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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
42/56

第42話 出発


 レナは満面の笑みで、リオの手を握りブンブンと振り回していた。

 リオは、次第に違和感を感じ始める。


(……ん?)


 なぜかレナは、握手の手を離してくれない。そしてまだ、ニコニコと笑っている。


「むふふふふ……」


 レナの変な笑い方に、ちょっと怖くなるリオ。

 するとレナは目を輝かせ、声を弾ませた。


「リオ! あなたって、すごく強いのね! あの魔物を一瞬で倒すなんて!」


 完全に尊敬のまなざしだった。


「えっ?」


 レナの言葉に、戸惑うリオ。


「こんなに強いってことは、もしかして、メルブ将軍かアトス将軍の部隊にいたのかしら⁉︎」


 レナは、まだ瞳をキラキラさせ興奮気味に続けた。


「それなら私たち、どこかで会っていたかも!」


 リオは、ドキッとした。


(そう……一つ大きな問題がある)


 心の中でつぶやいた。


(俺たちは、敵国同士の人間――しかも彼女は、エスプラタ国の兵士だ)


 レナは、そんなことには全く気づいていない様子で、独り言を言っている。


「あっ、それなら魔物解放のことは、知ってるはずか……」


 リオは、レナを見て思った。


(この様子だと、彼女は自分が今、アサニス国にいることに気づいていない。逃げているうちに、国境をこえてしまったんだろう)


 リオは考えを巡らせた。

 レナが、ここアサニスの地で、エスプラタ国の兵士だとバレるのは厄介だった。早々に、エスプラタ国に入るのが賢明だ。


(そうすると、今度は俺がアサニス国の人間だとバレるのがまずい……)


 リオは、その場を取り繕った。


「俺は、なんていうか……説明が難しいんだけど……部隊には所属していないんだ」


 うそではない。


「えぇ⁉︎ そうなの⁉︎ なんで⁉︎ あんなに強いのに⁉︎」


 レナは、まだ無邪気に質問してくる。


「じゃあ、リオって一体何者なの⁉︎」


(うぅ……なんかこの感じ……どうしたらいいんだ⁉︎)


 リオは、慌てて話を逸らした。


「まぁまぁ、俺のことはいいから! 今日はもう休んで! 明日は早めに出発しよう!」


 それを聞いたレナは、いいように勘違いした。


(強いのに謙遜! 一番かっこいいやつだ!)


 そそくさと部屋を出ようとするリオを、レナが呼び止めた。


「あっ、リオ」


 振り向くリオに、レナは素直に感謝を伝えた。


「私の話を、信じてくれてありがとう」


 すると、リオは少し驚いたような表情を見せた。


「おやすみなさい」


 レナがそう言うと、今度は少し穏やかな表情になって返事をした。


「……おやすみ」


***


 次の日、レナの馬を手に入れた二人は街を出発した。

 穏やかな、いい天気だった。

 アサニス国とエスプラタ国の国境にある、この森林地帯を抜ければ、エスプラタ国に入るのは簡単そうだった。

 リオは、馬に揺られながらつぶやく。


「さてと、まずはどこへ向かうか……?」


 今後のことを、考えなければならない。

 すると、レナが提案してきた。


「それなら、私の村に行くのはどう?」


「レナの村?」


「王宮の様子を、ムル様に教えてもらえるわ!」


 それからレナは、寂しそうな表情になった。


「本当は村に戻りたかったんだけど、魔物を引き連れて行くわけにいかないし……」


 それを聞いて、リオは気の毒に思った。


(そうか……自分の家にも帰れなかったのか)


「じゃあ、そうしよう」


 リオがそう言うと、レナは嬉しそうな笑顔を見せた。


「ありがとう!」


 そしてレナは空を見上げて、村のみんなに思いを馳せた。


(ムル様……ルカス……みんなに会える! みんな無事かな? 無事だよね⁉︎)


 一方、リオは内心不安だった。


(兵士の村か……大丈夫かな?)


 そして、ふと疑問に思った。


「レナは、どうして兵士になったの?」


「えっ?」


「だって、すごく珍しいと思って……」


 リオの質問に、レナは髪を耳にかけながら答えた。


「私、捨て子だったの」


 そして話を続けた。


「けがをして、瀕死(ひんし)の赤ん坊だった私を、ムル様が助けてくれたの。そして、娘のように育ててもらった……。兵士の村だったし、少しでもムル様の役に立ちたくて兵士になったの」


 レナは、そう言ってほほ笑んだ。


「そうだったんだ……」


 リオは、もう一つ質問する。


「それじゃあ、訓練をして暗闇で目が見えるようになったの?」


 その質問には、困った表情になるレナ。


「それは……生まれつきっていうか、自分でも分からないけど……見えるの」


「そうなんだ」


(普通に考えたら、すごい能力だよなあ)


 そこでリオはひらめく。


(そうか! その能力を買われて王宮にいたのか。やはり彼女は、ただの兵士ではない……?)


 しかし、レナの話題はもう変わっていた。


「そんなことより、ムル様は料理人顔負けの腕前なのよ! ああ、ムル様の作ったご飯が食べたいなあ!」


 レナのうっとりした表情を見て、リオは冷静になった。


(いや……ないな。能力の話より、食べ物の話の方が真剣だもんな……)


 そして、レナの言う『ムル様』というのは、リオにとって要注意人物だろうと思った。

 その時、二人は前方の異変に気が付く。


「あれは――⁉︎」


 道端に何かが落ちていた。

 のどかな空気が一変する。

 それは、壊れた荷馬車と死体だった。

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