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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
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第52話 巣窟


 二人は、ついに王宮にたどり着いた。

 王宮までの道中は、人もいなければ魔物もいなかった。あまりにも静かで、解放された魔物たちはもう移動してしまい、城には残っていないのかもしれないと思った。


「…………」


 黙って王宮を見上げる二人。建物には、魔物が解放されたあの日の生々しい爪痕が残っていた。

 あの日で時が止まり、誰もいなくなった王宮――。

 レナは恐怖がよみがえり全身の血が冷えていくような感覚を覚え、ブルッと体を震わせた。


(これがエスプラタ国の王宮……)


 リオもまた大変な衝撃を受けていた。

 これほどの大国の中枢である王宮が、見るもむざんな姿になっていることに改めて事の重大さを痛感した。大げさでもなんでもなく、世界はどうなってしまうのか……。

 王宮内はひっそりと静まり返り、やはり人の姿も魔物の姿も見当たらなかった。


「なんてことなの⁉︎ 私の知っている王宮とはとても思えない……」


 レナは、今度は悲しみが込み上げてきた。

 あの頃の栄華は消え去り、本当に王宮は魔物の巣窟と変わり果ててしまったのだ。しかし、こんなところで泣いている場合ではないと、ぐっと唇をかみ締めた。

 リオは進むほどに胸が締め付けられるような息苦しさを感じた。


(参ったな……! とてつもなく邪悪な気に満ちている!)


 ここまでの感覚は、今まで感じたことがなかった。


(魔物の気配がすごい! まるですぐ隣にいるかのようだ……!)


 そして既に、リオの握る剣が邪悪な力に共鳴していた。剣が発するエネルギーが、ビリビリと電気のようにリオの手に伝わってくる。まるで剣が喜んでいるかのようで、嫌な予感しかしなかった。

 そしてレナにも異変が起きていた。

 さっきからずっと変な汗が止まらず、何度も服のそでで汗を拭っていた。


(すごく体がだるい……寒気もする)


 レナは風邪をひき、既に高熱を出していたのだ。


「レナ、大丈夫? すごい汗だよ?」


 リオが心配して声をかける。


「うん、平気。緊張して……」


 レナはごまかすように笑った。

 王宮の建物内に入ると、どこからともなく音楽が聞こえてきた。


「え……?」


 無人の静まり返った建物内に流れる音楽は、強烈な違和感だった。しかし二人は恐怖を押し殺し、音のする方へ向かった。

 そして広間まできた二人は、信じられない光景に驚愕(きょうがく)する。


「こっ、これは……⁉︎」


 広間は、華やかな宴の真っ最中だったのだ。

 音楽に合わせて踊る娘たち。 酒を飲み大声で笑う男たち。 広間にはごちそうが並んでいた。

 レナがこの王宮で見てきた、あの宴のにぎわいそのままだったのだ。


「信じられない……! この人たちは一体――⁉︎」


 そして広間の一段高くなった玉座に、セラ王妃がいた。


「セラ王妃⁉︎」


 レナが叫んだ。


(生きていた⁉︎)


 見た目は以前と少しも変わらず、むしろ怖いくらい美しく、それが異様な雰囲気を漂わせている。


(あれがセラ王妃――!)


 リオもかたずをのんだ。この場所で、あのように無傷で生きていられるはずはないのだ。この広間の者たちも――。

 二人はセラ王妃を目の前にして、言葉が見つからなかった。


《ククク……生きていたか、小娘……》


 セラ王妃の体を乗っ取っている魔物が、レナを見てほくそ笑んだ。

 その時、セラ王妃が軽く手を上げた。すると、それまでにぎやかだった広間が一瞬にして静まり返った。


「⁉︎」


 二人は思わず身構える。

 先に口を開いたのはセラ王妃の方だった。


「レナ……おまえが私の前に現れた時、不吉な予感がした……」


(しゃべった⁉︎ やっぱり本物のセラ王妃だ……!)


 レナは自分の名前を呼ばれてドキッとした。


「しかしウルネスはおまえを気に入り、そばに置いてしまった」


 セラ王妃は困ったような表情で、小さくため息をつく。そして頰づえをつくと、はっきり言った。


「その肩の傷は、私が付けたものだ」


「えっ……⁉︎」


 レナは目を見開き固まった。


(どういうことなの⁉︎ これは自分でも記憶のない、赤ん坊の頃に付いた傷なのに!)


 レナは思わず自分の左肩に手を置く。

 セラ王妃は無表情のまま続けた。


「まさか……殺したはずの赤子が兵士となり、私の目の前に現れるとは……」


 リオも驚いていた。


(殺したはずの赤子⁉︎ やはりレナとセラ王妃は、つながりがあった⁉︎)


 セラ王妃の美しい顔がほほ笑んだ。


「今度こそ、おまえは死ぬのだ」


 その時、ドクンと広間全体がゆがむような衝撃が起こった。


「はっ⁉︎」


 すると広間にいた大勢の人々が、幻のように消えてしまったのだ。


(まやかし⁉︎ こんなことができるなんて……⁉︎)


 リオがそう思った瞬間、消えた人々は魔物に変化していた。


(やはり全部魔物か――おそらくセラ王妃も!)


 一気に戦闘モードに突入する二人。


(どうしてセラ王妃は、赤ん坊の私を殺そうと⁉︎ 私は一体……⁉︎)


 レナは困惑しながらも魔物に向かっていく。しかし体に全く力が入らない。


「⁉︎」


(どうしよう、めまいがする――⁉︎)


 そう思った瞬間、魔物の攻撃をまともに受けてしまった。


「ぐっ――⁉︎」


「レナ⁉︎」


 リオが叫ぶ。

 レナはそのまま壁にたたきつけられた。鈍い音が響き、うつぶせに倒れる。

 そしてそのまま、ピクリとも動かなくなった。

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