第44話 レナの村
レナは驚きと興奮で、感情を整理できずにいた。単純に、リオの強さに感動している自分がいる。
しかし、強すぎるのだ。瞬間的に見せるリオのオーラに、恐怖すら覚える。
そして何より驚きなのは、不死と思われる魔物ですら倒してしまうことだった。
「一体どういうことなの……⁉︎」
結局、質問攻めになってしまった。
「どうしてリオは、そんなに魔物に詳しいの⁉︎ なんで、不死の魔物を倒せるの⁉︎」
「…………」
リオは、少し表情を曇らせている。
そして間を置いてから、言葉を選ぶように答えた。
「……この剣には、特別な力があって……魔物に有効なんだ」
「魔物に有効?」
確かにこの剣で切られると、魔物は破壊されるようなダメージを受けていた。それは剣の特別な力なのだと、やっと腑に落ちる思いだった。
それにしても、リオはいつもレナの想像もできないことを言う。
「そんな剣があるなんて……!」
レナは感服しきった表情で、リオの剣をのぞき込んだ。
(この剣のことは、知らないか……)
内心、ほっとするリオ。
そして、明らかに触ってみたくてウズウズしているレナに、剣を手渡した。
「おっ、重い!」
レナは驚いた。剣はずっしりと重く、レナではとても扱えるものではなかった。
「こんな重い剣を軽々と……リオって本当にすごい!」
レナは、剣を抜いてまじまじと眺めた。これといって、特殊な剣には見えなかった。
(でも確かに、光って見えたんだけどな……)
レナの様子を見ながら、リオはぼそりと言った。
「俺がこの剣を扱えるのは……この剣に選ばれたからなんだ」
それを聞いて、レナは目を丸くした。
「剣に選ばれた⁉︎」
(なにそれー! 超かっこいいー!)
レナは思わず叫ぶと、目を輝かせて剣を空にかざす。
「リオだから光るのか! すごいね!」
レナは無邪気に『すごい』と言うが、リオは複雑な気持ちだった。
(選ばれた――か……)
この剣の場合、決して光栄なことではなかった。
そして、リオの心が、チクリと痛んだ。
(レナは、本当の俺を知らない……)
二人は既に、エスプラタ国に入っていた。
国境は警備をしている様子もなく、すんなり進むことができた。レナも、何も気づいていないようだった。
ひとまず、ホッとするリオ。
今後は自分がアサニス国の人間だと、バレないように気をつけなければならない。
そのまま二人は、まっすぐレナの村に向かった。
村が近づくと、レナはそわそわと落ち着かなくなってきた。
「あっ、見えてきた!」
村が視界に入ると、レナは居ても立っても居られなくなり馬を走らせた。
リオも慌てて追いかける。
レナはそのまま馬で村に駆け込むと、今度は馬から飛び降りて走っていってしまった。
レナは、辺りを見回しながら顔を輝かせた。
「ああ! 変わってない!」
(良かった! 村は無事だ!)
懐かしさに、思わず涙腺が緩みそうになる。
そして、レナはムルを見つけ声を上げた。
「ムル様!」
その聞き覚えのある声に、ムルも驚いて振り向いた。
「レナ⁉︎」
レナは、走ってムルに抱きついた。
突然目の前に現れたレナに、ムルも信じられない思いだった。
「おまえ……! 無事だったのか⁉︎」
「ムル様……ムル様!」
その瞬間、せきを切ったようにレナの目から涙があふれた。
ムルも夢ではないことを確認するように、泣きじゃくるレナを抱きしめた。
「良かった……本当に良かった!」
周りのみんなも、レナに気づき大騒ぎになった。
「レナ⁉︎」
「おい! レナじゃないか!」
みんなが大喜びで、レナの元に集まってきた。
「レナー!」
その時、ひときわ大きな声が聞こえた。
「おまえ、生きてたのかよ!」
「ルカス!」
レナは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ルカスと大はしゃぎで抱き合った。
「城での話は聞いていた! よく無事でいたな!」
ムルは本当に感激したように、レナの頭をなでた。
「この村は、大丈夫でしたか?」
レナも、涙を拭いながら聞いた。
「ああ、ここは大丈夫だ。ここにいるのは、屈強な男ばかりだからな」
「よかった!」
頼もしい返事が返ってきて、レナは泣きながら笑った。
レナたちの感動の再会を、リオは静かに見守っていた。
正直、レナがあんなに泣いていることに驚いていた。自分の前では、どちらかと言えば飄々としているように見えたが、本当は相当な恐怖と戦っていたのだと、あの涙が物語っていた。
そして、ムルがリオに気がついた。
「彼はリオです」
レナが紹介をする。
「私の命の恩人です! 魔物に襲われているところを、助けてもらったんです」
「そうでしたか……それはありがとうございました。感謝します」
ムルは、リオに頭を下げた。
「リオです」
リオも丁寧に頭を下げた。
それからレナとリオは、喜ぶ村の人々にもみくちゃにされながらムルの家へ向かった。
リオも、みんなに歓迎された。
その日の夜は、当然大宴会となった。人々はレナの無事を喜び、レナもみんなと喜びを分かち合い、泣いたり笑ったり大忙しだった。
リオは、その様子をずっと見ていた。
レナが村のみんなに愛されているのがよく分かって、微笑ましかった。
そして何より、レナの屈託のない笑顔に、リオの心もいやされるのだった。
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