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イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
22/56

第22話 魔物3


 魔物は目を細めた。


《これは面白い! 偶然か? それとも……》


 その小さな(レナ)は、血で汚れ地面にはいつくばり、何ともみすぼらしく映った。しかしながら、生意気にこちらをにらんでいる。


《ククク……それならば……》


 魔物は、レナの目の前から姿を消した。


「えっ……⁉︎」


(魔物の気配が……消えた⁉︎)


 レナが驚いたその時、たいまつの明かりが辺りを明るく照らした。


「⁉︎」


 振り向くと、大勢の兵士が横一列に並んでいた。援軍が駆けつけたのだ。

 生き残った兵士たちが、歓喜の声を上げる。


「援軍が来たぞ!」


「ウルネス王とメルブ将軍だ!」


 二人を中心に、ずらりと並んだ援軍は、絶望の淵にいた兵士たちにとって、この上ない希望に見えただろう。

 しかし援軍も、目の前の光景には凍りついた。

 ウルネス王も、思わず叫んだ。


「こ、これは……! なんということだ!」


 明かりの届く全ての範囲が、血の海だった。

 メルブ将軍も青ざめる。


「一体……何があった……⁉︎」


 援軍にあんどしたアトス将軍も、改めて惨状を目の当たりにすることとなった。


「これほど……だったとは!」


(はっ、魔物は⁉︎)


 アトス将軍は、慌てて辺りを見回す。


(魔物は、どこに行った⁉︎)


 その時、ウルネス王がレナを見つけた。

 明かりに照らされた血の海の中央に、ポツンとしゃがんでいる。両膝をつき、目を見開いたまま全く動かない。その体は血まみれで、遠くからではけがをしているのか判断できなかった。

 レナが動けないのには、理由があった。


(すぐ……後ろにいる! いつの間に⁉︎)


 魔物は姿を消したのではなく、レナのすぐ背後に近づいていたのだ。

 魔物の息がレナに当たる。


「――⁉︎」


 絶体絶命だった。

 援軍たちも、レナのすぐ後ろに黒い生き物がいるのに気がついた。


「なっ、なんだあれは⁉︎」


 全員が息をのんだ。

 ウルネス王もメルブ将軍も、この惨事の正体に目を疑った。

 その場にいる全ての人間が、明かりに照らされた魔物の姿を目の当たりにし、衝撃を受ける。黒く大きな魔物の圧倒的な恐ろしさは、明らかにこの世のものではなかった。


「うわあああ! 魔物だあああ!」


 辺りはパニックに陥った。


「に、逃げろおおお!」


 隊列は、あっという間に崩れはじめる。


「落ち着け! うろたえるな!」


 ウルネス王が叫んだ。鶴の一声に、全員がわれに返る。

 メルブ将軍が、続けて指揮を執った。


「攻撃の準備をしろ!」


「はっ、はい!」


 兵士たちは、ずらりと並んだ大型の弓に矢をセットする。


「矢に火をつけろ! やつを燃やすんだ!」


 次々と、矢の先に火がつけられる。


「構えろ!」


 兵士たちは、魔物に狙いを定めた。


「放て!」


 メルブ将軍の掛け声で、火のついた矢が一斉に放たれた。

 レナの瞳に、飛んでくる大量の矢が映った。

 その時、魔物がレナの耳元でささやいた。


『おまえにいいモノをやろう……いずれ、私に会いに来い』


(え――?)


 レナは、思わず振り返った。

 その瞬間、無数の矢が魔物に突き刺さった。


「ああっ⁉︎」


 驚きの声を上げるレナ。


『ギャアアアア!』


 炎に包まれた魔物は、叫び声を上げた。

 その声に全身を貫かれ、レナは飛ばされるように倒れた。そして魔物の振り払った矢が、レナの上に降ってくる。

 レナがハッとした瞬間、アトス将軍が目の前に現れた。そして降ってくる矢を剣で払い、レナを助けたのだ。


「アトス将軍⁉︎」


「レナ! こっちだ!」


 アトス将軍に抱えられ、レナはその場から助け出された。

 しかし、なぜかレナは放心状態だった。


「おい! 大丈夫か⁉︎」


 レナは耳を押さえ、まだぼうぜんとしている。


(今……魔物が……)


 ゆっくりと魔物の方を振り返る。


(魔物が……私に何かささやいた――⁉︎)


 メルブ将軍が叫ぶ。


「相手は魔物だぞ! 気を抜くな!」


 兵士たちは、急いで次の矢をセットする。


「放て!」


 空気を切り裂く音とともに、再び大量の矢が魔物めがけて放たれた。

 その時、魔物が物凄い雄たけびを上げた。その凄まじい轟音(ごうおん)に、空気がビリビリと響いた。


「おお⁉︎」


 兵士たちから、どよめきが起こる。

 すると魔物は、飛んでくる矢を尾で打ち返したのだ。たった一振りで、半分ほどの矢が兵士たちの方へ返ってきた。


「うわあああ!」


 全身炎に包まれながらも、魔物は余裕の態度だった。


「なんてやつだ!」


 しかし、ここでひるむわけにはいかない。

 今度は、アトス将軍の部隊が魔物の前に立ちはだかった。


「やつは焼かれて、うろこがもろくなっているはずだ!」


「なんとしても、倒すぞ!」


「おおー!」


 兵士たちは一斉に切り掛かった。アトス将軍の最強部隊は、魔物の固いうろこさえも切り裂き、確実にダメージを与えていく。

 メルブ将軍が叫ぶ。


「援護しろ!」


「おおー!」


 剣と矢の連続攻撃で、一気に畳み掛ける。

 魔物の動きは、どんどん鈍くなっていった。


「いいぞ! 火が、だいぶ回って来た!」


「倒せるぞ! もう少しだ!」


 兵士たちは活気づく。

 そしてついに、魔物は崩れ落ちるように地面に倒れた。


「やったぞー!」


 兵士たちから歓声が上がる。

 その時、兵士の一人が空を見上げてつぶやいた。


「助かった……」


 いつの間にか、夜が明け始めていた。

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