第7話 二大将軍
遠征軍を迎えて、広間の盛り上がりは最高潮に達した。
戦利品の財宝も続々と運び込まれ、こちらにも歓声の声が上がる。ウルネス王のすぐそばにも宝の山が築かれ、レナはそのまばゆい輝きに圧倒された。
そして遠征軍の先頭に二人の男が進み出た。二人とも、明らかにただ者ではないオーラをまとっている。
「ウルネス様、ただいま戻りました」
年上の方の人物が、ウルネス王にあいさつをする。
「よくやった。メルブ、アトス」
ウルネス王も嬉しそうに、二人にねぎらいの言葉をかけた。
レナはその名前を聞いて、驚きのあまりあごが外れるかと思うほど口が開いてしまった。この国で二人の名前を知らない者などいない。
メルブ将軍――。ウルネス王の右腕であり、この国を大国にした名将である。レナはもちろんのこと、兵士なら誰もが憧れ崇拝する人物だ。
アトス将軍――。今や歴代最強と言われている若き武将である。その猛々しさはこの距離からでも一目瞭然だった。
ウルネス王が高らかに宣言する。
「今夜は勝利を祝うための宴だ。みんな、楽しんでくれ!」
大歓声の中、二人の将軍は再び頭を下げた。
「なんという素晴らしい成果だ!」
「わが国の歴史に残る遠征になりましたな!」
広間は一段と盛り上がり、ウルネス王や将軍たちに次から次へと賛辞の言葉が贈られた。
レナは二人の将軍を間近で見られて、感動のあまり泣きそうだった。レナのような下っ端の兵士には、到底顔を見ることもできない伝説のような存在なのだ。
「レナ」
その時ウルネス王に呼ばれ、レナはっとわれに帰った。
「は、はいっ」
慌ててお酒のつぼを構え直す。
「おまえにも何か好きなものをやろう」
ウルネス王はそう言うと、上機嫌な様子で山のように積まれた宝石に手を伸ばした。
しかし、その手が止まる――。
ウルネス王の手の先には宝石箱があり、ふたが少しだけ開いている。そして、箱の中に何かいた。
「⁉︎」
ウルネス王とレナは同時に身構えた。
その生き物は箱からするりと出てくると、頭をもたげ大きく口を開いた。
(コブラ――⁉︎)
レナは驚いて目を見開いた。
特有の威嚇音とともに、コブラはウルネス王めがけて飛びかかった。
「しまった!」
ウルネス王は思わず叫んだが、もう目と鼻の先に牙を剥いたコブラが迫っていた。
「ウルネス様!」
気がついた二人の将軍が同時に叫んだ。
次の瞬間――コブラは輪切りにされたように体がバラバラになった。
コブラを切ったのはレナだった。
「なにっ⁉︎」
二人の将軍は一瞬何が起こったのかわからず驚いた。
バラバラになったコブラはそのまま床に落ちた。
周りの者たちは真っ青になってウルネス王に駆け寄った。
「ウルネス様、おけがは⁉︎」
「案ずるな、かまれていない!」
ウルネス王はそう言うと、慌ててレナの方を見た。レナは悠然と立っている。その手にはウルネス王の剣が握られていた。
「俺の剣をとっさに使ってコブラを切ったのか? なんてやつだ……!」
レナの素早い動きを目の当たりにして、ウルネス王は驚いていた。
将軍たちも驚いた様子でレナを見ている。二人が構えた時点で、レナはすでにコブラを切り落としていたのだ。
メルブ将軍が思わずつぶやいた。
「あの娘……一体何者だ?」
その時、女性の悲鳴が響き渡り、広間に緊張が走った。
「し……死んでる!」
叫んだ女性は震える声で言った。
「うわあ! この男、殺されているぞ!」
今度は女の隣にいた男が叫んだ。
足元には、男が目を見開いたまま仰向けに倒れていて、胸にはナイフが刺さっていた。
周囲の人間が悲鳴をあげて一斉に後退りしたので、辺りは一気にパニック状態になった。
突然の事態に、メルブ将軍が叫んだ。
「これは刺客のしわざかもしれぬ。王をお守りしろ!」
そしてすぐに兵士たちに命令した。
「すぐに周囲を調べろ!」
「はい!」
兵士たちが一斉に動き出し、広間は大混乱になった。レナも人々の隙間から死んでいる男を見ることができた。
「あの男は――⁉︎」
それは先程けんかをしていた二人組の一人だったのだ。
レナの記憶がよみがえってくる。けんかをしていた二人は、小さな布の袋を取り合っていた――ちょうどコブラが入るくらいの袋……。レナは直感が真相につながっていくのを感じた。
(もう一人のあの男が刺客だ!)
そう確信した瞬間、レナは走り出していた。
***
王宮の長い廊下を走るレナ。
(まだそんなに遠くへ行っていないはず! どっちに逃げた?)
きょろきょろと辺りを見回す。そして廊下を曲がろうとした次の瞬間、ドレスの裾を思いっきり踏んづけた。
「えっ⁉︎」
そのまま派手に転んでしまった。
(痛ったーい!)
うつぶせに倒れたレナの頭に、ドレスの裾がふわりと舞い降りてきた。
「……この格好なの忘れてた」
床に頬をつけたまま、レナはつぶやいた。
するとその時レナは刺客の気配を察知して、はっと顔を上げた。だいぶシュールな格好ではあったが、そのまま真っ暗な廊下の先をじっとにらみつける。
「暗闇に逃げても無駄だ……絶対に逃がさない!」
そうつぶやくと、レナの瞳に光が宿った。
***
廊下の柱の陰に刺客の男が隠れていた。コブラの仕掛けがうまくいったか確認したかったが、予想外のトラブルが起こってしまった。
「くそっ……騒がれそうになって一人殺しちまった! とにかく今のうちに早く逃げないと」
焦る気持ちを抑え、柱の陰から明かりのある方をのぞく。男は全く気づいていない。背後の暗闇に、二つの光が浮かび上がっていることを。