第24話 儀式
北の都に魔物が現れたという知らせは、その心臓とともに王宮にもたらされた。
早速、王宮で会議が開かれる。今回は、多くの聖職者も集まっていた。
士官が報告を始めても、人々は静かにする様子はなかった。
「魔物の仕業だったとは!」
「なんて恐ろしい!」
「それで、ウルネス王はご無事なのですか⁉︎」
「はい。ご安心ください、魔物も倒しました」
士官の返事に、一同がほっとする。
「しかし魔物は不死だったため、取り出した心臓は神殿に封印することになりました」
この報告に、大きなどよめきが起こった。
「不死だと⁉︎」
「そんな……なんと不吉な! どうして人間界に不死の魔物が⁉︎」
「これは、鎮静の儀も行ったほうがいいのでは⁉︎」
全員が恐れおののく。
会議には、セラ王妃も参加していた。しかし『王妃』としてではなく、『大司教』としてであった。
セラ王妃は、神聖な儀式を執り行う大司教としても、大変な実力の持ち主であり、その力は神からのギフトとまで言われ崇められていた。
(不死の魔物……今、あの神殿を使うのか……)
セラ王妃は、ため息をついた。そして、隣にいる司祭に声をかける。
「その封印は、私が行いましょう」
「おお! セラ様が⁉︎」
司祭は顔をほころばせて喜んだ。
「それは、なんと心強い! 感謝いたします!」
そして深々と頭を下げた。
「それでは、すぐに儀式の準備をいたします」
しかし、セラ王妃の美しい顔は最後まで優れなかった。
***
王宮の一角には、不死の魔物を封印している神殿が存在する。死なない魔物を、封印という形で閉じ込めているのだ。
このモノ達を、解放してはならない。解放したら最後、魔が魔を呼び寄せ強大な力となり、国は大変な混乱に陥るだろう。
決して解放してはならないのだ――。
夜になり、物々しい雰囲気の中、セラ王妃の一行が神殿の入り口にやってきた。
閉ざされた大きな扉は、異様な雰囲気を漂わせている。この先は、ひと握りの選ばれた者しか立ち入ることのできない異世界だ。
ゆっくりと扉が開き、一行は中へと進む。神殿の中は、禍々しい気配で満たされていた。
『フフ……』
『クスクス……』
すると、どこからともなく声が聞こえてくる。
「⁉︎」
司祭たちに緊張が走る。
神殿内の壁には魔物の毒が染み込み、恐ろしい造形を作り出していた。それらは、時たまうごめき、ささやいた。
(ひいいぃ~!)
(き、き、気持ち悪い!)
儀式に仕える司祭たちにとって、たとえ選ばれた者だとしても、これを相手にするのはちっとも嬉しくなかった。
『……ククク』
『われわれを、解放すれば……望みをかなえてやろう……』
魔物のささやきはおぞましく、全員が恐怖に固まるのだった。
神殿に封印された魔物は、自分の力でその封印を解くことはできない。そこで、言葉巧みに人の心の隙間に入り込み、その人間を操り解放させようとするのだ。
奴らは永遠に囚われの身でありながら、常に人の心の隙間を狙っている。
(でも今回は、セラ様が直々に儀式を執り行ってくれるのだから、まず安心だ!)
司祭たちにとって、大司教セラはとても心強かった。実際、全く臆することなく進むセラ王妃は、大変頼りがいがあり、感嘆せざるをえなかった。
(セラ様、最高!)
(セラ様、なんてお美しい!)
司祭たちは、心の中で崇め奉った。
(この声……なんと汚らわしい!)
セラ王妃も、魔物のささやきに眉をひそめていた。
(この卑しい声が、私の部屋にまで届くとは……この私の心に、すきがあるとでも言うのか?)
そんなことは、断じて認めるわけにはいかなかった。
セラ王妃は神聖なオーラを身にまとい、祭壇まで進んだ。
仕える者たちが祭壇に心臓を置く。心臓は、相変わらず一定のリズムで脈を打っていた。
「これより、封印の儀を執り行う」
神殿にセラ王妃の声が響いた。
***
北の都は平穏を取り戻していた。
城には、夜の心地よい風が吹いている。
レナは薄い布のドレスを身にまとい、ウルネス王の部屋へ向かっているところだった。
(やっぱり、行くんだよね……)
胸がドキドキしている。
レナは緊張しながら王の部屋に入った。
天蓋の布越しに、ウルネス王がベッドに寝そべっているのが見える。レナがベッドのそばまで行くと、ウルネス王が体を起こした。
二人は見つめ合う。
(ウルネス王……ほぼ裸だ……)
レナは目のやり場に困り、赤くなった顔を伏せた。
すると、ウルネス王がレナの手を取り尋ねた。
「どうだ? 今日は私から逃げられそうか?」
「……いいえ」
レナが返事をすると、ウルネス王は笑った。
「脱げ」
唐突に命令される。
(えっ⁉︎)
思わず顔を上げると、ウルネス王はいたずらっぽい顔で笑っている。
レナは耳まで真っ赤になった。
「……はい」
自分から裸になるなんて恥ずかしすぎるが、王の命令に躊躇することは許されない。
レナは震える手でドレスを脱いだ。素肌を布が滑り落ち、みずみずしい上半身があらわになる。
(あぁ……恥ずかしい……)
不意に、ウルネス王に腰を引き寄せられる。
「あっ……」
レナの腰に引っかかっていたドレスが、ぱさりと足元まで落ちた。