第二話「勇者召喚儀式」
元魔王様が派手に空から落下中の同刻――――
ユリティース皇国第二儀式場では、三百人に及ぶ術者による集団儀式魔法が敢行されていた。
儀式場の床一面にイリア文字とメナス文字が描かれ、光の線で結ばれた六芒星の中央に立つ少女が、不意に膝から崩折れる。
「アンテレナート姫様!!」
少女が崩折れるのとほぼ同時に、百人近くの術者も一斉に、倒れたり、膝を付いたり、酷い者では卒倒するものが出た。
「心配はいりません」
駆け寄ろうとした騎士の青年を手で制し、ユリティース皇国第一皇女アンテレナート・フェイト・ユリティースはすっくと立ち上がった。
「アンテレナートよ、勇者は何処だ?召喚は成功したのか?」
儀式を見守っていた第四十三代ユリティース皇ラキトゥス・フェイト・ユリティース六世は、倒れる者たちを気にも留めずに彼女に訊く。
風に揺れる金色の絹を思わせる美しい長い髪に、海のように青い瞳の少女は顔を曇らせて答えた。
「召喚には成功しましたが、術式を途中で強制解除されてしまいました」
「その者は我が国を、ひいては人類圏を守ることのできる力の持ち主であるのか?」
「それはもちろん。我が国が誇る魔導部隊三百人の集団儀式魔法をたったお一人で強制解除するほどのお力をお持ちですから」
「ならばすぐに探し出し我が国に招聘せねば!何処にその勇者はいるのか?」
「おそらくは東の辺境域辺りかと。そこで反応を消失してしまいましたから」
「アンテレナートよ、探し出せるか?探し出せるなら急ぎ勇者殿を迎えに行って参れ。大きな魔力場の動きを他国も察していよう。先を越されてはならん!」
「仰せのままに。彼の方の魔力紋は記憶しました。近くまで行けば特定可能でしょう。すぐに出立致します。マディス近衛兵長、機動力重視の編成で準備をお願いします」
直立不動で控える騎士の青年にそう声を掛けると、アンテレナートはわずかに倒れる者たちに一瞥をくれるも、足早に儀式場を後にした。
「千年前に勇者ラクス・フェイトが疾黒の魔王を討ち滅ぼしたというのに。魔族は衰えるどころか、人類圏の半分まで侵食して来ようとは。もはや召喚勇者が一縷の望み。アンテレナートよ、頼んだぞ」
頭を抱え、王は祈るように呟いた