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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
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第51話 傷跡


 レナの過去は誰にもわからない。


「でも、村の生活で特別なことは何も……本当に普通に暮らしてたんだけど」


 レナがそう言うと、リオが返した。


「忌まわしい過去というのは、レナの生まれる以前、もしくは出生に秘密があるのかもしれない」


(そして暗闇で目が見えるのも、彼女の中に眠る力のひとつなのかもしれない)


 リオは、レナの力について言葉では言わなかった。

 レナも話を逸らしてしまったと思ったが、話を戻すことがためらわれた。リオがどう思っているのか気になったが、同時に知るのが怖かった――自分自身が怖かった。

 その時リオがつぶやいた。


「それにしても……レナに似ている人物がキーパーソンというわけだ。その人物を探すとなれば相当絞り込めるね。すごい進展だよ」


「えっ⁉︎」


 ぽかんとするレナ。

 リオが本気で言っているのか、冗談で言っているのかわからなかった。


「リオ……」


 そして、思わず吹き出してしまった。


「あはははっ!」


 レナの緊張の糸が一気に切れた。


「そうだね……そんなに自分に似てるなんて、会ってみたいかも」


 魔物を解放した理由を思い出して、再び怒りが込み上げていたところだったが、リオの言葉はレナの怒りをすっかり中和してしまった。

 レナが笑ったのを見て、リオも少しほっとした表情になった。


「今の俺たちには、どんな情報だって重要だよ」


「うん、そうだね」


「ただ……似ているだけで魔物を解放するなんて、やっぱり理由になってない。もっと何か……何かあるはずなんだ」


 リオはそう言うと、上着を脱ぎ湖の水で洗い始めた。

 自分の中に漂う恐怖を消すことはできないが、リオがわかってくれていると思うと冷静になれた。


(頼りになるな……リオに感謝しなくちゃ)


 レナはそう思いながら、改めて見るリオの体に驚いた。

 上半身裸のリオはなかなかの筋肉美を披露していたが、驚いたのはそこではなく体についた無数の傷跡にだった。もちろん、先ほどの戦いでついたものではない。


(すごい数の傷跡……⁉︎)


 レナの村の兵士たちでも、ここまでの者はいなかった。


「リオって、本当に兵士じゃないの?」


 レナは思わず質問した。


「うん、まあ……戦争に行ったことはないよ」


 リオが答える。


「信じられない……こんなに強いのに」


 兵士として育ったレナには、考えられないことだった。


(なんてもったいない! あっ、でもそうするとアサニス国側か!)


 リオがエスプラタの兵士だったら、王宮で間違いなく会っていただろうと思った。


「レナ、けがしてる」


 その時、リオがレナの左肩を指差した。


「えっ? ああ……」


 それは、レナがブチギレた時にかまれた傷だった。


「大したことないよ」


 そう言いながらレナがそでをまくり上げると、肩のタトゥーが現れた。

 リオはそれをなんとなく眺めていたが、ふと気が付く。


「それ……傷跡?」


「えー、よくわかったね⁉︎ そうなの。これ、傷跡をタトゥーで隠してあるんだ」


 驚きの混ざった笑顔で、リオの方を振り向くレナ。

 その時リオは、レナに初めて出会い、彼女が振り向いた瞬間の姿を思い出した。今、目の前のレナは笑っている。

 本当に不思議な出会いだと、リオは思った。

 協力して魔物を倒すことになるなんて思いもよらなかったし、純粋に仲間ができたことが嬉しかった。何より嬉しいのは、レナが普通に接してくれることだった。

 そして今、リオの目に映るレナは、水面の光がキラキラと反射してまばゆい光に包まれている。


(美しい……)


 リオは心の中でつぶやいた。


***


 天気は雨だった。

 王宮に近づくにつれ、魔物が多くなってくる。二人で協力すれば倒せないほどの魔物はいなかったが、きりがなかった。

 そして、レナのあの力はその後発動していない。

 レナは疲れからイライラしていた。早く納得のいく理由を手に入れたくて、気持ちばかりが焦っていた。


「少し休もう。どこかで服を乾かした方がいい。このままだと風邪を引く」


 知ってか知らでか、リオがレナに言った。


「私は大丈夫よ」


 イライラしているレナに、リオは正論で返した。


「このままだと、レナだって魔物に心を支配されかねない」


「大丈夫だって言ってるじゃない!」


 レナは思わず声を荒げてしまい、はっとわれに返った。


「あっ――ごめん……!」


 慌てて謝るレナ。


「…………」


 リオが少しの間無言でいたので、レナはリオを怒らせてしまったと思った。するとリオは、予想外の答えを返してきた。


「とりあえず服を乾かそう。その格好、ちょっと目のやり場に困るっていうか……」


「……え?」


 レナの服はぬれて体に張り付いて、だいぶセクシーな仕上がりになっていた。


「ぶっ――⁉︎」


(うあああ⁉︎ えええぇ⁉︎)


***


 たき火の前で、レナは顔を真っ赤にしていた。


(うう……恥ずかしい!)


 あれからレナは、すっかり借りてきた猫のようにおとなしくなり、服を乾かしていた。向かいに座るリオを直視できなかったが、目のやり場に困ると言った割には、いたっていつも通りの様子だった。


「…………」


(また、私を冷静にさせようとして言っただけかも……)


 レナはそう思った。


(まあ、透け透けというほどではなかったけど……その……)


 本当はどう思ったか、なぜか気になった。そして、そんなことを考えている自分がまた恥ずかしくなった。


(私ったら……何考えてるの⁉︎)


 レナは、目をぎゅっと閉じて首を振った。そんなことを考えている場合ではないのだ。

 明日は、ついに王宮にたどり着くのだから――。

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