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イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
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第2話 王宮


 ある日、レナは村長のムルに呼び出された。


「これから王宮へ行くから、支度をしなさい」


 唐突にそう言われたレナは、不思議に思いムルに質問した。


「はい。また警備ですか?」


 するとムルは、少しだけ考えてから答えた。


「……いや、王宮の宴に呼ばれたのだ」


 レナは予想外の答えに、きょとんとした顔をしている。

 それを見て、ムルが説明を続けた。


「おまえの特殊な能力の評判が、国王の耳に届いてな。宴の席で披露するよう命じられたのだ」


 レナは、きちんと理解するのに少し時間がかかった。特殊な能力とは、暗闇の中でも目が見えることを言っているのはわかった。それを王宮の宴で披露する――いや、その前に『国王』という言葉が出てきた。


(まさか、国王の前で披露するの?)


 やっと驚きが込み上げてきて、レナは叫んだ。


「わ、私がですか⁉︎」


 と同時に、疑問が湧いた。


(特殊な能力を見せるって……どうやるの?)


 レナは、戸惑いながらムルに質問した。


「ムル様……私はどうすればいいのでしょうか?」


 ムルは何か言いたそうにも見えたが、多くを語ってはくれなかった。


「……いいから支度をしなさい」


***


 王宮は、にぎやかな宴の真っ最中だった。

広間には多くの人が集まり、音楽と笑い声が聞こえてくる。そして、見たこともないごちそうが並んでいた。

 レナは初めて王宮の中に入ったので、想像をこえる華やかな世界に目がチカチカした。こんな場所で一体何をするのかと、緊張がどんどん高まっていく。

 その時、レナは突然自分の名前を呼ばれた。


「レナはどいつだ?」


「はいっ!」


 慌てて声のする方を振り返ると、大柄な男が近づいてきてレナを見下ろした。男はレナを無遠慮にじろじろと見て言った。


「おまえが例の兵士だって? まるで女の子じゃねえか」


 男は兵士の格好のレナを見て、少年兵と勘違いしたようだった。まあ、よくあることではあった。


「まあいいや、酒の席の余興なんだ。せいぜい盛り上げてくれや」


 男はそう言うと、レナに細長い布切れを渡してきた。レナは渡された布切れを不思議そうに見たあと、そのままの表情でムルの方を向いた。

 ムルはなぜか、心配そうな顔でレナを見つめるのだった。


***


 広間のひときわ華やかな上座には、ウルネス王の姿があった。このりりしい姿の王が、エスプラタ国を治める最高権力者である。

 隣には、セラ王妃の姿もあった。まさに、絶世の美女と表現するにふさわしい美しさである。

 この威厳と風格を惜しみなく放つ二人は、レナのような者にとって神様のような存在であった。


「ウルネス様、例の兵士が来ました」


 家臣がウルネス王に報告をした。しかしウルネス王はなんのことかわからない様子だった。家臣は慌てて説明をする。


「あの、女兵士で、特殊な能力を持った――」


「ああ……」


 ウルネス王は興味がなさそうに答えた。


「まったく次から次へと……今度は小娘の大道芸か……」


 そうつぶやくと胡散臭(うさんくさ)そうに、ふんと鼻を鳴らした。

 王宮の宴に呼ばれたといっても、ふたを開けてみればこんなものである。

 そんなことなど知らないレナが、広間の中央に現れた。先ほど男に渡された布で目隠しをして、一人ぽつんと立っている。

 レナの姿を見た周りの群衆から、話し声が聞こえてくる。


「なんだなんだ、今度はなんの余興だ?」


「あの兵士が、これから変わった剣術を見せるんだってよ」


「なんで目隠しなんかしてるんだ?」


「暗闇でも目が見えるんだとよ」


「へえ~」


 それを聞いていた他の者も、会話に割り込んでくる。


「けっ、うそくせえな」


「それにしても、兵士にしてはずいぶん華奢(きゃしゃ)だな。まだ子どもじゃねえか」


「あれ女だってよ」


「えっ? そうなの?」


 それぞれが無駄に大きな声で、好き勝手に騒いでいる。

 レナは特になんの説明も受けていなかったので、どうしたらいいかわからなかった。


「なんでもいいから早くしろ!」


「誰か相手をしてやれよ」


 だんだん周りが騒ぎ出す。


「お嬢ちゃん、私が相手をしてやろう!」


 その時、誰かがレナに向かって叫んだ。そして周りの男たちが、その声に盛り上がる。


「おっ、頼むぞ将校」


「おいおい将校、大丈夫か? だいぶ酔っ払ってるじゃねえか」


 どうやら酔っ払った将校が、名乗りを上げたようだった。そしてレナに下品なことを言ってきた。


「ひっく……その服を切り裂いて、本当に女か確かめてやる」


 すると笑いが起こり、場は盛り上がってしまった。


「わははは」


「いいぞ、将校。やれやれ〜!」


 レナは自分の置かれた状況を察して複雑な気持ちになったが、似たような思いをすることがないわけではなかった。

 その時、レナを見ていた群衆の一人が隣の男に言った。


「あれ? なあ」


「ん?」


「暗闇の代わりに目隠しって、なんか違うんじゃねえか?」


「そうか? なんでもいいんじゃねえの?」


「……まあ、そうだな」


 既に酔っ払っている男たちにとって、細かいことはどうでもよかった。


「さあ、お嬢ちゃん。剣を抜け!」


 レナの耳に、将校の剣を抜く音が聞こえた。


「…………」


 レナもためらいながら、無言で剣を抜いた。

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