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イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
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第27話 占い


 ウルネス王の軍隊も王宮に戻り、国民は不死の魔物の話題で持ちきりだった。

 そんなある日、メルブ将軍は護衛もつけずに首都の中心街を訪れていた。

 にぎやかな表通りから路地に入り、とある建物に入っていく。その場所は、ごく一部の人間にしか知られていない占い師の住む家だった。

 メルブ将軍が部屋に入ると、占い師の男が出迎えた。


「これはこれは、メルブ様!」


 占い師は深々と頭を下げた。


「このような所にお越しいただき、大変恐縮でございます」


「久しぶりだな、変わりないか?」


「はい、おかげさまで」


 あいさつもそこそこに、占い師が質問してくる。


「……今日は、どうなさいましたか?」


 メルブ将軍が直々に訪れたのだから、無理もない事だった。


「最近ウルネス様が気に入り、そばに置いている娘がいるのだが、その娘を見てほしいのだ」


「娘……ですか」


「うむ、少し気になることがあってな……」


「承知いたしました」


 その時、部屋をのぞき込む小さな女の子に気がつく。

 その少女は、ニコニコと笑いながら走ってきて、占い師の足に抱きついた。


「こら、シアン」


「きゃははは」


 女の子は無邪気に笑った。


「すみません、メルブ様。これは私の孫のシアンです」


 占い師は、慌てて女の子の頭を下げさせる。


「ほら、きちんとあいさつをしなさい!」


 すると女の子は笑顔のまま、メルブ将軍に言った。


「ダメだよ!」


「えっ?」


 思わず聞き返すメルブ将軍。


「それは、見ちゃダメだよ!」


 占い師はハッとなり、女の子の瞳を見て顔色を変えた。


「シアン! やめなさい!」


 女の子を叱ると、メルブ将軍の方を向いた。


「申し訳ございません、メルブ様」


 慌てて謝る占い師に、メルブ将軍も察するものがあった。


「もしかして、その子……」


「はい、この子には巫女(みこ)の血が濃く出まして……ゆくゆくは神殿に仕えさせようと思っております」


 その言葉を聞いて、メルブ将軍はシアンの頭をなでた。


「そうか……」


 シアンはニコッと笑った。


 そして、占いが静かに始まった。

 部屋にはメルブ将軍と占い師、そして部屋の隅にシアンがちょこんと座ってニコニコしていた。

 占い師は、水の張った瓶に手をかざす。瓶の中の水が揺れ始め、水の中に不死の魔物が映し出された。


「これは⁉︎ 不死の魔物!」


 占い師は、こんなものが映し出されたことに驚いた。さらに、魔物のそばで剣を構える娘の姿が見えて、目を見開いた。

 慌ててメルブ将軍に伝える。


「不死の魔物と娘が、一緒にいます!」


 メルブ将軍は静かに答える。


「ああ、それどころか……その娘は暗闇の中、たった一人で魔物と戦ったのだ」


 にわかには信じられない話だった。


「なんと……そのような娘がいるのですか⁉︎」


「娘は、特殊な能力を持っている」


「特殊な能力、ですか……」


 占い師は、瓶の中に視線を戻す。それにしても、魔物と娘の距離が近いのが気になった。


「魔物が娘に、何かを告げているようにも見えます」


 占い師の言葉に、メルブ将軍は少しけげんな顔をする。


「会話をしているのか?」


「そこまでは……何とも言えません」


 なぜか水が揺れる。


(おかしい……水面が乱れて、うまく見えない……)


 次の瞬間、瓶の水がスーッと黒くなった。


「こ、これは⁉︎」


 占い師は、思わず声を上げる。


「どうした?」


 メルブ将軍も驚く。


「闇です! 闇が見えます!」


 部屋の隅にいたシアンも、驚いた顔をしている。


「なんだ……この闇は⁉︎」


 それは、真っ黒な何かが無数にうごめいているように見えた。占い師の背筋に、恐ろしい戦慄(せんりつ)が走る。


(この闇はダメだ! この闇は恐ろしい!)


 その時、シアンの声が部屋に響いた。


『ねえ、あの方が目覚めるわ!』


 驚いて声の方を見ると、シアンがゆらゆらと揺れながら立っていた。

 その表情は、何かに憑依(ひょうい)されているようだった。


『こんなところに……鍵が落ちている』


『おまえにいいモノをやろう……』


『一体……何をしたのだ?』


 次々に、謎の言葉を発する。

 占い師は叫んだ。


「シアン!」


 次の瞬間、瓶の水がさらに変化した。

 闇の中に、六個の小さな光が浮かび上がる。


「光が……闇の中に光が見える……」


 光はどんどん強くなって、瓶の中は光で満たされた。


「あっ⁉︎」


 すると瓶に大きなひびが入り、中の水が一気に流れ出た。

 その瞬間、シアンの表情がスッと元に戻る。そして倒れそうになる小さな体を、メルブ将軍が抱きかかえた。


「おい、大丈夫か⁉︎」


 シアンは既に気絶していた。

 部屋は静まり返った。


「今のは……なんだったんだ?」


 メルブ将軍が、やっと声を出した。

 占い師も、あっけに取られた表情で答える。


「わかりません……こんなことは初めてです!」


 メルブ将軍は動揺を隠せなかった。


「あれは……神託なのか? あの娘は災いを呼ぶのか?」


「……そうかもしれません。闇は、とても邪悪なものに感じました。」


 占い師は素直に答えた。


「しかし、闇の中に光が現れ、かき消してしまいました。とても強い光で……強すぎて何も読み取れませんでした」


 そして、割れた瓶を見つめながら言った。


「何というか……占うこと自体を、拒否されたのかもしれません」


(一体何が起こるというのだ……)


 メルブ将軍は、なぜかひどく胸騒ぎがするのだった。

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