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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
54/56

第54話 キス


 レナは、見渡す限り真っ白な景色の中に一人で立っていた。


「ここは……どこ?」


 不思議そうに辺りを見回す。


(……私は何をしてたんだっけ?)


 そう思った瞬間、王宮でセラ王妃に会い、魔物に襲われたことを思い出した。


「そうだ!」


(リオは無事なの⁉︎ 大丈夫なの⁉︎)


 レナの記憶の最後は、リオが炎に包まれていた。


(それで……それからは思い出せない――!)


 慌ててキョロキョロと周りを見ても、ただ真っ白な景色が広がるばかりだった。


(……リオはいない……ここには私しかいない)


 確か魔物の攻撃をまともに食らったはずだったが、自分の体を確認してみてもけがをしていない。


「……私、死んじゃったの?」


 少しのあいだ白い景色を眺めていたが、それからレナは髪を耳にかけた。


(もう、リオに会えないの?)


 レナはひとり、ぼうぜんと立ち尽くしていた。


***


 小鳥のさえずりとともに、朝日が手入れの行き届いた中庭を照らしている。

 リオは中庭にある井戸で水をくむと、バシャバシャと顔を洗った。そして息をつくと、白く美しい建築の城を見上げた。

 ここはアサニス国にある、レオナルド国王の別荘のひとつだ。

 エスプラタ国の王宮で負傷したレナを、すぐさま医者のところへ連れて行くと、幸いなことにけがは大事には至らなかった。しかし、高熱がレナの体力をどんどん奪っていった。

 そこでリオは、この城を管理しているカティオスという人物を頼って治療を受けたレナを運んできたのだ。


「…………」


 しかし、ここに来て数日がたったが、レナはまだ目を覚まさない。


(熱もすっかり下がったし、けがも順調に回復しているように見えるが、馬を飛ばして長距離を移動したのが良くなかったのか……)


 リオがそんなことを考えていると、カティオスが城の窓から顔を出して叫んだ。


「リオ、目を覚ましそうだぞ!」


「えっ⁉︎」


 リオは慌ててレナが寝ている部屋へ駆け込んだ。


「今、何かうわ言を――」


「レナ!」


 カティオスの言葉も聞こえていない様子で、リオはレナの顔をのぞき込んだ。すると、レナの唇が微かに動いた。


「リ……オ……」


 確かにそう言っている。


「レナ! レナ! 目を覚まして!」


 リオは必死にレナの名前を呼び続けた。


 真っ白な世界にぽつんとひとりで立っていたレナの耳に、どこからともなく声が聞こえてきた。


『レ……ナ……』


「?」


『レナ……』


 その声にレナはハッとなる。


(リオの声だ⁉︎)


『レナ!』


(確かに聞こえる! リオの声だ!)


「リオどこなの⁉︎ どこにいるの⁉︎」


 レナが振り向いた瞬間――。


「レナ!」


 目を開けたレナの目の前に、眩しい朝日に包まれたリオの顔があった。


「リオ……」


「レナ! よかった――!」


 リオは思わずレナを抱きしめていた。

 レナは突然のことに驚いたが、リオの温かい体温を感じこれは現実かもしれないと思った。


(リオに……会えた……)


 自然に涙があふれる。

 レナもリオを抱きしめたかったが、体に全然力が入らず、そっとリオの背中に手を置くことしかできなかった。それでも手のひらにリオの体温を感じることができて、それだけですごく嬉しかった。


「リオ……」


 レナは確かめるようにリオの名前を呼んだ。

 二人の様子を見ていたカティオスも、ホッとした表情になった。


「良かった、これで一安心だな。薬を取ってくるよ」


 そう言って部屋をあとにした。


「リオのやつ……まるで別人だな」


 廊下を歩きながらカティオスはつぶやいた。

 自分の感情をあまり表に出すことのないリオが、レナを抱え血相を変えてこの城にやってきた時には正直驚いた。そして彼女を寝ずに看病し、目覚めた時には人目も気にせず抱きしめたりと、あんな感情的なリオの姿は見たことがなかった。

 リオをこんなに変えてしまう彼女は一体何者なのか。


「それにしても、まあ……そっくりだな」


 カティオスはもう一度つぶやいた。


***


 しばらくして、リオはやっとレナから体を離した。

 そして、レナの青く美しい瞳を真っすぐに見つめて言った。


「レナ、俺が君を守る……君をずっと守るよ」


 そう言ったリオの黒く輝く瞳はどこまでも優しく、その声はどこまでも温かくレナを包み込んだ。


「リオ……」


 そして見つめ合う二人は、自然に求め合うようにキスをした。

 リオの柔らかい唇に触れた時、レナはリオのことが本当に好きなんだという気持ちが心からあふれた。そのあふれ出した感情は、レナの体の隅々まで浸透して幸せで満たしていった。

 二人はもう一度抱き合うと、お互いの気持ちを確かめ合うようにいつまでもそのままでいた。

 しかし、しばらくしてリオの様子がおかしいことに気がつくレナ。


「……ん?」


 リオはそのままベッドに倒れ込んでしまったのだ。


「リオ、どうしたの⁉︎ 大丈夫⁉︎」


 レナが驚いていると、カティオスの声がした。


「大丈夫だよ。そいつは寝てるだけだ」


「えっ⁉︎」


 レナが視線を上げると、男の人が笑いながら水と薬を持って立っていた。

 もう一度リオを見ると、確かに――リオは爆睡していた。

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