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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
36/56

第36話 出会い1


 リオは、次の村にたどり着いた。

 店に入り食事をしていると、店の主人が客と話しているのが聞こえてきた。


「悪いことは言わないから、西の森は絶対に通らない方がいいですよ」


 客が聞き返す。


「どうしてだい?」


 主人は、眉をひそめて答えた。


「魔物が出るって、もっぱらのうわさですよ」


「そのうわさ、俺も聞いたよ!」


 隣に座っていた客が、話に入ってきた。


「三日前から隣の家の息子が行方不明で、西の森で魔物に食われちまったんじゃねえかって、大騒ぎだぜ」


 思わず聞き耳を立てるリオ。

 他の客たちも、興味津々で話に入ってくる。


「最近この辺でも、魔物のうわさを聞くようになったな」


「まったく、おっかねえ話だよ」


 リオは、黙って聞いている。


「エスプラタ国は、大変なことになってるらしいな」


「この辺の商人は、エスプラタ国と商売してるやつも多いが、商売上がったりだってよ」


「入国するのも、一苦労らしいぜ」


 店の主人が、最後につぶやくように言った。


「今じゃ誰も、エスプラタ国になんか行きたがらないですよ……」


 リオは店を出るとつぶやいた。


「西の森か……」


 そして馬にまたがると、真っすぐに西の森に向かった。


 森は静かで美しかった。

 リオは、木漏れ日の中を馬で進んだ。こんなに明るく奇麗な森に、残虐な魔物の姿など、おおよそ似つかわしくない。

 魔物の調査の旅だが、魔物なんて本当に存在してほしくなかった。

 リオは、目の前の山を見上げた。


(あの山の向こうは、もうエスプラタ国か……)


 その時、森がひらけて河原に出た。

 すると、ゴツゴツした岩場に人が立っているのが見えた。


「えっ⁉︎」


 人の気配は全くなかったので、リオは驚いた。

 後ろ姿は、兵士のような格好に見える。


(兵士か?)


 それにしては、小柄で華奢(きゃしゃ)だった。その時、その兵士が振り向いた。

 リオは、その顔を見てさらに驚いた。


(娘――⁉︎ なぜこんなところに⁉︎)


 その兵士の格好をした娘も、驚いた様子でスッと剣に手を添えた。


「⁉︎」


 リオも反射的に身構える。

 二人の間に緊張が走り、お互い無言のまま見つめ合った。

 その時、ちょうど二人の間に、石がコロコロと落ちてきた。


「はっ⁉︎」


 二人とも、驚いて上を見上げた。すると魔物が、崖の上から二人を見下ろしていた。


(魔物⁉︎ やはりこの森にいたのか!)


 リオは眉をひそめた。

 魔物は、まるで巨大なトカゲのようで、口からチロチロと舌を出している。


『ククク……』


「⁉︎」


 リオは、魔物が笑ったのを聞き逃さなかった。


『見つけたぞ、レナ……』


 魔物が言葉を発したのを聞いて、ゾワっと鳥肌が立った。


(しゃべった⁉︎ 知能がある! こいつ、不死か⁉︎)


 リオが身構えた、その時だった。


「気安く人の名前を呼ぶな!」


 娘が魔物に向かって叫んだのだ。


「え……?」


 リオは思わず娘の方を見た。

 娘は全くひるむ様子もなく、魔物をにらみつけている。それはリオからすると、ありえないことだった。

 すると魔物は、岩を崩しながら二人の真上に降りてきた。リオが馬から飛び降りるのと、娘が飛び退くのは同時だった。

 地響きを立てて魔物が着地すると、土煙が舞い上がった。近くで見るその巨体は、よりグロテスクだ。

 リオが魔物に集中しようとした、その時だった。


「あなたは逃げた方がいいわ」


 娘が剣を抜きながら、リオに向かって言った。


「え……?」


 驚いて娘の方を見ると、娘もリオの方を見ていた。


「魔物の狙いは、私だから」


 娘は、はっきりとそう言った。

 リオは、驚いて目を見開いた。

 次の瞬間、娘は魔物に向かって走り出していた。


「えっ⁉︎」


 思いもよらない展開に、混乱するリオ。

 娘は魔物の攻撃をひらりとかわし、足元に滑り込むと足を切りつけた。


『ギャアアァァ!』


 魔物が叫んだ。

 リオは、そのスピードに驚く。


「早い――!」


 そして、娘はもう魔物の顔に移動していた。


『⁉︎』


 魔物の瞳に、娘の構える姿が映っている。そのまま目を切り付けられ、再び叫び声を上げた。


『ギャアアァァ!』


 リオは、驚くことしかできなかった。


(なんてスピードなんだ⁉︎)


 魔物は目をおさえながら、うなり声を上げた。


『グググ……おのれ! レナ、殺す……!』


 娘は剣を構え、魔物をにらみ返している。華奢(きゃしゃ)な娘のように見えるが、剣を構えた雰囲気で、相当の手練れであることが分かった。

 しかしリオには、何が何だか全く分からなかった。


(レナ……? レナとは、彼女の名前なのか⁉︎)


 次々と疑問が沸き起こる。


(そもそも魔物と戦えるなんて、一体何者なんだ⁉︎)


 その時、娘がリオに向かって叫んだ。


「危ない!」


「はっ⁉︎」


 リオがわれに返ると、魔物の尻尾が飛んでくるところだった。とっさに上に飛び上がり、避けるリオ。

 しかし、空中で無防備な状態になったリオに、魔物の手が襲い掛かった。

 娘は、思わず声を上げた。


「ああっ⁉︎」


 魔物の手の隙間から、彼が剣を抜くのが見えた。そしてなぜか、その表情はとても落ち着いているように見えた。


 次の瞬間、リオはそのまま魔物の手に押し潰された。

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