第26話 剣
レナは、ウルネス王の部屋で目を覚ました。
ベッドの上で横たわる体に朝日が降り注ぎ、透き通るような白い肌を輝かせている。
「ん……」
レナは眩しさに目を細めた。
(………………)
「はっ⁉︎」
(私、寝ちゃった⁉︎)
慌てて体を起こす。
ウルネス王は部屋にいなかった。
レナは一瞬、無になる。
「…………」
そして昨夜の記憶が急によみがえり、顔から火が出た。
(うっ、うそでしょ⁉︎ 本当に……私……ウルネス王と⁉︎)
レナは、自分で自分の体を抱きしめる。顔がほてり、胸が高鳴った。
「ウルネス様……」
無意識につぶやくその声は、すっかり心を奪われている様子だった。
レナはシーツを体に巻くと、ベッドからそっと降り、窓辺へと歩いて行った。
窓からは、雄大な景色が一望できた。朝日で全てが輝いて見える。
「奇麗……」
思わずつぶやいた。
(全部、夢みたい……)
レナは髪を耳にかけた。
王宮に行ったあの日から、全てが変わってしまった。いろいろなことが次々に起こって――いや、起こり過ぎて、全然ついていけない。
(事件の調査に来て、魔物と戦って……それで、こんなことになってていいのだろうか⁉︎)
だんだん頭が混乱してきた。
(私、これからどうなっちゃうの⁉︎)
「何をしている?」
その時、突然後ろから声をかけられる。
「ウルネス様⁉︎」
振り向くと、ウルネス王の顔が目の前にあり、レナは一気に真っ赤になった。
「あ……あの、あの……」
とんでもなく、しどろもどろになる。
その様子に、ウルネス王はくすりと笑った。
すると突然レナは力強く抱き寄せられ、そのままキスをされる。
「んん⁉︎」
(ウルネス様……)
胸がキュンキュンしてしまう。
唇が離れた後も、すっかりうっとりしているレナに、ウルネス王が耳元でささやいた。
「いつまで、そのような格好をしているのだ?」
「え?」
王はいたずらっぽい顔で笑っている。
「一緒に来い」
「えっ⁉︎」
うっとりモードは、レナだけだった。
(えええ~⁉︎)
***
いつもの兵士の服に着替えたレナは、ウルネス王と一緒に通路を歩いていた。
レナはまだ顔を真っ赤にして、心の中で叫んでいた。
(うあああ! 恥ずかしい!)
そんなレナの頭に手を乗せ、笑いを堪えられないウルネス王。
「まあまあ、そう怒るな」
そして耳元でささやく。
「やっとおまえを抱けて、俺はとても気分がいいんだ」
「⁉︎」
ウルネス王のストレートなセリフに、ドキッとしてしまうレナ。
(そんなセリフを堂々と……さすがウルネス様)
「おまえの喜びそうなものを見せてやるぞ」
ウルネス王は上機嫌だった。
二人は大広間にやってきた。そこには、意外な光景が広がっていた。
たくさんの剣が並べられていて、兵士たちが手に取り盛り上がっていたのだ。
「どれも素晴らしい!」
「さすが、王室御用達の職人の剣だ!」
予想外の景色に驚くレナ。
「えっ⁉︎ これは……」
その時アトス将軍が、ウルネス王のところへやってきた。
「ウルネス様、ありがとうございます」
兵士たちもウルネス王の登場に、一斉に膝をつき頭を下げた。
状況が飲み込めずにいるレナに、アトス将軍が説明をしてくれた。
「魔物との戦いで、みんな剣がボロボロになったので、ウルネス様が新しいものを用意してくださったのだ」
「そうだったのですね! すごい!」
(みんなのために、これだけの数を⁉︎ さすが国王!)
ウルネス王がレナに言った。
「ところで、おまえの剣は?」
「あっ……」
レナが剣を抜くと、根もとからなくなっていた。
「魔物にかまれて、粉々にされました」
それを聞いたウルネス王とアトス将軍は、思わずツッコミを入れずにはいられなかった。
(かまれたって……どんだけ接近戦だよ)
(それを普通に話すとか、感覚おかしいだろ)
「まったく、おまえというやつは……」
ウルネス王は、感嘆ともとれるため息をついた。
「レナ、おまえも好きなものを選ぶがいい」
「えっ⁉︎」
ウルネス王の言葉に、レナの表情が輝く。
「あっ、ありがとうございます!」
レナは子供のようにはしゃいで、剣を見に行った。
キョロキョロと、並んだ剣を眺める。
「どうしよう、どれもすてき!」
その時、奇麗な装飾の小ぶりな剣に目が留まった。
「⁉︎」
思わず手に取るレナ。
「奇麗な装飾……」
剣を抜くと、よく研がれた刃が輝いた。
「わぁ、すごい! ぴかぴかだ!」
そして、とても不思議な感覚を覚える。
(何……この剣? 私の手に、すごくなじむ……)
剣に見とれているレナに、声を掛ける者がいた。
「その剣は、どうだね?」
「えっ⁉︎」
いつの間にか、剣職人がレナの横にいた。
「少し、重く感じるかな?」
剣職人の質問に、レナは興奮気味に答えた。
「いいえ、全然! とても軽いです!」
剣職人は一瞬驚いたような目をしたが、すぐにほほ笑んだ。
「軽いか……そうか、それは良かった……」
何か納得をするように、うなずきながら言った。
「このような、小さな剣をほしがる者はいないからな……長いこと持ち主を待っていた分、よく研がれているよ」
「私、これにします!」
レナは、青く澄んだ瞳を輝かせた。
「すてきな剣を、ありがとうございます!」
剣職人も嬉しそうに言った。
「この剣に、主ができて良かった」