表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
20/56

第20話 魔物1


 レナたちは、兵士が生存しているのを見つけて安心したが、すぐに違和感を感じた。

 岩を背にして兵士たちが集まっているのだが、なぜか全員上を向いているのだ。


「あんなところに固まって、何をしているんだ?」


 レナの隣にいた一人が、身を乗り出す。

 その時、兵士を指差しているレナの指が、震えているのに気がついた。驚いてレナの方を見ると、完全に固まっている。

 その目は恐怖に見開かれ、ただ一点に集中していた。


「レナ⁉︎」


 名前を呼んでも聞こえていない。そしてレナの指の震えは、どんどん強くなっていく。

 その様子に、周りもただ事ではない雰囲気を察する。

 するとレナは、絞り出すように声を出した。


「あ……あの……」


 声も尋常ではなく震えている。


「レナ! どうした⁉︎」


 周りにも、緊迫した空気が広がっていく。


「見えます……兵士たちの……目の前に……」


 レナは、途切れ途切れに声を発した。


「魔物がいます――!」


「なんだと⁉︎」


 レナの信じ難い言葉に、全員が完全に凍りついた。


(魔物だと――⁉︎)


 その時、暗闇の中で闇がぬるりと大きく動いた。そしてそれは、巨大な魔物の形になる。

 レナに言われなければ、想像もできなかっただろう。

 その存在を認識した瞬間、全員体中に戦慄(せんりつ)が走った。


「――――!」


 レナが見つけた兵士たちは、魔物に追い詰められ動けないでいたのだ。カチャカチャと、剣や(やり)を突き立てているそのすぐ先に、魔物の横顔があった。

 グロテスクに裂けた口に、血まみれの大きな牙――。今まさに、兵士たちに襲い掛かるところだった。


「そ、そんな……!」


 レナには、自分が見ているものが現実のものとはとても思えなかった。

 アトス将軍も、想像を絶する恐怖に襲われていた。


(魔物だったなんて――⁉︎)


 そして同時に叫んだ。


「逃げろー!」


 次の瞬間、魔物が兵士たちに食らいついた。


「ぎゃあああ!」


 兵士たちの叫び声が響く。聞いたことのないような音とともに、人間が簡単に食べられていく。


「ひっ……」


 レナは短く悲鳴をあげた。

 周りの兵士たちも恐怖に顔をゆがめた。


「くそっ、なんてことだ! まさか、魔物だったなんて!」


 全員、金縛りにあったように体が動かない。


「で、でかいぞ……!」


 魔物の口から、ドバドバと血が地面に落ちた。その血を見ながら、全員が結論にたどり着く。

 これが……事件の真相――。

 魔物が現れた――!

 レナたちは、大変な事実を目の当たりにしていた。

 まだ逃げて無事な兵士もいたが、辺りは混乱を極めていた。


「下がれ! みんな逃げるんだ!」


 アトス将軍は叫びながら思った。


(まずいぞ! われわれも魔物に近い!)


「早く逃げろ!」


 動けないでいる近くの兵士たちを引っ張る。


「う、うわぁ……!」


「逃げろおぉ!」


 アトス将軍の声に、われに返った兵士たちは慌てて逃げ始める。

 しかし、レナは一歩も動けないでいた。


「何してる、レナ! 逃げるんだ!」


 レナは恐怖のあまり体が動かない。放心状態のまま、絶望的な表情で魔物を見上げていた。


(こんなの……現実なの?)


 背筋に汗が伝い悪寒が走る。


(戦う……? これと……?)


 額にも玉の汗がにじんでいた。


(戦うなんて――! こんなの、どう戦えばいいの⁉︎)


 その時、魔物の尾がゆっくりと振り上げられた。


「うわぁ……来るぞ!」


「早く逃げろ!」


 周りから悲鳴があがる。

 レナは恐怖に耐えられず、思わず目を閉じた。しかし、まぶたを閉じるわずかな一瞬に、その光景を目撃してしまった。

 魔物の尾が、兵士たちをなぎ倒すのを――。

 兵士の体は破壊され、簡単に飛ばされていく。たいまつの火も消し飛ばされ、明かりが完全に消えた。

 暗闇――。

 戦慄(せんりつ)の残像を残し、目を閉じたままのレナ。体の震えが止まらない。

 目を閉じていることにもはや意味はなかったが、目を開けて新たな光景を見ることも怖かった。ただただ、怖くて仕方がなかった。

 しかし、レナの周りに死体が飛んできて、転がっていることはわかっていた。まだ、魔物がそばにいることも。

 目を閉じていることにも耐えられなくなり、レナは目を開けた。


「――――⁉︎」


 そこには、地獄のような光景が広がっていた。辺り一面に、兵士たちの死体が転がっている。


「あ……あぁ……」


 レナの顔は、恐怖にゆがんだ。しかし、この光景は紛れもない現実なのだ。体が信じられないくらい震えている。全身から汗が噴き出す。

 そして暗闇の中から、魔物が姿を現した。


「⁉︎」


 レナの体がビクッと反応する。

 魔物が、足元の兵士たちを踏み潰しながら、ゆっくりと近づいてくる。


(殺られる……)


 魔物の口から、人間の欠片が落ちる。


(早く逃げなくちゃ……食われる……!)


 頭ではわかっていても、体が全く動かない。そうしているうちに、魔物がレナの目の前まで来てしまった。

 地面にポツンと立っているレナは、とても小さくてちっぽけだった。

 魔物が腕を振り上げる。

 レナは、その手をただ見ていることしかできなかった。自分に降り下ろされてくる手が、まるでスローモーションのようにはっきりと見える。

 そして次の瞬間、魔物の手がレナを叩き潰した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ