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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
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第43話 人知をこえた力


 レナとリオは、死体を見て息をのんだ。


(まだ新しい――!)


 そして死体の傷から、魔物の仕業だと確信する。

 レナは唇をかんだ。


(そんな……昨日の今日なのに!)


 怒りにも似た感情が、込み上げてくる。

 リオも、焦燥感に駆られていた。


(神殿に封印されていた魔物が解放されるということは、こういうことなのか……!)


 魔物の蔓延(まんえん)は、想像以上だった。

 リオは、不安を振り払うように言った。


「レナ、行こう!」


「うん!」


 二人は馬を走らせた。

 すぐに、木に絡みつく魔物が見えてきた。


(やっぱり魔物だ――!)


 しかし、レナはそのすぐ下に泣き叫ぶ子どもがいるのを見つける。


「子どもがいる⁉︎」


 魔物は、今にも子どもに襲いかかりそうだった。

 レナが叫ぶ。


「どうする⁉︎ リオ!」


 リオは、剣を抜きながら答えた。


「このまま走り抜けよう! 魔物は俺が切る!」


「分かった! 私は子どもを助ける!」


 二人はスピードを上げた。リオは、剣に力を込める。レナは、自分の体を馬の横腹まで倒した。

 リオが魔物の首が切り落とすのと、レナが子どもを抱き上げるのは同時だった。

 そして二人は、魔物が木から落ちるのを横目で確認しながら遠ざかった。

 レナは、泣きじゃくる子どもを強く抱きしめた。この恐ろしい事態は、自分が関係しているかもしれないのだ。そう思うと、レナはどうしても罪悪感に苛まれてしまうのだった。


 二人は、すぐ村に到着した。村はひどい状態だった。至る所に死体がごろごろと転がっている。


「ひどい……!」


 レナは、今度ははっきりと、怒りが込み上げてくるのが分かった。

 幸いなことに、子どもの母親は無事だった。再会し、抱き合う親子の姿を見ることができて、心からほっとするレナ。

 そして二人とも、村の広場に堂々と陣取っている魔物の存在を、はっきりと確認していた。

 魔物の体は球体で、タコやイカの足みたいな触手が生えており、ひときわ異質に見えた。


(また、変な形しやがって……!)


 レナの中で、怒りがふつふつと湧いてくる。

 一方リオは、この魔物の形に違和感を覚える。


(頭も心臓も、どこだか分からない……こいつ、もしかして――)


 しかし、レナは怒りに任せて魔物に飛びかかってしまった。


「レナ、待って!」


 リオが叫んだ時には、レナはすでに魔物の触手を一本切り落としていた。

 すると、切った傷口から触手が二本生えてきた。


「なっ――⁉︎」


 その気持ち悪さに、ぎょっとするレナ。

 慌てて、その二本の触手を切り落とす。するとそこから、さらに二本の触手が生えてきた。


「⁉︎」


 さらに切ると、そこから二本……。


(ぎょええぇぇ! 気持ち悪い!)


 たぶん、レナは人生で一番鳥肌が立った。そして怒りの気持ちも、急激になえてしまった。

 レナがいったん魔物から離れると、リオが駆け寄ってきた。


「切らない方がいい! こいつは多分、再生能力が極端に早い魔物だ。切れば切るほど大きくなってしまう!」


「再生……? そんなのがいるの⁉︎」


 レナには想像もできなかった。


「じゃあ、どう戦えばいいの⁉︎」


 レナの質問に、リオは冷静だった。


「おそらく、俺の剣で直接心臓を破壊しないと駄目だろうな」


 それを聞いて、レナは違和感にも似た疑問が湧いた。


(どうしてリオは、そんなことを知っているの?)


 あまりにも、魔物との戦いに精通しすぎている。

 その時、リオがレナに言った。


「魔物相手に怒りで戦っては駄目だ。心の隙につけ込まれるぞ」


 その言葉に、レナはハッとする。

 そして、自分がもう一人ではなんだと再確認し、心強く感じた。


「そっか……」


 レナは、くすりと笑った。


(私には、とんでもなく頼もしい味方ができたんだな)


「ごめん、リオ。何回か切っちゃったから、増えちゃった」


 レナがそう言って笑っているので、リオは不思議そうな顔をしている。


「でもリオは、この魔物を倒せるんだよね?」


「えっ? あ、うん……そうだね」


 レナの質問に、普通に答えるリオ。


(すごいな……本当に簡単に言うんだな)


 リオが強すぎて、レナはなんだか笑うしかない気持ちになった。

 しかしその時、リオが触手に捕まってしまう。魔物の球体部分が、まるで口のように裂けると、リオはそのまま飲み込まれそうになった。


「リオ⁉︎」


 レナは、慌てて応戦しようと剣を構える。


(あっ、切ったら駄目なのか! どうしよう⁉︎)


 レナが戸惑っているうちに、リオの体はどんどん球体の中に埋もれていく。

 しかしよく見ると、リオは自分から中へと進んでいたのだ。リオの剣は、魔物の体を焼き切るように中心に向かっていく。

 そしてついに、魔物の心臓が現れた。

 リオが構えると、魔物の球体の表面にあった目玉のようなものが、ぎょろりとリオの剣を見た。


『その剣は……おまえ、まさか――』


「…………」


 魔物の言葉に無言でいるリオ。

 レナはその横顔に、リオのオーラに、一瞬ぞくりとした。

 リオは無言のまま、魔物の心臓を一突きにした。

 魔物は叫び声を上げると、その体は爆発するように壊れた。そして、ぐちゃりと地面に崩れ落ちた。


「…………!」


 レナは魔物が簡単に倒されるのを、再び目の当たりにした。そして今度は、なぜか鳥肌が立った。


(こんなことって、あり得るの⁉︎)


 リオの強さは、人知をこえていた。

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