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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
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第41話 相棒


 リオは、レナという不思議な娘を、心から面白いと思ってしまった。

 魔物から命を狙われる人間なんて、聞いたことがない。一体どんな理由があるのか、リオには見当もつかなかった。

 しかし今のレナを見れば、彼女の話を信じることができた。あの魔物では、とてもレナを捕まえることなどできない――彼女は、まるで空気をつかむようにすり抜けてまうのだから。

 レナのおかげで、リオは魔物の全体像を把握することができた。

 これは、自分も本気を出すしかない。

 リオは剣を持つ手に力を込めた。すると一瞬にして、炎のようなオーラがリオの全身を包んだ。

 一方レナは、想像をこえる魔物の大きさにショックを受けていた。


「うう……こんなに大きかったなんて!」


(あんな小さいところを切りつけようとしてたなんて……恥ずかしい!)


「もう、変な形してっ」


 レナはどさくさに紛れて、たいまつで魔物をたたいた。

 その時、背後でリオの声がした。


「レナ、魔物から離れて!」


「えっ⁉︎」


 振り向くと、剣を構えたリオがすぐそばにいたので驚いた。しかも目の錯覚なのか、リオの握る剣は光を放っているように見える。


(えっ⁉︎)


 そのまま、リオとすれ違った。

 そしてレナは、リオを目で追いながら信じられないものを目撃する。リオの剣が魔物に触れた瞬間、その接点から炎が噴き出したのだ。


「なっ――⁉︎」


 レナは小さく叫んだ。

 そして、リオの剣は火の粉を放ちながら、いとも簡単に魔物の体を切り裂いていく。

 魔物は叫び声をあげながら、体をのけ反らせた。そして魔物は、はっと驚く。


『こっ、この剣は⁉︎ まさか――⁉︎』


 次の瞬間、傷口が赤く光り膨張すると、まるで爆発するように吹き飛んだのだ。

 レナは叫び声を上げた。


「はああああ⁉︎」


 リオは続けて十字を切るように、さらに斜めにと魔物を切り付けた。魔物の体は刻まれ、見るも無残な肉片になっていく。

 レナが着地した場所にも、魔物の肉片が飛び散ってきた。

 その光景は、だいぶグロテスクで恐ろしいはずだったが、レナは恐怖を感じるのも忘れるくらいに驚いていた。


(――――⁉︎)


 自分の目が信じられない。それくらいリオ攻撃は、あり得ないものだった。

 あの巨大な魔物が、あっという間に倒されてしまったのだ。

 そしてレナの見つめる先には、全身に魔物の返り血を浴びたリオが静かにたたずんでいた。その恐ろしい姿からは考えられないほど、冷静な表情をしている。


「ちょっ――……」


 本当に言葉が見つからない。

 すると、リオがレナに気がつき、慌てて駆け寄ってきた。


「ごめん! つい力が入ってしまって……大丈夫?」


 リオの口調はあまりにも普通すぎて、それがまたレナを混乱させた。


(こっ、この人なんなの⁉︎ 本当に人間なの⁉︎ すごすぎるんだけど!)


 レナは放心状態のまま、リオに言った。


「あの……強すぎるんですけど……」


 結局、言葉はこれしか出てこなかった。

 すると、リオは少しほほ笑んで言った。


「信じるよ」


「えっ?」


 われに返るレナ。

 リオは、もう一度繰り返した。


「君の話を、信じるよ」


***


 その後、二人は宿に戻った。もう一度、体を洗い直す羽目になってしまったからだ。

 宿に被害はなく、そのまま体を休めることにしたが、二人ともとても眠れそうになかった。

 しばらくして、リオがレナの部屋を訪ねてきた。そして、レナに同行したいと言ってきたのだ。

 レナは驚いた。そんな奇特な人間が、この世にいるとは。


「お互い調べたいことが一緒なんだったら、協力した方がいいんじゃないかな」


 リオの言葉はとても魅力的だったが、躊躇(ちゅうちょ)する気持ちもあった。


「それは、願ってもないことだけど……何て言うか、すごく危険だし……」


(それに私、ただ逃げてただけで、調べていたわけでは……)


 すると、リオが言った。


「まあ、ここで別れても、また会うことになると思うし」


(確かにそうか……ある意味、私は魔物に追われていて、彼は魔物を追っているんだから)


 そこは、レナも同感だった。

 しかも彼は、とてつもなく強い。

 もはや人間離れした力だったが、今のレナにはどんな事も、もう不思議には思わなかった。あるいは、リオのすごいのに至って普通な様子が、レナにすんなり受け入れさせてしまったのかもしれない。

 ともかく、今まで自分の状況を誰かに伝えたり、相談したりできるなんて思ってもみなかった。それどころか、協力してくれると言うのだ。

 なんなら、もう二度も助けてもらっている。


(今までは逃げるだけで精一杯だったけど、彼の協力があれば何とかなるかもしれない!)


 レナは、急に視界が開けた気がした。


「もちろん、協力してもらえたら嬉しいけど……でも、本当にいいの? 私と一緒にいたら、本当に命の保証とかないよ?」


 レナが念を押すと、リオはうなずいた。

 そして、リオは手を差し出してきた。


「よろしく、レナ」


 レナは、本当に嬉しい気持ちで心がいっぱいになった。


「よろしく、リオ!」


 自然に笑顔になると、しっかりとリオの手を握り返した。

 こうして二人は、一緒に旅をする相棒になったのだった。

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