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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
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第50話 筋肉痛


 レナは肩で息をしながら思った――魔物を切ったのは間違いなく自分だ。

 しかし自分の体を動かしたという感じではなく、まるで意識だけが魔物の間を通り抜けていったような、何とも表現し難い感覚だった。

 そして、体の疲労感はとてつもなかった。

 動揺はしていたが、それは恐怖や苦痛といったものではなく、得体(えたい)の知れない力に対する戸惑いだった。そして、そのことに気を取られている余裕はなかった。

 レナが相当数を切ったにも関わらず、魔物たちはどこからともなく湧いて出てきた。

 一体何匹の魔物がいるんだとゾッとしたその時、リオの姿に気がついた。リオの剣は異質な光を放ち、そのオーラはリオの全身を覆い尽くしている。


「リオ……」


 リオが軽く払うように剣を一振りすると、周りにいた魔物たちが吹き飛んだ。


「なっ――⁉︎」


 息をのむレナ。

 次の瞬間、リオの剣が一段と光を放った。


「はっ⁉︎」


 レナは、やばい攻撃がくると瞬時に察知した。


「レナ! よけろよ!」


 案の定、リオはとんでもなく人任せなことを言うと、渾身(こんしん)の力を込めて剣を振り抜いた。

 洞窟内に閃光(せんこう)が走る。光にさらされた魔物たちは、炎に包まれながら吹き飛ばされた。


「ああっ⁉︎」


 レナは手で光を遮りながら思わず声を上げた。

 レナの剣とは対照的に、リオの剣はまるで切り口が破裂するかのように一匹一匹を木っ端みじんにしていく。

 数え切れないほどの魔物がグロテスクに宙を舞い、レナは魔物の死骸と一緒に吹き飛ばされた。


(きゃあああ!)


 洞窟内に魔物の欠片が落ち葉のように舞い、その中にたたずむリオ。恐ろしい程のオーラを身にまとい、魔物を見下ろすリオの表情はどこまでも無機質で、レナは背筋がぞくりとした。

 これが冥府の剣の力――。

 既に何度も見てきたが、改めてその威力の凄まじさに圧倒された。

 しかしリオが相当数を切ったにも関わらず、魔物たちはどこからともなく湧いて出てきた。レナはデジャブにゾッとした。

 しかもレナは、既に体力を使い果たしてしまっている。


「まずい……」


 レナがつぶやくのと同時に、魔物たちは無情にも襲いかかってきた。魔物単体は大した脅威ではなかったが、なんと言っても数が多い。それでも、なんとか襲ってくる魔物を切っていくレナ。

 そんなレナを尻目に、リオは一振りで魔物を軽々と粉砕していく。


(なんか……ずるい)


 レナはそう思いながら、再びリオの剣の威力に巻き込まれ、魔物と一緒に飛ばされていった。


***


「はあっ! はあっ! はあっ……!」


 いつしか洞窟内には、二人の激しい息切れの呼吸だけが響いていた。

 二人は、信じられない数の魔物を倒しきっていたのだ。

 息を切らしながら、お互い言葉もなく見つめ合う。


「……終わった?」


 レナがかすれた声で聞いた。


「そう……みたいだな」


 リオもうなずいた。


「ああ――っ!」


 二人はあんどの声を上げて、その場に仰向けに倒れ込んだ。


「だめだ……もう腕の感覚がない……」


 さすがのリオも、体力を使い果たし息を切らせていた。

 レナの方は声も出せなかった。


(……心臓破ける……)


***


 その後二人は、肩を組みながらなんとか洞窟からはい出し、そばにある湖に移動した。二人とも魔物の血を全身に浴びていたので、とにかく洗い流したかった。

 服のままバシャバシャと湖に入っていく。湖の水はひんやりとしていて、ヘトヘトの体に気持ちよかった。

 二人は完全に脱力して水面に浮かぶ。

 空は抜けるように青く、レナは流れていく雲を眺めながら思った。


(あー、明日絶対に筋肉痛だな……)


 それから二人は、しばらく無言のまま空を見つめていた。

 リオは、レナのことを思い返していた。レナの目が光っていたこと、そして体が闇に溶けて消えてしまったこと、一瞬にして魔物を切ったこと――今でも自分の見たものが信じられなかった。

 リオは目を閉じる。


(レナは……普通ではない! あれは……人間の能力をこえた力だ!)


 その時、レナがつぶやいた。


「私は、普通じゃない……」


 レナも同じことを考えていた。


「自分の中に、得体(えたい)の知れない何かが存在している……」


 レナの声は少し震えている。


「……俺も、見たよ」


 リオは静かに答えた。


「君の身体能力はもともとすごいが、あれは……そういうレベルではないと思う」


 そして、思ったままを伝えた。

 レナは空を見つめたまま動かない。


「俺と同じように、君は何かしらの力を持っているんだ」


 リオがそう言うと、レナが顔を向けた。


「でもこれは、リオみたいに剣の力とかじゃない……私、自分がわからない……私は一体何者なの?」


 その表情は不安に満ちていた。そしてレナの問いに、明確な答えなど出せるはずもなかった。

 リオは何も言えずにレナを見つめた。

 レナは、リオの目に映る自分が人間ではなく、魔物のような忌まわしい生き物に見えているのではないかと自虐的な気分になった。

 だから魔物なんかに狙われるんだ――。


「そうだ……」


 そこでレナは、自分が覚醒したきっかけを思い出した。


「そう言えば、魔物たちから聞こえた女の人の声……あれはセラ王妃の声だったのかしら?」


「声? ああ……そうかもしれないな」


 レナの質問に、リオも記憶をたどりながら答えた。


「レナが誰かに似ていて……それが、忌まわしい過去を思い出させるって……」


 レナもつぶやいた。


「忌まわしい過去……」

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