第29話 刺客
突然レナ目の前に、四人の男が立ちはだかった。
そして、その異様な雰囲気が殺気であることも、すぐにわかった。
(この男たちは、刺客だ!)
レナは剣を抜いて構える。
(一体何者⁉︎ 白昼堂々、どうやって城の中に入ったの⁉︎)
刺客たちも、静かに剣を抜いた。
その威圧感に、レナは思わずたじろいだ。
(まずい……相当の手練れだ)
その頃、セラ王妃の部屋には将校が訪れていた。
何やら声を潜めて報告をしている。
「今頃、刺客がレナの元に……」
「そうか……」
セラ王妃は息をつくと、目を閉じた。
(あの娘さえ消えれば、何もなかったことになる……これからも、何も起こらない……)
中庭では、将校の言う通り、レナがピンチを迎えていた。
刺客たちが、一斉にレナに飛びかかる。しかし四人の剣は、絡み合って空を切った。
「いない⁉︎」
刺客たちがハッと上を見ると、レナが剣を振りかざし落ちてくるところだった。その目は、完全に戦闘モードだ。
レナはそのまま、刺客に剣を振り下ろした。
刺客たちも瞬時に避ける。
レナの着地と同時に、激しい戦いが繰り広げられた。
しかし四対一では、かなり分が悪すぎた。しかも刺客たちはかなりの手練れである。
刺客たちの剣が、レナの体を次々とかすめる。
「くっ……!」
走って逃げようとしても、刺客たちはすぐにレナを取り囲んでくる。
その動きに、レナは違和感を感じた。
(どうして⁉︎ こいつら、私が標的なの⁉︎)
その時、レナはハッとする。
(そういえば……!)
以前この中庭で、矢を放たれたことを思い出した。
(でもこいつらは、前に矢を放った者とは全然違う!)
レナは逃げながら必死で考える。
(どうする⁉︎)
刺客の剣を、かわし続けるのも限界だった。
(とにかく、侵入者がいることを誰かに知らせなければ! このままだと、まずい!)
刺客たちの方も、レナに驚いていた。
「なんてすばしっこいやつなんだ!」
「グズグズするな! 相手は一人だぞ!」
その時、レナは貯蔵庫の入口を見つけた。強い日差しで、入口の中に濃い影ができている。
(あそこだ! 暗闇に逃げれば、なんとかなるかもしれない!)
レナは、すきを見て走り出した。
しかし、刺客たちを振り切れない。貯蔵庫の入口まであと少しのところで、刺客の剣がレナの肩を突き刺した。
「うっ⁉︎」
鋭い痛みに、レナはバランスを崩し倒れ込んでしまった。
そして、刺客たちがレナにとどめを刺すために剣を構えた。
「ハアッ……ハアッ……」
(ダメだ、完全に囲まれた……)
壁を背にして、レナは肩を押さえて、フラフラと立ち上がった。
その時、通りかかった女中が悲鳴をあげた。
「きゃあああ! くせ者ー!」
「はっ⁉︎ しまった!」
その声に驚いた刺客たちは、一瞬レナから目を離してしまった。だからその瞬間、レナに何が起こったか見ていなかった。
刺客たちが視線を戻した時、レナの体が入口の影に溶け込むように、消えていくところだった。
「えっ⁉︎」
刺客たちは慌てて剣を突き刺したが、もうそこにレナはいなかった。剣は壁に当たり、乾いた音を立てた。
「ばかな⁉︎ 今のは一体なんだ⁉︎ どこへ行った⁉︎」
「この中だ!」
「くそっ、早く片付けろ! 人が来るぞ!」
刺客の一人が、貯蔵庫の中へ入った瞬間だった。正確には、影の中に入った瞬間だった。
「…………?」
首のあたりを何かが横切った。
すると、そのままカクンと膝をついて倒れてしまった。
「なっ⁉︎ なんだ⁉︎」
後ろに続いていた刺客が、驚いて声を上げる。
しかし次の瞬間、その刺客も崩れ落ちるように倒れた。残りの二人には、何が起きているのか全くわからなかった。
「おい、どうした⁉︎」
(何が起こったんだ⁉︎ 攻撃されたのか⁉︎)
貯蔵庫の中は暗くて何も見えない。人の気配は全くしなかったが、すぐそばで狙われているかもしれない恐怖を感じひるんだ。
「…………!」
二人は、思わず後ずさりを始める。
次の瞬間、鈍い音がした。
「ぐあっ!」
叫び声を上げ、今度は一番後ろにいた刺客が崩れ落ちた。
「おっ、おいっ⁉︎」
その背中には矢が刺さっていた。
刺客が顔を上げると、視線の先には弓を構えるメルブ将軍の姿があった。その隣では、叫んだ女中がオロオロしている。
たまたま、その場に居合わせたメルブ将軍が矢を放ったのだ。
四人もいた刺客は、残り一人になっていた。
「くそっ……なんてことだ!」
あっという間に形勢が逆転してしまった残りの一人は、残念なことに影に入っていた。
そしてメルブ将軍は、それを目の当たりにした。
刺客の男の首が突然切れ、鮮血が飛び散ったのだ。
「⁉︎」
メルブ将軍は、目を見開いた。誰が何をしたのか、全く見えなかった。
最後の刺客は、ぱたりと倒れた。
すると、奥の貯蔵庫からレナがフラフラと出てきた。
「レナ⁉︎」
メルブ将軍は、驚いて声を上げた。刺客と戦っていたのはレナだったのだ。
レナは、ガクッと膝をついた。
「ハアッ……ハアッ……」
体は切り傷だらけで、肩で大きく息をしている。
その表情は放心状態で、レナは不思議そうに自分の両手を見つめているのだった。
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