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イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
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第19話 襲撃


 ウルネス王の偵察部隊は北の都に到着し、城に拠点を構えた。そして夜になり、城に明かりがともる。

 城の一室では、明日からの調査に向けてメルブ将軍とアトス将軍が打ち合わせを行っているところだった。

 すると、そこにレナが現れた。


「お忙しい所申し訳ございません。少しよろしいでしょうか?」


 メルブ将軍は驚いた。


「レナ? なぜ、こんなところにいるのだ?」


(夜だぞ? ウルネス様の部屋にいなくていいのか?)


 するとレナは、遠慮がちに質問をしてきた。


「あ、あの、メルブ将軍……私は今回、どこの所属になるのでしょうか? 国王から、聞いてくるように言われました」


 その答えは予想外のものだった。


「ウルネス様は、メルブ様が思うほど、お遊び気分ではないようですよ……今のところは」


 驚いているメルブ将軍に、クスクスと笑いながらアトス将軍が言った。


「うーん……分からぬ!」


 メルブ将軍はうなった。


「ウルネス様は、何かこう……おまえに特別な思い入れがあるのだ」


 レナの肩に手を置き、真剣に尋ねる。


「なぜだ?」


「えっ? あの……?」


 メルブ将軍のアップにも質問にも、どうしたらいいか分からないレナだった。

 するとアトス将軍が提案した。


「それでは、今度は私の部隊はどうだ?」


「えっ⁉︎ アトス将軍の⁉︎」


 レナは驚いた。


「そそっ、そんな! 私ような非力が、めっそうもございません!」


「はっはっはっ!」


 アトス将軍は、レナとの対戦を思い出し大笑いした。

 その時だった――扉が勢いよく開き、一人の兵士が息を切らして駆け込んで来た。


「将軍! 大変です!」


 明らかにただごとではない様子だ。


「どうした⁉︎」


 メルブ将軍が聞き返す。


「襲撃です!」


 その言葉に全員が衝撃を受ける。


「なんだと⁉︎」


 すぐさまアトス将軍が反応する。


「どこだ⁉︎ 敵は何者だ⁉︎」


「それが――……」


 兵士は息を整えているのか、なかなか言葉が出てこない。

 その間が、レナたちの心をざわつかせる。

 そしてやっと顔を上げた兵士の目には、困惑と恐怖の色が浮かんでいた。


「人では……ないかもしれません」


「え?」


 予想もしない言葉に、全員が息をのんだ。


「一体どういうことだ⁉︎ 分かるように説明しろ!」


 アトス将軍が叫ぶ。


「は、はい……!」


 兵士は必死に説明を始めた。


「敵は暗闇に紛れ、姿が全く見えず……その襲い方は、まるで獣のようなのです!」


「獣だと?」


「しかし、獣にしては動きが的確で強すぎるのです! われわれは敵の正体もつかめず、なすすべのない状態です!」


 部屋は沈黙に襲われた。

 兵士の説明を、瞬時に理解し判断することは難しかった。


「メルブ様、私が行きます!」


 しかし、アトス将軍はすぐに決断した。


「状況がわからなすぎる! 先に私の隊で確認に行きます!」


 メルブ将軍は大きくうなずいた。


「わかった。私はウルネス様に報告し、すぐに後を追う」


 二人の将軍は、すぐさま行動に移った。

 アトス将軍が部屋を出ようとした時、レナが扉をふさぐように立ちはだかった。


「アトス将軍、私を連れて行ってください!」


「レナ……」


 レナの目は、強く訴えていた。


(そうだ! レナは暗闇で目が利く!)


「ついて来い!」


「はいっ!」


 レナは返事をすると、アトス将軍のあとに続いた。


***


 アトス将軍の小隊は、馬を走らせ現場に急いでいた。暗闇の中では、道のわずか先を照らすたいまつの明かりだけが頼りだった。

 しかしレナだけは、その先を見つめ神経を集中していた。

 その時、違和感を察知して目を凝らした。


(あれは何――⁉︎)


「地面に何かあります! 気をつけてください!」


 レナは大声で叫んだ。

 その直後、照らされた明かりの中に飛び込んできたのは、恐ろしい光景だった。

 地面が真っ黒にぬれている。


「⁉︎」


 なんと、それは血だった。


「なっ⁉︎」


 隊の全員に緊張が走る。


「血だ! 大量の血が落ちている!」


 慌てて馬の足を止める。


「こっ、これは……⁉︎ 一体何があった⁉︎」


 強烈な生臭い血の臭いに、思わず鼻を覆う一行。


「――……!」


 アトス将軍は、絶句したまま辺りを見回す。


(なんてことだ! また……同じ事態が起きている⁉︎)


「この辺りを調べるんだ!」


 アトス将軍がすぐに指示を出し、兵士たちは馬を下りると捜索を始めた。


「敵が近くにいるかもしれない! 気をつけろ!」


 ただならぬ緊迫した空気が、辺りを包んでいる。

 レナは、地面の血痕から目を逸らすことができなかった。


(まだ全然乾いていない……。こんなに大量に……一体、なん人分の……)


 急に気分が悪くなり、慌てて口を押さえる。込み上げてくる恐怖を必死で押し戻した。

 そしてレナは、先ほどの兵士の言葉を思い出した。


『人では……ないかもしれません』


 どうしようもなく胸騒ぎがする。


 ドキン、ドキン、ドキン――。


 心臓が激しく脈を打つ。

 その時、レナは岩場のくぼみに兵士の姿を見つけた。


「あっ! あそこに兵士たちがいます!」


 思わず大声で叫んだ。レナが指差した先には、兵士が数人固まっているのが見えた。


 生きている――!


「無事です!」


 兵士の姿を確認して、全員がほっと胸をなでおろした。

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