第6話 変身
翌日、レナは王宮の大浴場で、口をぽかんと開けて立っていた。
「すっごーい……!」
あまりにも広く、あまりにも豪華で、まるで夢を見ているようだった。
しかも目に飛び込んでくるのは、セクシーな美女ばかりだ。彼女たちは、いわゆるウルネス王の恋人たちで、その豊満な裸に女のレナでも目のやり場に困るほどだった。
(すっごーい……!)
レナは自分が裸だったことを思い出し、慌てて隠しつつ、自分の胸を見た。
「…………」
そのまま両手で胸をしっかり隠しながら、静かに湯船に沈んでいった。するとレナは、後ろから侍女に声をかけられる。
「さあ、体を洗いますよ。早く出てください」
そう言って、侍女たちがレナを湯船から引っ張り出そうとした。
「えっ? あの、ちょっと……自分でやりますから」
レナが戸惑っていると、侍女たちはレナをじろじろ見ながら言った。
「言ってはなんですが……レナ様、あまりお風呂に入ってないですよね?」
その質問に、レナは驚いて答えた。
「当たり前じゃないですか。私、兵士ですよ? お風呂なんてめったに入れません」
すると侍女たちは、顔を見合わせて大きくうなずいた。そして、すぐさま彼女たちの手がレナに襲いかかった。
***
「あら? あれは何かしら」
巨乳美女たちは、侍女たちに押さえつけられ、全身をガシガシ洗われているレナに気がついた。
「大人しくしてくださいっ」
「いたたた! 誰か、助けてー!」
叫びながら必死の形相で抵抗しているレナを見て、巨乳美女たちは戸惑いの表情を見せた。
「新人ちゃん……かしら?」
「ウルネス様ったら、今回はまた随分と趣向を変えたのねえ」
そう言いながら、豊満な胸をぷるんと揺らした。
仕上げにお湯をかけられたレナは、水も滴る……とはいかず、残念ながら色気は少なめであった。
その時、侍女がレナの後ろ姿を見て声を上げた。
「あら、これは?」
レナの左肩には、サソリの模様のタトゥーが入っていたのだ。侍女に聞かれたレナは、目を輝かせて得意げに答えた。
「これは村のみんなと、おそろいで入れたんです。強そうですごくかっこいいですよね!」
侍女たちは返事に困った。サソリの柄など、若い娘が選ぶ柄ではない。そして侍女たちは本気で不思議がった――ウルネス様は、この変わった娘のどこが気に入ったのかと。
***
体を洗い終わり、着付けをする部屋へ移動したのだが、その部屋からうめき声が聞こえてくる。
「ぐええ! くっ、苦しい!」
レナはウエストを思いきり締め付けられ、思わず声をあげた。
「うふふ……大げさですねえ」
「はい、こちらを向いてください」
侍女たちは笑いながら、慣れた手つきでレナにドレスを着せ、化粧を施していく。レナは顔にいろいろと塗りたくられ、髪を引っ張られながら思った。
(キレイになるって、こんな感じなんだ……)
「さあ、出来上がりましたよ」
侍女はそう言って、レナを鏡の前に立たせた。そこには何と、美しい娘が映っていた。
「ええっ?」
レナは思わず叫んだ。
(こ、これが私? どうなってるの⁉︎)
レナは侍女たちの技術に驚愕した。そして、女の子らしい格好などしたことがなかったレナは、生まれて初めてこんなに奇麗な格好をして、気恥ずかしくも心が躍った。そして、鏡に映る自分を自画自賛した。
(結構……いいかも)
その時、ウルネス王が部屋に現れた。
「あっ、ウルネス様!」
侍女の声にドキッとして振り返るレナ。
(えっ⁉︎ ウルネス王?)
侍女たちが道を開けると、ウルネス王はまっすぐにレナのところまでやってきた。
「いかがでしょうか?」
侍女たちが得意顔でウルネス王に聞いた。
「どれどれ」
ウルネス王は上機嫌にレナを眺める。レナの方は恥ずかしくて目を合わせることができず、下を向いてしまった。
するとウルネス王は、指先をレナのあごに添え上へ持ち上げた。強制的に目を合わせる形になり、レナは顔が真っ赤になった。
「今日の宴で私の横で酒をつげ。いいな?」
ウルネス王は、レナの目をまっすぐに見つめて命じた。
「は、はい」
レナは返事をしながら、自分の胸の高鳴りに戸惑うことしかできなかった。
***
今夜も盛大な宴だった。
ウルネス王が家臣たちと和やかに談笑している横で、お酌をするという大役にレナは緊張しっぱなしだった。ぎこちない手つきでお酒を注ぐたびに、ふうっと息をついた。
そして護衛でもないのに、癖でついつい周囲を見回してしまう。
(今日は、セラ王妃はいないんだ……)
レナはこっそりほっとした。
その時、広間の柱の影にいる二人組の男に目が留まった。ちょっとした言い争いをしているように見える。
(ん? けんか……?)
なぜか二人が気になった。
すると広間の外が急ににぎやかになったので、レナの注意はそちらに移った。
家臣たちが興奮気味に声を上げた。
「ウルネス様、来たようですな」
「そうか」
ウルネス王も上機嫌な声だった。
その時、使いの者が広間に飛び込んできて叫んだ。
「わが軍が遠征から帰ってきました!」
それを聞いて、レナもぱっと顔を輝かせた。
「えっ? 遠征軍⁉︎」
そして、大歓声とともに兵士たちが広間に到着した。