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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
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第56話 そっくり


 思いがけない展開に、レナは頭が真っ白になった。


(リオ⁉︎ えっ⁉︎ えっ⁉︎)


 一瞬リオが寝ぼけているのではないかと思った。

しかし、リオはそのままレナの体を強く抱きしめる。


「んんっ――!」


 唇や体がすごく密着して、レナは自分の肌がリオの体温を敏感に感じ取ってしまうのがわかった。心拍数が急激に上がってく。

 こんなに密着していたら、リオにこの心拍数が伝わってしまうのではないかと恥ずかしくなった。


「んん……」


 しかし、リオはレナを離そうとしない。レナの力では、リオの腕の中で体を動かすことすらできなかった。


(リオの唇……すごく柔らかい)


 レナはいつの間にか、リオの唇の感触に気を取られていた。


(どうしよう……リオ、こんなのダメだよ……)


 レナの心に言葉では表現できない感情がふわふわと漂い、体の力がどんどん抜けてしまうのを止められなかった。

 リオがやっと唇を離し、二人ともため息のような息継ぎをした。それから、お互いの顔を見つめ合う。

 リオの黒い瞳は艶めかしく潤んでいて、その色気をまともに見てしまったレナは自分の体が熱くなるのを感じた。


「リオ……」


 そしてリオの目の前には、まるで鏡に写したかのように同じ表情をしたレナがいた。


「レナ……」


 レナの名前をつぶやいた瞬間、リオは理性の糸が切れる音を聞いた。


***


「いやぁ〜、うらやましいねえ」


 カティオスは感慨深い表情で廊下を歩いていた。

 先程まで窓から二人の様子をのぞいていたが、これは長くなりそうだと諦め引き返してきたところだった。


「それにしてもリオのやつ――いつの間に!」


 そんな感想を言いながらも、リオの変化を嬉しく思うカティオスなのだった。


「また後で見に行っちゃおうかなぁ……」


 こちらは完全な個人的興味でつぶやいた。


***


 数日後、レナとリオはカティオスと食事をしながらいつものように雑談をしていた。


「レナ、すっかり元気になって良かったな」


 カティオスにレナが元気に答える。


「はい、ありがとうございます」


 するとカティオスは、今度はニヤニヤしながら言った。


「俺は、リオがレナに無理させてるんじゃないかって心配だったよ」


「――⁉︎」


 それを聞いて二人は真っ赤になった。

 その様子にカティオスは笑いながら続けた。


「二人を見ていると、若い頃のレオナルド王とシエーナ王妃を思い出すよ」


 今度はリオが聞き返す。


「王と王妃を?」


「ああ、ちょうど君たちの年の頃に、二人してよくここに遊びに来たんだ」


 そしてカティオスはレナを見た。


「レナを見た時には、本当に驚いたよ」


「えっ? 私ですか?」


 きょとんとするレナにカティオスが言った。


「君は本当に、あの頃のシエーナ王妃にそっくりだよ」


 その言葉にレナは固まった。


(……え?)


 そっくりだよ――。


「……え?」


 今度は声が出た。


「そっ――そんなに似ていますか⁉︎」


 レナは慌てて聞き返した。


「そりゃもう、うりふたつだよ」


「――⁉︎」


 カティオスの返答に、レナは息が詰まりそうになりながら驚いてリオを見た。

 すると、なぜかリオも驚いた表情をしていたのだ。


(なんで⁉︎ いやいやいや! リオなら王妃の顔を見たことあるでしょ⁉︎)


 次の瞬間、小声ながら迫力満点でリオに詰め寄っていた。


「そうだとしたらリオ、あなたが真っ先に気づくはずでしょ⁉︎ カティオスのお世辞で心臓が止まるかと思ったじゃない!」


 レナの理不尽な言い掛かりと迫力に、身の危険を感じたリオは慌てて叫んだ。


「まっ――待って、落ち着いて! 俺は王妃の顔を見たことがないんだ!」


「えっ⁉︎」


「王妃はいつもベールで顔を隠しているんだ」


「どうして――?」


 その時、カティオスが二人の会話に割って入った。


「そうだ、王妃は目が見えない」


 その言葉に、二人は動きを止めてカティオスの方を見た。


「目が見えない……?」


 するとカティオスは、うなずきながら二人に話し始めた。


「もう昔の話だが、シエーナ王妃には哀しい過去があるんだよ」


 レナとリオは姿勢を元に戻した。


「その昔、エスプラタとアサニスの両国で起こった戦争の最中に、レオナルド王子とシエーナ妃の間に女の子が誕生した。しかし、レオナルド王子が留守のすきにシエーナ妃と赤ん坊が襲われ、その時にシエーナ妃は失明してしまったんだ」


 それを聞いて、レナは胸が苦しくなった。


(それは私の国の者が……?)


 カティオスが続ける。


「その時、赤ん坊は崖から落ちて行方不明になった。そして、どんなに探しても見つからなかった……」


 兵士であるレナは、戦争のそういった側面を知っていた。しかし、生まれたばかりの赤ん坊が犠牲になった事実には胸が痛んだ。


「王宮の中庭にある乙女の像は、その赤ん坊の守護神として建てられた石碑なのさ。レオナルド王とシエーナ王妃は自分の子を亡くしたと思いたくなかったんだろうな……」


 その時、リオがつぶやいた。


「レナが……シエーナ王妃に似ている……」


 リオの頭に、ひらめきのように一つの仮説が浮かんだ。


「王と王妃の赤ん坊は……その後、見つかっていない……」


「リオ、どうしたの?」


 レナが声をかけると、リオがレナの方を向いた。


「もし、その赤ん坊が生きていたとしたら?」

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