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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
39/56

第39話 生きている


 リオの馬は、最寄りの街にたどり着いた。

 大きな街で、食事ができる宿も何軒かありそうだった。

 ここでレナは、ようやく目を覚ました。


「はっ⁉︎」


(いけない、つい気が抜けて!)


「ごめんなさい! 私、寝ちゃって――」


 景色がいつの間にか、にぎやかな街中になっていた。


(うおお⁉︎ ここどこだ?)


 驚いて辺りを見回すレナ。


「今日のところは、ここで宿を取ろう。まずは腹ごしらえだ」


 リオは、一軒の宿の前で馬を止めた。


「えっ……?」


(それって、食事⁉︎)


 リオの言葉に、レナの顔はみるみる輝いていった。


***


 宿の食堂では、ものすごい勢いで食事をするレナの姿があった。

 レナにとって、久しぶりのまともな食事だった。


「あの……さっきの話の続きだけど……」


 レナの食べっぷりに圧倒されつつも、質問するリオ。


「魔物に狙われるのに、何か心当たりは?」


 レナは、口をもぐもぐさせながら首を横に振る。


「じゃあ、魔物を解放した人物に心当たりは?」


「んー……」


 レナは、真剣な表情で食べ物を見つめている。


(俺の話に、全然集中してない!)


 リオは諦めて、レナが落ち着くのを待つことにした。

 テーブルの皿がおおかた空になると、レナはようやく口を開いた。


「実は私……魔物が解放される少し前に、王宮で刺客に命を狙われたことがあったの」


 リオは、じっとレナを見つめる。


(……どれだけ悪いことをしたんだ?)


 リオの心の声も知らずに、レナは続けた。


「確かに、私は誰かに命を狙われていたのかもしれない……でもそれだって全く心当たりがないし、魔物が解放されたことと関係があるとは思えない」


 レナは訴えた。


「だいたい、ただの下っ端兵士の私が、たまたま国王にお仕えすることになっただけで……」


 しかし、ウルネス王の寝室で過ごすくらいそばに仕えていたとは言わなかった。


「私が魔物に命を狙われるような重要人物とか、重大な秘密を持っているとか、全然そんなんじゃないの!」


 レナはテーブルに身を乗り出した。


「でも、私が魔物に追われているのは紛れもない現実なの! 私を見つけると……奴らは私の名前を呼ぶの!」


 レナの青い瞳には曇りがなく、うそをついているようには見えなかった。


「私こそ……」


 レナは顔をゆがませると、テーブルの上に置いていた手を握りしめた。


「私こそ、自分に何が起こっているのか知りたい!」


 リオは、注意深くレナの話を聞いていた。


(確かに……彼女一人の命のために魔物を解放するなんてありえない。そして彼女自身も、それをわかっている)


 今度は、レナの話が全て本当だと仮定して考えてみる。


「だとしたら……すごい話だよね」


 リオはそう言って、レナを見つめた。


「君は、まだ生きている」


 レナは、はっとした。


「刺客に襲わせ、魔物を解放してまで君の命を狙っているのに、君はまだ生き延びている……ということになる」


 リオも生き延びた人間だったから、レナの話を完全否定するつもりはなかった。

 レナは驚いた表情でリオを見ていた。そんなふうに考えたこともなかった。


(確かにそうだ……私は、まだ生きてる!)


 今まで訳もわからず、たった一人で逃げているだけだった。そんな自分の存在を見つけてくれた気がして、すごく嬉しくなった。


「私、すごいな……!」


 レナは、思わずつぶやいた。


(私は、まだ生きてる!)


 レナの嬉しそうな笑顔は、リオにとても印象的に映った。


***


 すっかり夜になり、にぎわっていた街も急に静かになった。

 レナは、宿の部屋で至福の表情を浮かべていた。


「はあ〜……久しぶりにお風呂入った」


 すべすべになった頬をなでる。


「おなかも大満足~。 幸せ~」


(そして、ベッド!)


 レナはベッドにダイブすると、一人はしゃいだ。


「いいの⁉︎ 本当にここで寝てもいいの⁉︎ きゃ~、ふかふか~!」


 村の暮らしと、王宮の暮らしを経験しているレナにはわかった。この宿は、かなり高級だ。


「あっ!」


 その時、レナは大事なことに気が付いた。


 リオの部屋の扉がノックされ、レナが申し訳なさそうな顔でのぞき込んできた。


「あの、すみません……大事なことを言ってなかったんですけど……」


 レナが、おずおずと伝える。


「あんなに食べておいてなんですけど……私、お金を持ってないんですけど……」


 何事かと思ったリオだったが、少し拍子抜けしたような声で答えた。


「ああ、何だ……お金のことは気にしないで」


 なんといってもスポンサーはアサニス国のレオナルド王なのだから、お金の心配は全くなかった。

 それを聞いて、レナは驚きと感動にあふれた表情になった。


「本当に⁉︎ どうして?」


「えっ?」


「なんていい人なの⁉︎ どうしてそんなに良くしてくれるの?」


 レナは子犬のような瞳で、なぜかリオに近づいてくる。

 リオは動揺した。


「いや、その、それは……調査費だから! すごいお金持ちの依頼で調査してるから!」


 リオは慌てて答える。


「そうなの⁉︎ なんで――」


「大丈夫だから! 今日はもう休んで!」


 予想外のレナの反応に、タジタジになるリオ。

 そして、レナを落ち着かせようとしたその時だった――。

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