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イージアン  作者: 高田
第二章 リオ
35/56

第35話 旅


 リオは、エスプラタ国に向かって旅をしていた。

 村に着くと、そこで魔物の被害状況を調べた。うわさ話に尾ひれがついたような、信ぴょう性に欠ける内容も多かったが、確実に人々の話題のトップであった。

 調査が終わると、また次の村へと旅を続けた。

 道中のアサニス国は、平和に見えた。田舎道を馬で進めば、のどかな風景に癒やされる。

 リオはそんな景色を眺めながら、この人間界に魔物が蔓延(まんえん)しているなど、うそであってほしいと思った。


 そして、城を出発してから一週間がたち、五つ目の村にたどり着いた時だった。

 村に着くなり、何か異様な雰囲気を感じた。村人たちが、やけに騒がしい。通りのあちこちに人が集まり、真剣な表情で何やら話をしている。

 リオは、彼らから緊迫した空気を感じ取った。


「…………」


 そして嫌な予感がした。

 その時、リオの後ろを武器を持った男たちが走って行った。その中の一人が大声で叫ぶ。


「やつは、公会堂の建物に逃げ込んだぞ!」


 リオが声のする方を見ると、村の男たちが集まって騒いでいた。


「ありったけの武器を用意しろ!」


「火も用意するんだ!」


 そんな叫び声が聞こえてくる。

 リオは険しい顔つきになった。


(まさか、魔物か⁉︎)


***


 公会堂の周りには、人だかりができていた。

 リオは馬を降りると、人だかりをかき分けて前へと進んでいった。


「あの中だ!」


「建物ごと、火にかけろ!」


 人々から緊迫したやり取りが聞こえてくる。

 その時、武器を持った男たちに夫婦がすがり付いた。


「待ってくれ! 子どもが捕まっているんだ!」


「何っ⁉︎ 本当か⁉︎」


 男たちに動揺が走る。


「お願いだ! うちの子を助けてくれ!」


 夫婦は懇願し、泣き崩れた。

 周りの者たちは、唇をかみ締め悲痛な面持ちになった。魔物に捕まって助かるはずもない……。

 しかし父親は、子どもの名前を叫びながら建物に近づこうとする。


「おい、危ない! 無理だ!」


 周りが慌てて止めに入る。

 その時、公会堂の入口付近の暗がりで闇が動いた。闇の正体は魔物だった。


「うわあぁ⁉︎」


 どよめきが起こり、人々は一斉に後ずさりする。

 しかしその中で、一人だけ動かない者がいた。リオだった。

 必然的に村人たちの前に一人でたたずむ形になってしまった。

 みんながリオに注目する。


「誰だ、あいつは?」


「見ない顔だぞ」


 リオはさらに前に進んだので、みんな驚いた。


「お、おい……あんた! 危ないぞ!」


「そこには、魔物がいるんだ!」


 周りの心配も気にせず、建物のすぐそばまで近づくリオ。

 暗がりでうごめく塊は、間違いなく魔物だった。


(何てことだ――!)


 リオは愕然(きょうがく)する。こんなに早く魔物に出くわすとは、思っていなかった。


(もう、こんなところまで来ているなんて! それだけ蔓延(まんえん)しているということなのか⁉︎)


 実際に魔物を目の当たりにして、リオの感情は激しく乱された。自分の心臓の鼓動が耳に響いてくる。

 リオは深呼吸をした。


(しかし、こいつは雑魚だ。不死ではない……)


 すると、魔物の隙間から子どもが見えた。


「はっ⁉︎」


 リオは目を見開いた。


(子どもだ! 生きているのか⁉︎)


 その時、子どもの目だけが動いて、おびえきった瞳をこちらに向けた。


(生きている――!)


 それが分かった瞬間、リオは剣を抜いていた。


***


 公会堂は、激しい炎に包まれていた。

 その炎の前で、親子三人が抱き合って泣いている。


「あぁ、坊や! 良かった!」


「本当に良かった!」


 魔物に捕まっていた子どもは、助かったのだ。

 周りでは、武装した男たちが慌ただしく動き回っていた。


「建物は魔物もろとも、完全に燃やしてしまうんだ!」


「燃え尽きるまで油断するな!」


 炎の中には、バラバラになった魔物の残骸があった。


 長老が、集まっている村人たちに聞いた。


「彼は、もう行ってしまったのか?」


「ええ、多分。魔物のことを、いろいろ聞いていましたが、その後すぐに姿が見えなくなってしまいました」


「そうか……」


 村人の返事に、長老はひげに手をあててつぶやいた。

 すると、他の者も話に入ってきた。


「魔物の被害を調べるために、旅をしているとか言ってたな」


「彼は役人だったのかい?」


「いや、一人だったし……そんな雰囲気ではなかったな」


 それから村人たちは、夫婦に抱きしめられ泣きじゃくる子どもを見つめた。

 そして、誰ともなくつぶやいた。


「魔物に捕まったのに生きているなんて……奇跡だな」


 その言葉に長老が続く。


「あの子どもだけじゃない。村を救ったと言ってもいい」


 そして、燃え盛る公会堂の炎を見つめた。


「われわれだけでは、どれ程の犠牲者が出たことか……」


「全く、その通りですね」


 村人たちも賛同する。

 その内の一人が、少し声を落として言った。


「それを……彼は……」


 その瞳には、先程目の当たりにした出来事への動揺が表れていた。その様子を見て、みんなが同じような表情になる。


「あの魔物を、あれ程簡単に倒してしまうなんて――!」


 目撃した全員が、同じ思いだったに違いない。


(彼は、一体何者だったのか⁉︎)


 その頃リオは、もう次の村へと旅立っていた。

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