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イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
15/56

第15話 任務3


 レナたちは敵に取り囲まれ、ピンチを迎えていた。

 ダラムはイライラしたように頭をかいた。


「クソ……騒ぎになっちまった。どう責任取ってくれるんだよ」


 怒りのこもった声だった。それから、恐ろしい言葉を実にさらりと続けた。


「全員、死んでわびてもらうか……」


 冗談では済まされない雰囲気に、その場が凍りついた。

 そしてダラムは、近くにいた踊り子を捕まえた。娘はおびえて小さく叫んだ。

 すると次の瞬間、なんのちゅうちょもなく、ダラムは娘の胸に剣を突き刺したのだ。踊り子たちの悲鳴が部屋に響く。

 娘は口から血をはき、そして息絶えた。

 目の前で起こったダラムの残忍な行動によって、部屋は恐怖のどん底にたたき落とされた。


「なんて、やつだ……!」


 レナの仲間から、絞り出すように声が漏れた。

 しかもダラムは、その娘をまるで物のように投げ捨てたのだ。その瞬間、レナは心の底から怒りが湧き上がるのを感じた。


(ひどい!)


 そして、レナの瞳に怒りの炎がともった。


(許せない!)


「全員殺せ!」


 ダラムの命令で、敵が一斉に襲いかかってきた。部屋は一気に戦闘モードに突入した。

 レナは、自分が焦って最初の攻撃に失敗したことを、心の底から悔やんだ。


(しかもやばいよ、派手になってきちゃったよ! こんなの全然暗殺じゃないよ!)


 そして、とてつもない恐怖に襲われた。


(どうしよう、メルブ将軍に怒られる!)


 その時、そばにいた仲間がレナに指示を出した。


「レナ、おまえはここから逃げろ!」


「えっ⁉︎ でも……」


「大広間に隊長たちが待機している。ダラムがおまえを追いかけてくれたら、まだチャンスはある!」


 レナは仲間の助言に、はっとわれに返ることができた。そうだ、簡単に諦めるわけにはいかない。

 その時、仲間が扉を蹴破った。


「レナ、行け!」


「はい!」


 レナは走り出した。

 ダラムが目ざとく見つけ、舌打ちする。


「ちっ、逃がすな!」


 敵が捕まえようと立ちはだかったが、レナにとってすり抜けることなどお手のものだった。


「何やってんだ、追いかけろ!」


 幸運なことに、ダラムたちはレナを追いかけ始めた。


(私を追ってこい、ダラム!)


 レナは人混みの中を駆け抜けた。


 店内の大広間では、レナの仲間たちがテーブルに座っていた。


「隊長」


 どこからともなく声がする。


「?」


 その時、隊長は膝に手を置かれぎょっとした。


「レナ⁉︎」


 テーブルの下から、レナが顔をのぞかせていたのだ。


「どうしてここに⁉︎ 他のやつはどうした⁉︎」


 レナは急いで報告をした。


「ダラムがいました! 私を追ってこの広間に来ます!」


「何っ⁉︎ 本当か⁉︎」


 レナの報告に、仲間たちは驚いた。


「どこかに誘導できれば、作戦を続行できます!」


「そうか!」


 レナの言葉に、仲間たちは一気に気を引き締めた。


「酒の貯蔵庫はどうだ? あの通路の突き当たりを左だ」


「わかりました。そこにダラムを引き込みます!」


「できるか?」


「はいっ! 今度は絶対に失敗しません!」


 レナは力強くうなずいた。


「わかった、援護する!(今度は?)」


「お願いします!」


 レナは、テーブルの下からすっと消えた。それと同時に、ダラムが大広間に現れた。

 レナの仲間たちは、一気に緊迫した空気に包まれる。


「ダラムだ!」


「おいマジかよ……本当にダラムだぞ!」


「しっ、やつに気づかれるな!」


 千載一遇のチャンスに、隊長たちは舌なめずりをせずにはいられなかった。


(餌に食いつけ! ダラム!)


 レナはテーブルの陰からテーブルの陰へと、人混みをすり抜けるように移動する。

 その時、人混みの奥にダラムを見つけた。ダラムもこちらを見ている。


(私を捕まえてみろ!)


 レナはダラムを挑発するように、思いっ切りにらみつけてやった。


「あの野郎……絶対に許さねえ!」


 レナの挑発は効果があり、ダラムは珍しく冷静さを欠いていた。あんな小娘に切りつけられたことが腹立たしく、プライドが許さなかった。


「ボス、ほかにも仲間がいるかもしれません。火事が大きくなればこれ以上は危ない! ここはもう逃げた方が――」


 その声をダラムは遮った。


「火事は好都合だ。騒ぎに紛れ込める」


 そして残忍な笑みを浮かべた。


「なあに、すぐ済む」


(あの生意気な目をくり抜いて、体を切り刻んでやる!)


 客が混み合っている中ではあるが、レナは数人の敵に囲まれていた。敵の包囲網はどんどん狭くなる。

 レナは戸惑う演技をしながら、貯蔵庫の方へと逃げた。


「その奥は貯蔵庫だ。行き止まりだぞ!」


「よし、追い詰めろ!」


 まんまと誘導に乗っている敵の声を確認しながら、レナは貯蔵庫の入り口まで逃げてきた。

 貯蔵庫の扉を開けると、中は半地下のつくりになっていて、下へ降りる階段が続いている。レナは、その中へ飛び降りるように消えていった。


「ボス、貯蔵庫の中に逃げ込みました!」


「よし、いいぞ」


 ダラムたちは、薄ら笑いを浮かべながら階段を降りてきた。

 貯蔵庫内は暗く、酒のたるが並んでいるだけでレナの姿はない。


「手こずらせやがって。もう逃げられないぞ!」


 手下の一人が叫んだその時だった。ダラムたちの頭上で、木のきしむ音がした。


「⁉︎」


 慌てて振り返ると、扉の外からレナの仲間がダラムを見下ろしていた。そして、まさに扉を閉める瞬間だった。


(しまった! いつの間に⁉︎)


 ダラムがそう思った瞬間に扉が閉められ、ダラムたちは貯蔵庫の中に閉じ込められたのだった。

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