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イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
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第5話 セラ王妃


 レナはウルネス王から逃れようと必死に抵抗していた。

 それすらも楽しんでいる様子のウルネス王だったが、突然レナに顔をぐっと近づけてきた。どきっとして固まるレナ。


「私は王だ。これは命令だ。おとなしく私に従え」


 ウルネス王にそう言われたレナは、はっとわれに返った。王の言葉は神の言葉に等しい――。レナは抵抗をやめて、恐る恐る体の力を抜いた。


「そうだ、それでいい」


 ウルネス王の整った顔が目の前にあり、その声が聞こえているのに、レナには今自分に起きていることが現実のものとはとても思えなかった。心臓があり得ないくらいバクバクしている。

 ウルネス王が体重をかけてきた。


(どうしよう、どうしたらいいの⁉︎)


 レナが叫び出しそうになったその時――。


「ウルネス、何をなさっているのですか?」


 氷のようにひんやりとした声が部屋に響いた。

 完全に時が止まる。

 ウルネス王も真顔のままで固まっている。そしてたっぷり間を取ってから、声がした方を振り返った。

 そこにはセラ王妃が立っていた。


「セラ……」


 ウルネス王が目を細め、引きつった表情でつぶやく。


(セ、セラ王妃!)


 レナは感覚的にそれはとてもまずいと感じ、また違った種類の緊張が体を走った。


「そこで……何をしている?」


 ウルネス王も、あえて質問するしかなかった。

 しかしその時、セラ王妃の背後にメデューサのような影がはっきりと見えた。


(うっ――⁉︎)


 さすがのウルネス王もたじろいだ。レナも固まった――いや、もう石になっていた。

 ウルネス王は小さく舌打ちをするとレナに言った。


「レナ、下がれ」


「はいっ!」


 レナはウルネス王の命令に食い気味に返事をすると、全速力で部屋の外まで逃げていった。そして慌てて扉を閉めると立ちすくんだ。


「た、助かった……」


 レナのつぶやきは、ウルネス王からなのかセラ王妃からなのか、自分でもわからなかった。

 そしてレナのことを、入口の警備兵二人が好奇の目で見下ろしている。


「うおお、部屋の中はどうなってんだよ⁉︎」


「ウルネス様、大丈夫かな?」


 好奇心が抑えきれない彼らは、心の声が漏れてしまっていた。


***


 ウルネス王の部屋では、王と王妃がにらみ合っていた。


「セラ、一体なんの用だ?」


 そう言うと、ウルネス王は不機嫌な顔で腕組みをした。


「たとえ王妃であろうとも勝手に私の部屋に入ることは許さぬぞ。それに具合が悪かったのではないのか?」


 セラ王妃は、ウルネス王のトゲのある言葉には一切反応せず、きっぱりと告げた。


「あの娘は気に入りません」


 それを聞いたウルネス王は、少し眉を上げて表情を変えた。


「どうした? あの娘のどこが気に入らぬ?」


 にやりとして聞き返した。

 セラ王妃は無言のまま、ウルネス王をにらみつけた。


***


 ウルネス王の部屋から追い出されたレナは、侍女に連れられて、とある部屋に案内されていた。


「こちらがレナ様のお部屋でございます」


 レナは自分に『様』などと付けられて、ぎょっとした。そして、私の部屋とはどういうことだろうと思っていると、おもむろに服を渡された。


「こちらが着替えでございます」


「あ、ありがとうございます……」


 反射的に受け取ったものの、随分キラキラした布だなと思った。広げてみると、ひらひらとしたドレスだった。


「ぶっ⁉︎」


 レナは驚いて侍女に訴えた。


「こ、この様な服では国王の護衛はできません!」


 それを聞いて侍女は目を丸くした。


「まあ⁉︎ 先ほど部屋に呼ばれてわかったでしょう? あなたの役目は護衛ではありませんわ」


「……え?」


 レナは、先ほどウルネス王にキスをされたシーンが頭の中にボンと出てきて、真っ赤になった。


「そ、そんな……」


(なんか自分の思ってたのと違う――!)


 レナは激しく動揺した。レナの戸惑いの表情を見た侍女の一人が吹き出した。


「なんて顔をなさっているのですか? ウルネス様に気に入られたというのに」


 すると、別の侍女が声を潜めて言った。


「でも、今回はセラ様が気に入らないようですね」


 そこから侍女たちのうわさ話に花が咲いた。


「そうそう、わざわざウルネス様の部屋までけん制に行くなんて」


「まあねえ、セラ様の嫉妬深さといったら……それはそれは有名ですから」


「ウルネス様も……まあ、とてもお好きですからねえ」


 それから侍女たちは、レナの方を向いて目を細めて言った。


「ウルネス様に気に入られた娘が、不審な死に方をしたのは一度や二度ではありませんから……」


「え……?」


 サーッと血の気が引いていくレナ。すると侍女たちは笑った。


「なーんてね! それは昔の話です」


 爽やかに昔話と言われても、実話ならレナにとって全然笑い事ではない。侍女たちのおしゃべりは、まだ止まらない。


「でも今では、お二人の仲はすっかり冷え切っているはずなのに、どうしてかしら?」


「まあどんな理由にせよ、セラ様に目をつけられては……」


「今回はひと波乱、ありそうですね!」


 侍女たちは、レナに降りかかるかもしれない災難を楽しむように盛り上がった。レナは侍女たちを見ながら、やっぱり自分の思ってたのと違うと、強く思うのだった。


「さあ今日はもうおやすみなさい、明日は忙しいですよ。あなたを美しく変身させなくてはなりませんからね」


 そう言うと、侍女たちは部屋を出て行った。急に静かになった部屋に、一人たたずむレナ。


「…………」


 そして、豪華すぎる部屋をゆっくりと見回しながら心の中で叫んだ。


(ムル様! 私は一体どうすればいいんですかー⁉︎)

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