第十八話「元魔王、落とし前をつける」
少し時間は遡る――――
木々や岩の残骸を退け、ガイは首をコキコキと振って、半身を起こした。
「いてててて……奇襲とはいえ、派手に喰らっちまった。魔法無効化を貫通してくるとは……火傷に加え、右腕いかれたか」
火球が被弾した胸部は焼けただれ、ケロイド状になっていた。右腕も完全に骨まで砕かれ、プラプラしている。
これだけのダメージを完全回復させるとなると、魔力消費量が半端ない。プラス飛翔魔法を今日は二回も使っている。
(魔力が保つかどうか……最悪、アレを使えばなんとかなるか)
と、考えながら自身に回復魔法をかける。
それより二人が心配だ。
ガイは跳ね起きるなり、脚力強化の魔法をかけながら駆け出した。
するとすぐに、ちょうどアリシアがベイロフォンに向かって、突進していくのが遠目に見えた。
間に合わない!
無茶だ!とガイは思った。ぐちゃぐちゃにアリシアが潰される光景が脳裏をよぎる。が、ガイの予想に反し、アリシアは大岩に叩きつけられるも、なんとか生きていた。
「あいつ……気迫で魔族を圧倒し、わずかに下がらせたのか!?なんてヤツだ」
ガイは感嘆すると同時に、ほっとした。少しばかり気が抜けて歩が緩む。
アリシアがこちらを見て笑っていた。
「まったくヒヤヒヤさせやがって。さて、後は俺の仕事だな」
虚空から愛剣を取り出すと、ガイはベイロフォンへと向かった。
「よう。うちの弟子が世話になったな。この落とし前、お前の命でつけてくれるんだろうな?」
「貴様、あれを喰らって生きていたのか!?」
と、目を見開き、驚きのベイロフォン。
「何を驚いている?お前のちゃちな判断基準で決めつけるなよ」
「図に乗るな、小僧が!」
「どっちが小僧か、わからせてやる。来いよ、坊や」
かかってこいとばかりに、手をクイクイっと、小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべ、ベイロフォンを挑発する。
「上等だ!舐めた口を利いたことをあの世で後悔するといい。……ウェアリング・フレア」
炎を左腕に纏わせたベイロフォンが襲い来る!炎の豪拳を振り上げ、雷撃よろしく振り下ろす!
身動ぎ一つせず、それを真正面から受けるガイ。
がぎっ!!ずざざざざざっ!!!!
黒の魔剣を真一文字に、燃え盛る豪拳を真っ向、受け止めた!その衝撃に踵が地を抉って滑るも、完全に受け切る。
「ぬるいな。炎とはこういうものだ。ライジング・メテオライト!」
燃え尽きる流星の如き火柱が、ベイロフォンを足元から焼き払う。業火が全身を一瞬にして飲み込んだ。
「ぐおぉぉぉぉーッ!!」
しかし、まだ倒れない。
「なかなかタフな野郎め」
そこに、ガイが追い打ちをかける。黒剣による無数の斬撃を浴びせかけ、一気に畳み掛ける!
ベイロフォンは左腕を盾に防戦一方。
全身を焼かれ、さらには斬撃の裂傷で、体中から血を吹く――血みどろのベイロフォン。だが、その口が笑みの形に引き歪む。
「まさかまさか……このオレがここまで追い詰められるなんて」
不穏を感じ取り、ガイは残り少ない全魔力を注ぎ込み、キメにかかる。
「燃え散れ!ライジング・メテオライト!!」
再び隕石を焼き尽くすほどの火柱に包まれるも――また二度の業火に全身を焼かれながらなお、ベイロフォンは立っていた。
「これでも倒れないか。腐っても魔族か」
「こんなところで奥の手を使うハメになろうとは……特別に貴様に地獄を見せてやる」
「チッ。倒しきれなかったか」
「――瘴気転式!『魔開暗流転』!!」
瘴気を魔力のように力に転化し、それぞれ特有の固有能力を発現する術技――瘴気転式をベイロフォンが発動させる。勇者たちの凛気に対抗するため、創造された術技だ。
闇のドーム状の空間が瞬間に広がり、二人を現世界から完全に隔絶する。
ベイロフォンの傷が見る見る塞がって、回復していく。
「くはははは!!完全にここはオレの独壇場!」
「……なるほど。閉鎖空間を展開する能力か。くだらん能力で助かった」
「そんな軽口を叩けるのも今のうちだ!この『魔開暗流転』の中は瘴気で埋め尽くされ、魔族の力は倍加する!そして、それ以外の者は瘴気に蝕まれ、思うように動けなくなる!くははははっ!!一方的な殺戮だっ!!圧倒的で一方的に貴様はただただ殺されるのみ!!この空間に引き込まれた時点で貴様の死は確定!!後はどう殺されるかだけ!オレの勝ち確なんだよっ!馬鹿が!馬鹿が!馬鹿が!」
「急に饒舌だな、おい。口上はそれだけか?もういいか?こいつがうずうずして困ってんだ」
魔剣「影を飲むもの」を振って、ガイが耳をほじりながら言う。
「恐怖でおかしくなったか?」
「いやいや」
「まぁ、いい。男を嬲り殺してもたいして面白くない。貴様はさっさと殺し、あの獣人の女どもをいたぶることにするか」
「わかったわかった。わかったからさっさと来い。来ないなら俺から行くぞ」
「最後まで舐めた口を!!死ね!!!」
自慢の左を繰り出し、ガイを叩き潰す――――
――――はずだった。
どさりっ。
ベイロフォンの左腕が切り飛ばされ、地面に落ちた。
(えっ?何が起きた?世界が回ってる……)
回っているのは世界ではなく、ベイロフォンの頭であった。頭も、しばらく滞空したあと、ドサっと地面に落ちたのだった。
「悪いな。俺も魔族なんだよ。確かここだと魔族の力が倍加するんだったな。ついでにこいつ、瘴気を吸収すると狂暴化するんで、こいつを制御するのに手一杯で、手加減できなかった。色々聞きたかったんだがな。あっ。もう聞こえてないか」
闇に包まれた閉鎖空間が、風に吹き散らかされる黒い花びらのように雲散霧消する。
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