表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
23/56

第23話 不死

 

一夜明けて、魔物の全貌が明らかになった。

 全長二十メートルはある、黒いドラゴンであった。まだ燃え残っている巨大な黒い塊が、プスプスと音を立てている。

 兵士の一人が言った。


「すげえ、黒焦げだな!」


 隣の兵士が、剣で魔物をつついた。


「魔物の丸焼きかぁ……食ったらうまいかな?」


「気持ち悪いこと言うなよ! こいつはたらふく人間食ってんだぞ!」


「おえっ! そうだった!」


 兵士たちは、魔物を倒した興奮から冗談を言い合っていた。

 その時、一人が声を上げた。


「うわっ⁉︎」


「どうした?」


 足元の黒焦げの割れ目が赤く光っていて、そこから何かが見えている。そして、それは規則正しく脈打っていた。


「心臓だ! 心臓が動いてる!」


「こいつ、まだ生きてるぞ!」


 兵士たちの顔が青ざめる。


「この魔物……不死か⁉︎」


「なんてことだ!」


 恐怖に、思わず後ずさりする。


「不死だ!」


「うわああぁ!」


 その時、兵士たちの背後で、アトス将軍の声が響いた。


「落ち着け!」


「ア、アトス様……」


「こいつはもう何もできない。体がないのだから」


 動揺する兵士たちに、冷静に指示を出した。


「心臓を取り出すんだ。王宮の神殿に封印する」


「は、はい!」


 兵士たちは、慌てて作業に取り掛かった。

 しかし、アトス将軍は険しい表情のままだった。


(不死……だと……⁉︎)


 その事実に、内心穏やかではなかった。

 ウルネス王とメルブ将軍は、兵士が心臓を入れた箱を運んでいるのを、じっと見つめていた。二人もまた、恐れを抱いていた。


(不死だったとは……)


 ウルネス王がつぶやく。


「わが国に……魔物が現れるとは……」


 その言葉に、メルブ将軍が答える。


「確かに、いい兆候とは言えませんが……しかし、よくあることです」


「よくあるだと?」


 ウルネス王は声を荒げた。


「不死の魔物が現れることがか?」


 しかしメルブ将軍は、何食わぬ顔をして答える。


「もう倒したのです。封印してしまえば同じことです」


「ふん、気に入らない答えだ」


 それから、二人に無言の間ができる。

 先に質問したのは、ウルネス王だった。


「メルブ……おまえ本当に、あの魔物が不死だと思うか?」


「……さあ、どうでしょう」


「だとしたら……あんなに簡単に倒すことができたのは、ただの幸運だったと思うか?」


「…………」


 メルブ将軍も同じことを考えていたので、答えることができなかった。

 魔物が人間界に現れるのは、世界の各地で多々あることだった。しかし、それが不死の魔物だった場合、かなり厄介になってくる。本来、人間の攻撃で死ぬことはないのだから。

 その頃、レナは青ざめた表情で魔物を見つめていた。体の震えが全然止まらなかった。両手で顔を覆う。


(……怖かった)


 魔物を見たのは初めてだった。ましてや魔物と戦うなど、兵士であったとしても、そう経験することではなかった。


(みんな、あっという間に殺されてしまった……)


 恐ろしい記憶は、脳裏に焼き付いている。

 それと同時に、レナの頭を混乱させているのは、自分に起こった出来事だった。あの極限の状態で、なぜ突然恐怖が消えたのか。死を覚悟して、逆に無の境地にでもなったのか?


(いや……違う)


 レナは両手を握りしめた。


(あれは……あの感覚は……なんて表現したらいいんだろう?)


 自分の中に湧き起こった、あの不思議な感覚は一体なんだったのか。


(そして……)


 レナの体の震えが強くなった。


(それから……あの魔物……)


 目を見開いたまま、虚空(こくう)を見つめる。


(私に、何かをささやいた――!)


 その時、不意に声をかけられた。


「レナ」


 ビクッとするレナ。


「大丈夫か?」


 見上げると、ウルネス王が目の前に立っていた。


「ウルネス王!」


 慌てて立ち上がるレナだったが、その体はまだ震えている。


(震えている……無理もないか)


 ウルネス王は、レナを優しく抱き寄せた。


「魔物と戦ったのは、初めてか?」


 レナは突然のことにドキッとしながら、ウルネス王の質問に答えた。


「はい……」


「恐ろしい思いをしたな……よく無事でいた」


 ウルネス王の大きな手が、レナの頭をなでた。

 レナは、その手がとても温かく感じ、優しさが心に染みてしまった。レナの目に涙があふれた。


(ウルネス王……)


 レナは無意識のうちに、ウルネス王の胸に顔をうずめていた。


「レナ……本当に無事で良かった」


 ウルネス王も、レナを強く抱きしめた。

 その様子を、メルブ将軍が見つめている。


(あの娘…………)


 一面血の海の中に、ポツンと一人生き残っていたレナの姿を思い出す。


(あの状況で、一体どうやって生き残ったのだ?)


 魔物相手に、暗闇で目が見えるくらいでは、到底助かるとは思えなかった。

 アトス将軍もまた、レナのことを思い返していた。


(恐怖で動けなかったのに、突然人が変わったように魔物に向かって行くなんて……一体何があった?)


「…………」


 それよりも、鮮明に目に焼き付いているのは――。


(あの時、レナの目は確かに光っていた!)


「あいつは一体何者なんだ……?」


 メルブ将軍もアトス将軍も、レナに対して得体の知れない脅威を感じるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ