第46話 リオの正体
話し合いも終わり、三人はムルの案内で離れの部屋へ移動することになった。
部屋を出て、レナはすぐに異変に気付いた。いつの間にか、村の兵士たちに取り囲まれていたのだ。
「えっ⁉︎」
しかも、ただならぬ気配を感じる。
「みんな……どうしたの?」
レナには全く意味がわからなかったが、リオは嫌な予感しかしなかった。
(……やはりバレていたか)
レナは、戸惑いながらムルの方を見た。
「ムル様……これは一体⁉︎」
すると、ムルがレナに告げた。
「彼は、アサニス国の兵士だ」
「えっ⁉︎」
その言葉は、レナには唐突すぎて一瞬理解できなかった。
(アサニス国の兵士⁉︎ リオが⁉︎)
「そんな――」
明らかに動揺しているレナを見て、ムルは心が痛んだ。本当に何も知らなかったのだろう。
そして、それはリオも同じだった。
こんな形でレナをだましていたことが明かされてしまい、いたたまれない気持ちだった。
(レナ……すまない)
リオは、心の中でレナに謝るしかなかった。そしてこの状況は、かなり危機的だった。
周りの兵士たちが、一斉に剣を抜いた。
それを見て、レナは慌ててムルに訴えた。
「何かの間違いです! リオは私の命の恩人です!」
「どんな理由があろうと、アサニス国の兵士をこの村で生かしておくわけにはいかない!」
「ムル様――!」
ムルの非情な言葉に、レナは息が詰まる思いだった。
その間にも兵士たちは、じりじりとリオとの距離を詰める。
「みんな――待って!」
レナはこの現実に気持ちが追いつかなかったが、混乱しながらも心の中で叫んでいた。
(やめて! お願い!)
リオが剣を抜いた瞬間、兵士たちが飛びかかった。いくらリオでも、村のメンバーが相手となればただでは済まない。
兵士たちは、まるでリオの腕を試すように攻撃を仕掛ける。それに対して、リオは懸命に攻撃をかわす。
その動きに、全員がすぐにおかしいと気づいた。それはまるで、レナのかわす戦い方を真似ているようだった。
「おまえ……何考えてんだ⁉︎」
兵士たちも戸惑う。
(リオ⁉︎)
レナは、リオの剣を見て確信した。
(剣が光っていない! リオは戦いたくないんだ!)
その瞬間、無意識にレナの体が動いていた。
レナは、リオと仲間の間に割り込んだのだ。
「レナ⁉︎ 何をする!」
「お願い、やめて!」
レナが叫んだ。
リオも驚いてレナを見た。
(レナ⁉︎)
自分の目の前で両手を広げるレナの背中を見ながら、かばってもらうのは二度目だと思った。
レナは自分でも、自身の行動に戸惑っていた。頭の中で、リオがアサニス国の兵士だという言葉が、ぐるぐるとめぐっている。
(どうしよう、どうしたらいいの⁉︎)
兵士たちも、さすがにレナには手が出せず動きを止めた。
「こいつをかばうのか⁉︎」
「――⁉︎」
レナは答えることができず、じりじりと後ずさった。
「リオ、こっちへ!」
そしてレナはリオの手を引くと、背後に広がる森の暗闇の中に逃げ込んだ。
ムルが叫んだ。
「逃げたぞ!」
しかし、どういうわけか兵士たちは追おうとしなかった。
「……どうした?」
戸惑うムルに、兵士たちは言った。
「相手はレナだ。この暗闇を追っても無駄だ」
「ああ、そうだな」
ムルがつぶやく。
「おまえたち……」
そして、兵士の一人がぼそりと言った。
「レナの……命の恩人なんだろ? まあ、今回だけはその借りを返す」
ムルは、みんなの心意気に感謝した。
「みんな……すまない!」
レナは、リオの手を引きながら暗闇を駆け抜けていた。しかし、頭の中は完全にパニック状態だった。
(私、とんでもないことを! 敵国の兵士を助けてしまった⁉︎ ムル様やみんなを裏切ってしまった!)
レナの行動に、リオも信じられない思いだった。
(レナ、どうして俺を助けたんだ⁉︎)
そして、何も見えない暗闇を走っているこの感覚だけが、やけにリアルに感じた。まるで暗闇に自分の体が溶け込んでいくような、不思議な感覚だった。
ほどなくして、二人は森が開けた場所で止まった。息を切らした二人の呼吸だけが聞こえる。
レナは、必死に冷静になろうとしていた。
(考えなきゃ……冷静になって……)
すると、どうしてもリオとの旅の映像が浮かんできてしまう。
「どうして……⁉︎」
レナは剣を抜いた。
「私はエスプラタ国の兵士なのよ! それはアサニス国と……あなたと戦うということなのよ!」
リオをにらみ付ける。
「レナ……すまない!」
悲しげな表情で謝るリオに、心が揺れる。
(リオと戦って勝てるわけがない……でもこの暗闇なら、私にも勝機があるかも)
そこまで考えた時に、レナの心に悲しみがこみ上げた。
(ううん、そんなことじゃない! 私は……私はリオと戦えるの?)
「どうしてなの? 私がエスプラタ国の兵士とわかっていながら――!」
レナの瞳から大粒の涙がこぼれた。
「レナ――」
その涙を見た瞬間、リオの心は激しく動揺した。本当に、胸が締め付けられる思いだった。
(ごめん……! ごめん、レナ……!)
すると突然、リオは剣も抜かずにレナに飛びかかってきたのだ。
「えっ⁉︎」
突然のことに驚くレナ。
(何⁉︎ 何を考えているの⁉︎)
リオは、明らかにレナの腕を捕まえようとしていた。とっさに避けながら、リオの動きに戸惑うことしかできなかった。
レナが剣を構えているにも関わらず、リオは素手で飛び込んでくるので、剣がリオの体をかすめる。
このままでは、リオを傷つけてしまう。
「リオ、やめて!」
レナは思わず叫んだ。