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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
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第49話 覚醒


 洞窟内に女性の声が響く。

 レナは何か特別な言葉なのではないかと思い、一言も聞き漏らさないように集中する。


(似ている? 過去を思い出させる? 一体なんのことを言っているの⁉︎)


 しかし、意味が全くわからない。


『……クク』


『ククク……殺す……』


 いつの間にか、女性の声から魔物たちの声に戻ってしまった。


『レナ……殺す』


『殺す……約束……』


 その時ひらめきのようにレナの頭の中で、意味のわからない単語と単語がつながった。


(それって……)


 レナは、あぜんとした表情で口を開けた。


「似ている……から……殺す……?」


 やっと絞り出すように言葉が出た。


(まさか……それが理由なの……⁉︎)


 レナは本当にショックを受けた。


(あり得ない……)


 とても納得できる理由ではない――。

 王宮で魔物が解放されてから、理由もわからず命を狙われてきた。常に脅威にさらされ眠れない夜を過ごしてきた。

 その理由が似ている?

 誰に?

 そんな理由で私はこんな目に合っているの?

 次第に、体の奥底から激しい怒りが込み上げてきた。心臓が激しく脈打ち、見る見るうちにレナの顔つきが変わっていった。

 そして次の瞬間、レナは魔物の群れに飛び込んでいた。


「ふざけるな!」


 レナは怒りに任せてめちゃくちゃに剣を振り回し、魔物に切りつけた。


「言え! 誰に似ている⁉︎」


 得体(えたい)の知れない感情が、体の中から込み上げてくる。

 レナは頭の片隅で、この感覚を前にも経験したことがあると思った。その時は怖いと感じたが、今はもうこの怒りにも似た感情を止める気はなかった。

 むしろ解放したいとさえ思った。


「レナ、落ち着け! 囲まれてる!」


 リオが叫んだが、その声はレナの耳に届いていない。それほど今のレナは怒りに支配されていた。


「おまえか⁉︎ おまえが言ったのか⁉︎ 答えろ!」


 レナは、叫びながら目の前の魔物を細切れにしていく。しかし、すぐに他の魔物たちに取り囲まれてしまう。


「危ない、レナ! 後ろ!」


 リオが叫んだその時、一匹の魔物がレナの左肩にかみ付いた。


「うっ⁉︎」


 おそらくこの瞬間、レナの中のリミッターが外れた――。

 そして、レナは持っていたたいまつを落としてしまった。


「大丈夫か⁉︎ とにかく落ち着け!」


(明かりを失ったらアウトだ!)


 リオは慌ててレナの肩の魔物を切り落とした。


「はっ⁉︎」


 しかし、リオはそのまま息をのんだ。

 レナは剣を構え、まるで牙を剥く獣のようにすごい形相で魔物をにらみ付けている。そして、その目が光っていたのだ。


(なっ――目が⁉︎)


 リオはレナの光る瞳にくぎ付けになった。

 すると信じられないことが起こった。

 レナの体が闇に吸収されていくかのように、溶けるように消え始めたのだ。


「えっ――⁉︎」


 驚愕(きょうがく)するリオ。本当にあり得ないことだが、見たままを表現するとしたら、それ以外に言葉が見つからなかった。

 そしてレナの体は闇に溶けて、完全に消えてしまった。


(レナが……消えた――⁉︎)


 リオは、ただ見つめることしかできなかった。

 その時、魔物たちが飛び掛かってきたので、リオは瞬時に身構えた。しかし、その魔物たちは目の前で奇麗に真っ二つに切られた。


「⁉︎」


 リオには一瞬何が起こったのかわからなかった。

 次の瞬間――洞窟の壁中に張り付いていた魔物たちが、ものすごい速さで切られていった。


「なっ――⁉︎」


 その光景も、リオはただ見ていることしかできなかった。

 切られた魔物たちの血が、洞窟内のあらゆる角度から一斉に飛び散った。その血しぶきはあまりにも統一感があり、むしろ芸術的だった。魔物たちの血が、赤い雨のように洞窟内に降り注ぐ。

 そして、ぎりぎり明かりが届く一番奥にレナの姿があった。レナの剣から真っ赤な血が滴り落ちている。

 さっきまであれほど怒りに満ちた表情をしていたのに、今はまるで別人だった。全ての感情が消えて無になったような表情でたたずんでいる。


(レナ――⁉︎)


 リオは、感覚的にレナが全ての魔物を切ったのだとわかった。彼の目には見えなかったが、間違いなくあの一瞬のうちに一匹一匹をレナが切っていったのだ。

 それはレナさえも知らない、彼女の中に眠る本当の力が覚醒した瞬間だった。

 そしてリオは、その瞬間を目撃してしまったのだ。


「すごい……」


 リオはつぶやいた。全身に鳥肌が立っていた。


(なんなんだ、今のは――⁉︎ レナ、君は何をしたんだ……⁉︎)


 その時、リオは剣を握る右手に違和感を感じる。

 慌てて見ると冥府の剣が光っていた。


「なっ⁉︎」


 それはまるでレナの力に刺激を受けて共鳴するかのように、剣が自らエネルギーを発してリオの手に伝えているように感じた。


「――!」


 こんな事は初めてだった。


「はっ⁉︎」


 レナはわれに返った。


(私……今……?)


 間違いなく記憶と感覚が残っている。しかし自分の身に起こったことを、どう理解すればいいのかわからなかった。

 レナは戸惑いながら自分の手を見つめる。頭の中は完全に混乱していた。


(この感覚はなんなの⁉︎ 私は……私は一体……)


 そしてレナは、がくりと地面に膝をついた。体が鉛のように重い。さっきの攻撃で、かなりの体力を消耗してしまっていた。


(私に一体何が起こっているの⁉︎)

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