第38話 出会い3
激しく動揺していたリオだったが、ここでいったん冷静になった。
「…………」
(彼女は……一体何者なんだ?)
エスプラタ国の王宮内で、魔物と戦ったと言っていた。
(やっぱり兵士なのか?)
そして、リオは沈黙する。
「…………」
(なんて言うか……彼女の話……ツッコミどころ満載なんですけど!)
リオは、心の中で叫んだ。
(まず、彼女が兵士って! もう設定がおかしいだろ⁉︎ エスプラタ国には、女兵士が普通にいるのか⁉︎ それに、魔物が現れたから戦ったとか、当たり前みたいに言ってるけど、普通戦わないだろ! というか、戦えないだろ⁉︎ 全部ありえないだろ!)
心の中で叫び続ける。
(あぶねー! うのみにするところだった!)
「はっ⁉︎」
しかしリオは、先ほどレナが魔物と戦った姿を思い出す。あのレナの戦闘力――この目で見たものの方が、正直ありえなかった。
「…………!」
リオは、とうとう頭を抱える。そしてそのまま、動かなくなってしまった。
レナは、リオの様子をずっと観察していた。
(うわー……この人、全然動かなくなっちゃったよ)
さすがに心配になってしまった。
リオは必死で自分を励ました。
(落ち着け! 落ち着くんだ!)
そして、なんとか声を絞り出した。
「君は……どこで……魔物との戦い方を覚えたの?」
「戦っているというほどでは……逃げてるだけだから」
リオの必死の質問に、レナはひょうひょうと答える。
(あれを、戦っているというほどではない、と言うのか……)
何から質問していけばいいのか、全然考えがまとまらない。
「一つだけ、言えることが……」
リオは深呼吸をした。
「神殿に封印されていた魔物だとしたら……それは、解放術が行われたんだ」
「解放術?」
聞き慣れない言葉に、レナは聞き返した。
「つまり……何者かが故意に、魔物を解放したんだ」
「なっ――⁉︎」
レナは、目を見開いた。
「あれを……誰かが……望んだっていうの⁉︎」
リオも真剣な表情に戻っていた。
「そういうことになる……」
レナは、動揺した表情のまま訴えた。
「そんな……! どうして、そんなことを⁉︎」
リオも考え込んでいる。
「……魔物の解放術は、とても難しい。それだけの高い能力と、地位や責任を持つ、限られた人間にしかできないはずだ」
レナに説明するというより、もはや独り言に近かった。
「それ程の人物が、こんな事態になるとわかっていながら、魔物を解放したのだとしたら、一体何があったのか……」
レナは、どんどん複雑な表情になっていった。
「誰かが……故意に……」
視線が空中をさまよっている。
「じゃあ……なんで私は……その魔物に狙われているの⁉︎」
心の声が無意識に漏れていた。
(魔物に狙われている……?)
リオには、レナの言葉の意味がわからなかった。確か魔物に名前を呼ばれた時も、そんなことを言っていた。
(そうだ、魔物はなぜ彼女の名前を呼んだんだ?)
レナをよく見ると、服はボロボロで体はあちこち擦り傷だらけだった。
リオはその時、レナという不思議な娘に興味を持ってしまった。
(彼女の話を全て信じていいのかわからないが、もし事実なら、彼女は魔物が解放された時、その場にいた貴重な証人だ)
リオは、調べてみる価値はあると思った。
「君は、これからどうするの?」
「これから……?」
レナは、リオの質問に答えられなかった。
(……どうするも何も)
そう言われても、レナにはなんのプランもない。
「このまま森の中で、夜になるのは危険だ」
リオの言葉に、レナも辺りを見回す。
「まあ、確かに……」
(普通はね……)
「実は、自分は魔物の被害を調査しているんだ。君の話を、もう少し詳しく聞かせてほしい」
「えっ?」
リオの提案に、レナは驚いた。魔物の被害を調査している人がいるなんて、思いもよらなかったからだ。
***
リオの馬は、二人を乗せて街へ向かっていた。
沈黙していた二人だったが、リオが質問する。
「さっき……魔物に狙われているって言ってたよね? それって、どういう意味?」
レナは、脱力気味に笑った。
「はは……」
信じてもらえないと思ったが、とりあえず本当のことを言ってみる。
「言葉の通りよ。理由はわからないけれど、私は王宮からずっと魔物に追われているの。まるで魔物たちの目的が、私を殺すことみたいに……」
リオが沈黙したままだったので、レナは小さくため息をついた。
(やっぱりね……別にいいけど)
リオは真剣に考えていた。
(魔物たちの目的が彼女の命とか、これはそんな規模の話じゃない……。魔物の被害は、もう近隣諸国にまで広がっているんだ)
エスプラタ国内は、どれ程の被害になっていることかと心配になった。
(これはもう、簡単に収まる事態じゃ――)
「んっ⁉︎」
突然レナが、リオの胸にもたれかかってきたのだ。
レナはすでに爆睡していた。
(……もし本当に、魔物からずっと逃げていたんだとしたら、ろくに寝ていなかったとは言えるな)
リオはレナの寝顔を見ながら、心の中で問いかけた。
(レナ、君は一体何者なんだ? 君には、一体どんな秘密があるんだ?)