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イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
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第24話 儀式


 北の都に魔物が現れたという知らせは、その心臓とともに王宮にもたらされた。

 早速、王宮で会議が開かれる。今回は、多くの聖職者も集まっていた。

 士官が報告を始めても、人々は静かにする様子はなかった。


「魔物の仕業だったとは!」


「なんて恐ろしい!」


「それで、ウルネス王はご無事なのですか⁉︎」


「はい。ご安心ください、魔物も倒しました」


 士官の返事に、一同がほっとする。


「しかし魔物は不死だったため、取り出した心臓は神殿に封印することになりました」


 この報告に、大きなどよめきが起こった。


「不死だと⁉︎」


「そんな……なんと不吉な! どうして人間界に不死の魔物が⁉︎」


「これは、鎮静の儀も行ったほうがいいのでは⁉︎」


 全員が恐れおののく。

 会議には、セラ王妃も参加していた。しかし『王妃』としてではなく、『大司教』としてであった。

 セラ王妃は、神聖な儀式を執り行う大司教としても、大変な実力の持ち主であり、その力は神からのギフトとまで言われ崇められていた。


(不死の魔物……今、あの神殿を使うのか……)


 セラ王妃は、ため息をついた。そして、隣にいる司祭に声をかける。


「その封印は、私が行いましょう」


「おお! セラ様が⁉︎」


 司祭は顔をほころばせて喜んだ。


「それは、なんと心強い! 感謝いたします!」


 そして深々と頭を下げた。


「それでは、すぐに儀式の準備をいたします」


 しかし、セラ王妃の美しい顔は最後まで優れなかった。


***


 王宮の一角には、不死の魔物を封印している神殿が存在する。死なない魔物を、封印という形で閉じ込めているのだ。

 このモノ達を、解放してはならない。解放したら最後、魔が魔を呼び寄せ強大な力となり、国は大変な混乱に陥るだろう。

 決して解放してはならないのだ――。


 夜になり、物々しい雰囲気の中、セラ王妃の一行が神殿の入り口にやってきた。

 閉ざされた大きな扉は、異様な雰囲気を漂わせている。この先は、ひと握りの選ばれた者しか立ち入ることのできない異世界だ。

 ゆっくりと扉が開き、一行は中へと進む。神殿の中は、禍々しい気配で満たされていた。


『フフ……』


『クスクス……』


 すると、どこからともなく声が聞こえてくる。


「⁉︎」


 司祭たちに緊張が走る。

 神殿内の壁には魔物の毒が染み込み、恐ろしい造形を作り出していた。それらは、時たまうごめき、ささやいた。


(ひいいぃ~!)


(き、き、気持ち悪い!)


 儀式に仕える司祭たちにとって、たとえ選ばれた者だとしても、これを相手にするのはちっとも嬉しくなかった。


『……ククク』


『われわれを、解放すれば……望みをかなえてやろう……』


 魔物のささやきはおぞましく、全員が恐怖に固まるのだった。

 神殿に封印された魔物は、自分の力でその封印を解くことはできない。そこで、言葉巧みに人の心の隙間に入り込み、その人間を操り解放させようとするのだ。

 奴らは永遠に囚われの身でありながら、常に人の心の隙間を狙っている。


(でも今回は、セラ様が直々に儀式を執り行ってくれるのだから、まず安心だ!)


 司祭たちにとって、大司教セラはとても心強かった。実際、全く臆することなく進むセラ王妃は、大変頼りがいがあり、感嘆せざるをえなかった。


(セラ様、最高!)


(セラ様、なんてお美しい!)


 司祭たちは、心の中で崇め奉った。


(この声……なんと汚らわしい!)


 セラ王妃も、魔物のささやきに眉をひそめていた。


(この卑しい声が、私の部屋にまで届くとは……この私の心に、すきがあるとでも言うのか?)


 そんなことは、断じて認めるわけにはいかなかった。

 セラ王妃は神聖なオーラを身にまとい、祭壇まで進んだ。

 仕える者たちが祭壇に心臓を置く。心臓は、相変わらず一定のリズムで脈を打っていた。


「これより、封印の儀を執り行う」


 神殿にセラ王妃の声が響いた。


***


 北の都は平穏を取り戻していた。

 城には、夜の心地よい風が吹いている。

 レナは薄い布のドレスを身にまとい、ウルネス王の部屋へ向かっているところだった。


(やっぱり、行くんだよね……)


 胸がドキドキしている。

 レナは緊張しながら王の部屋に入った。

 天蓋の布越しに、ウルネス王がベッドに寝そべっているのが見える。レナがベッドのそばまで行くと、ウルネス王が体を起こした。

 二人は見つめ合う。


(ウルネス王……ほぼ裸だ……)


 レナは目のやり場に困り、赤くなった顔を伏せた。

 すると、ウルネス王がレナの手を取り尋ねた。


「どうだ? 今日は私から逃げられそうか?」


「……いいえ」


 レナが返事をすると、ウルネス王は笑った。


「脱げ」


 唐突に命令される。


(えっ⁉︎)


 思わず顔を上げると、ウルネス王はいたずらっぽい顔で笑っている。

 レナは耳まで真っ赤になった。


「……はい」


 自分から裸になるなんて恥ずかしすぎるが、王の命令に躊躇(ちゅうちょ)することは許されない。

 レナは震える手でドレスを脱いだ。素肌を布が滑り落ち、みずみずしい上半身があらわになる。


(あぁ……恥ずかしい……)


 不意に、ウルネス王に腰を引き寄せられる。


「あっ……」


 レナの腰に引っかかっていたドレスが、ぱさりと足元まで落ちた。

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