第15話 任務3
レナたちは敵に取り囲まれ、ピンチを迎えていた。
ダラムはイライラしたように頭をかいた。
「クソ……騒ぎになっちまった。どう責任取ってくれるんだよ」
怒りのこもった声だった。それから、恐ろしい言葉を実にさらりと続けた。
「全員、死んでわびてもらうか……」
冗談では済まされない雰囲気に、その場が凍りついた。
そしてダラムは、近くにいた踊り子を捕まえた。娘はおびえて小さく叫んだ。
すると次の瞬間、なんのちゅうちょもなく、ダラムは娘の胸に剣を突き刺したのだ。踊り子たちの悲鳴が部屋に響く。
娘は口から血をはき、そして息絶えた。
目の前で起こったダラムの残忍な行動によって、部屋は恐怖のどん底にたたき落とされた。
「なんて、やつだ……!」
レナの仲間から、絞り出すように声が漏れた。
しかもダラムは、その娘をまるで物のように投げ捨てたのだ。その瞬間、レナは心の底から怒りが湧き上がるのを感じた。
(ひどい!)
そして、レナの瞳に怒りの炎がともった。
(許せない!)
「全員殺せ!」
ダラムの命令で、敵が一斉に襲いかかってきた。部屋は一気に戦闘モードに突入した。
レナは、自分が焦って最初の攻撃に失敗したことを、心の底から悔やんだ。
(しかもやばいよ、派手になってきちゃったよ! こんなの全然暗殺じゃないよ!)
そして、とてつもない恐怖に襲われた。
(どうしよう、メルブ将軍に怒られる!)
その時、そばにいた仲間がレナに指示を出した。
「レナ、おまえはここから逃げろ!」
「えっ⁉︎ でも……」
「大広間に隊長たちが待機している。ダラムがおまえを追いかけてくれたら、まだチャンスはある!」
レナは仲間の助言に、はっとわれに返ることができた。そうだ、簡単に諦めるわけにはいかない。
その時、仲間が扉を蹴破った。
「レナ、行け!」
「はい!」
レナは走り出した。
ダラムが目ざとく見つけ、舌打ちする。
「ちっ、逃がすな!」
敵が捕まえようと立ちはだかったが、レナにとってすり抜けることなどお手のものだった。
「何やってんだ、追いかけろ!」
幸運なことに、ダラムたちはレナを追いかけ始めた。
(私を追ってこい、ダラム!)
レナは人混みの中を駆け抜けた。
店内の大広間では、レナの仲間たちがテーブルに座っていた。
「隊長」
どこからともなく声がする。
「?」
その時、隊長は膝に手を置かれぎょっとした。
「レナ⁉︎」
テーブルの下から、レナが顔をのぞかせていたのだ。
「どうしてここに⁉︎ 他のやつはどうした⁉︎」
レナは急いで報告をした。
「ダラムがいました! 私を追ってこの広間に来ます!」
「何っ⁉︎ 本当か⁉︎」
レナの報告に、仲間たちは驚いた。
「どこかに誘導できれば、作戦を続行できます!」
「そうか!」
レナの言葉に、仲間たちは一気に気を引き締めた。
「酒の貯蔵庫はどうだ? あの通路の突き当たりを左だ」
「わかりました。そこにダラムを引き込みます!」
「できるか?」
「はいっ! 今度は絶対に失敗しません!」
レナは力強くうなずいた。
「わかった、援護する!(今度は?)」
「お願いします!」
レナは、テーブルの下からすっと消えた。それと同時に、ダラムが大広間に現れた。
レナの仲間たちは、一気に緊迫した空気に包まれる。
「ダラムだ!」
「おいマジかよ……本当にダラムだぞ!」
「しっ、やつに気づかれるな!」
千載一遇のチャンスに、隊長たちは舌なめずりをせずにはいられなかった。
(餌に食いつけ! ダラム!)
レナはテーブルの陰からテーブルの陰へと、人混みをすり抜けるように移動する。
その時、人混みの奥にダラムを見つけた。ダラムもこちらを見ている。
(私を捕まえてみろ!)
レナはダラムを挑発するように、思いっ切りにらみつけてやった。
「あの野郎……絶対に許さねえ!」
レナの挑発は効果があり、ダラムは珍しく冷静さを欠いていた。あんな小娘に切りつけられたことが腹立たしく、プライドが許さなかった。
「ボス、ほかにも仲間がいるかもしれません。火事が大きくなればこれ以上は危ない! ここはもう逃げた方が――」
その声をダラムは遮った。
「火事は好都合だ。騒ぎに紛れ込める」
そして残忍な笑みを浮かべた。
「なあに、すぐ済む」
(あの生意気な目をくり抜いて、体を切り刻んでやる!)
客が混み合っている中ではあるが、レナは数人の敵に囲まれていた。敵の包囲網はどんどん狭くなる。
レナは戸惑う演技をしながら、貯蔵庫の方へと逃げた。
「その奥は貯蔵庫だ。行き止まりだぞ!」
「よし、追い詰めろ!」
まんまと誘導に乗っている敵の声を確認しながら、レナは貯蔵庫の入り口まで逃げてきた。
貯蔵庫の扉を開けると、中は半地下のつくりになっていて、下へ降りる階段が続いている。レナは、その中へ飛び降りるように消えていった。
「ボス、貯蔵庫の中に逃げ込みました!」
「よし、いいぞ」
ダラムたちは、薄ら笑いを浮かべながら階段を降りてきた。
貯蔵庫内は暗く、酒のたるが並んでいるだけでレナの姿はない。
「手こずらせやがって。もう逃げられないぞ!」
手下の一人が叫んだその時だった。ダラムたちの頭上で、木のきしむ音がした。
「⁉︎」
慌てて振り返ると、扉の外からレナの仲間がダラムを見下ろしていた。そして、まさに扉を閉める瞬間だった。
(しまった! いつの間に⁉︎)
ダラムがそう思った瞬間に扉が閉められ、ダラムたちは貯蔵庫の中に閉じ込められたのだった。