第十四話「古城の策謀」
魔族の進攻に耐えきれず、人類が百五十年前に放棄した「東の辺境域」にある、とある古城――――
「ギガンテスに続き、マンティコアまで失うとは」
青白い肌に、額に第三の目のある、貴公子然とした魔族の男が、玉座に腰掛ける。
彼に傅く八人の人種族の男女。皆、小刻みに震えている。
彼らに向かって、尊大に玉座で足を組むバイアケスがさらに声を掛ける。
「別に僕は責めてるわけじゃない。なぜなんだろう?って疑問に思ってるだけ。ギガンテスは百歩譲って偶然として、マンティコアは?どうして失った?ねぇ君、教えてよ」
左端の女を指名して、バイアケスは尋ねる。
「裏切り者がいたんです!勝手にこっそり、狼の討伐と称し、アリアブルグギルドに依頼を出した者が!その依頼を見て来た冒険者に、たまたまマンティコアがやられてしまって!」
女は叫ぶように答えた。
「で、そいつらは始末したの?」
「も、もちろんです!裏切りに気付いてすぐに、マンティコアに喰わせてやりました!最後まで子供だけは助けてくれと泣きながら懇願してましたが!」
「ふーん。でも、子供は生きてるって聞いてるよ」
「そ、それは……」
「そしたら冒険者の方は?」
「え、あ、そ、それも……」
「まぁ、マンティコアを倒すくらいの冒険者だ。そいつらを始末しろって言うのは、君には荷が重いか」
「そうです!そうです!私には無理です!」
女が安堵したのも束の間、
「じゃあ話を裏切り者に戻そう。そもそも確か、君が幼馴染みの彼女なら信用できるって、僕に紹介してくれたんじゃなかったっけ?」
「……………………」
ガタガタと女は震え、言葉を失う。
「しかもその彼女、ミレーヌとか言ったっけ?計画は洩らしてないみたいだけど、自分の姉の家族をこっそり隠してたそうじゃないか。君は家族、親兄弟まで売ったっていうのにね」
「ミレーヌが、ミレーヌが全部悪いんです!私は悪くない!」
「他の彼らはちゃんと仕事をしてくれたよ。彼らが紹介してくれた人たちもね。もうこの世にはいないけど」
そう言って、バイアケスはくすりと笑って続ける。
「何か申し開きは?」
「殺さないで!助けて!なんでも、なんでもしますから!」
「じゃあ死んで償おうね」
一瞬で女の前に移動したバイアケス。女の頭を鷲掴みにすると、
「や、やめて!お願い!死にたくない……」
「うるさいなぁ。もう黙ろうか」
そう言うと、みかんやリンゴを枝からもぎ取るように、女の頭を首から引きちぎると、床に捨てる。
「さて、他の君たちも連帯責任ね。計画失敗だからもう用無しだしね」
逃げる間も叫ぶ間も与えず、残り七人の男女の首もいとも容易く引きちぎり、皆殺しにするバイアケス。
「あー、つまらない。人間に任せたのが間違いだったよ。ベレロフォン、レカイオン、いるかい?」
「バイアケス様、ベレロフォン、ここに。レカイオンは東のワイバーンの準備に出ております」
額に水牛に似た角を生やした、左腕が異常に巨大なベレロフォンが闇の奥から現れ、バイアケスの前に跪く。
「西の準備は?」
「イオアンナがキマイラを従え、西の湿地林奥の沼沢に潜伏し、準備完了しております」
「イオアンナか。キマイラ製造過程でできた人型キマイラだっけ?あいつ、使えるのかい?」
「戦力としては、純粋な魔族ほどではないにしろ、魔物よりかは使えるかと」
「ベレロフォンがそう言うなら、まいっか。それで、北の穴はベレロフォンにまかせるとして、南の穴をどうするか?気乗りしないけど、僕じきじきに行くしかないか」
気怠げな口調とは裏腹に、バイアケスは楽しそうに微笑む。
「ベレロフォン、決行日は最も人間を多く殺せる日にしてくれよ」
バイアケスはベレロフォンの肩をぽんぽんと叩く。
「それまで僕は食事でもしておくよ」
そう言うと、さっき殺した中で一番若い女の体を引きずり、バイアケスは奥の部屋へと姿を消した。




