「ベイロフォンか……、ヤツはどうした?」


(おそ)ってきたから返り討ちにした」


「……………………」


 レカイオンの双剣を(つば)で受け止め、鍔迫(つばぜ)り合いの状態に持ち込み、ガイが()く。


「なぜ、お前たちはアリアブルグ襲撃を(くわだ)てる?」


「さぁ、知らない」


「知らない?」


「ああ、聞いてない」


「何も聞かず、何をするかもわからず、お前は従っているのか?」


「そう言われれば、そうなるか」


 レカイオンがとぼけているようには見えない。本当に知らないのか。


「じゃあ、お前は何のためにここで俺と戦っている?」


「……何のため?」

 首を(かし)げ、考える素振(そぶ)りを見せるレカイオン。


(まるで他人事(ひとごと)。コイツは何を考えている?)

 ガイはふと興味を覚え、ギリギリ……と剣を交差させたまま、答えを待つ。


「……ただ生きるためにずっと戦ってきた。そこに理由なんてなかった」


「ただ生きるためか。……そうかい。なら、全力で来い。死にたくなければ、死ぬ気でかかってこい!」


 膂力(りょりょく)でレカイオンを押し切って後ろに下がらせると、ガイは大魔法を放った!


「ティアーズ・インフェルノ!!」


 地を裂き、吹き荒れる火群(ほむら)がレカイオンに向かい、(ほとばし)る。それはまるで激しい炎の波のように、レカイオンに襲いかかる!


 これはまずい!直撃すれば無事では済まない。出し惜しみしていたら、ここで終わる。


「――瘴気転式(デビルズコード)!『流絡纏剣(りゅうらくてんけん)』!!」


 レカイオンは瘴気(しょうき)による固有能力(ユニークスキル)を発動し、ガイの魔法による(ほのお)をその双剣で切り裂いた。


 すると、切り裂かれた焔は双剣に(まと)わりつき、その力は剣へと宿り、(すさ)まじい業火(ごうか)の刃と化す。それをもって、再びレカイオンが連続攻撃を仕掛ける!


「魔法を吸収する能力か!?」


 業火を纏う双剣を黒剣で受けるも、受ける度に双剣からは焔が吹き出し、ガイの肩や腕を焼く。


 ガイは回復魔法を連続でかけながら、斬り結ぶ。


 お互いに(はげ)しい乱撃の応酬(おうしゅう)


 やがて、双剣に(たくわ)えられた焔が尽きるも、徐々にガイが押され始める。


「その双剣に触れると、魔法だけでなく、物理的な衝撃や力まで吸収され、反射されるのか。つまりは自分で自分を(なぐ)っているようなものか」


「それだけじゃない」


「何っ!?」


 上段から振り下ろされた双剣を、黒剣でガードしきれず、ガイは胸を右袈裟(げさ)に大きく斬り裂かれた。血飛沫(ちしぶき)が飛び散る。


「師匠っー!?」

 アリシアの叫び声が聞こえた。


「問題ない。お前はワイバーンに集中しろ!」

 と、ガイは叫び返した。


 回復の(いとま)を与えまいとレカイオンが剣撃の乱打で追撃をかけてくる!この機会を逃せば後はないとばかりに。


「吸収した力を累積し、一気に放出することもできるのか。それで俺のガードを(つらぬ)いてきたのには、正直驚かされたが――」


 レカイオンの猛攻に継ぐ猛攻!剣撃を雨あられのようにガイに()びせかける!


 ガイは黒剣を盾に防戦を()いられるが、言葉には余裕があった。むしろ(あせ)っているのはレカイオンのように見えた。


「その傷でどこまで持つか!」


「聖剣の斬撃に比べれば浅傷(あさで)だ」


「聖剣って!?」


「おっと、口が(すべ)った。それより、お前の手の内は知れた。あれで仕留(しと)めきれなかった以上、レカイオン、お前の負けだ。そろそろ終幕(しゅうまく)にしよう」


 そう言って、ガイはアリシアの方をちらりと見た。


 アリシアがちょうどワイバーンの口に魔法筒(マジックスクロール)の赤を放り込み、退避(たいひ)する背が見えた。


 ガイはアリシアが見ていないことを確認すると、黒の剣の瘴気を開放した。爆発的な瘴気開放に双剣が(はじ)かる。


「その剣……魔剣か!人の形姿(なり)をしているが、お前は魔族だったのか!?」


「死ぬ気で防御しろよ。でないと、死ぬぞ」


 ガイは黒剣「影を飲むもの(スワロー・シャドウ)」を水平に、小細工(こざいく)なしにただただ一閃した!


 至近距離でそれをまともに受けるレカイオン。ほんの一瞬、双剣が黒剣を受け止めるも、あっさりとへし折られ、レカイオンの身体は容赦ない勢いで吹っ飛ばされた!


 川の対岸の崖を深く(えぐ)って、レカイオンは止まった。粗略(そりゃく)に投げ出されたレカイオンの足が、完全KOを物語っていた。


 時を同じくして、ワイバーンが口から煙を吐き出し、どうっと横倒しに倒れた。


 戦いは決着した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ