第14話 任務2
「なんだなんだ? 自警団が部屋に入ってきたぞ」
隠し扉の内側の部屋から、外側の部屋を監視していた男が声を上げた。
「あっ、手配書を持ってる!」
ダラムたちに一瞬緊張が走る。
しかし手配書の似顔絵が見えると、監視していた男は吹き出した。
「ぷっ、全然違う男の顔だ。あの間抜け野郎、ボスとは関係ない男を探しに来たぞ」
それを聞いて、安心した周りの男たちも笑う。
「雑魚を追ってるすぐそばに、俺様がいるとは思いもよらねえか」
ダラムも馬鹿にするように笑った。
「ふん、見つかるもんか。この部屋の入口をカモフラージュするために、あいつらを騒がせているんだからな」
「あんなガラの悪い連中には、誰も関わりたくないですからねえ」
手下たちも余裕の態度だった。
しかし、外側の部屋で何やら言い争っている様子を見て、監視していた男が不審に思う。
「やけにしつこく食い下がっていやがる。何やってんだ?」
それを聞いて、ダラムは眉をひそめた。
「……気に入らねえな」
レナは、自警団が仲間だと確信していた。
(私がいないからだ! 仲間は私がどこにいるか探している。なんとかしてこの部屋の存在を知らせなければ!)
その時レナは、カーテンの裾にチャンスを見つけた。ろうそくの台の脚がカーテンを踏んでいたのだ。レナは辺りを気にしながらカーテンを引っ張り、ろうそくの台を倒した。
大きな金属音が部屋に響き、全員がはっと驚く。気が付いた時には、瞬く間にカーテンに火が移っていた。それを見て、踊り子たちが悲鳴を上げた。
部屋の中は一気にパニックになる。
「火だ! 火がカーテンに燃え移ってるぞ!」
「何やってんだ!」
「俺じゃねえ!」
男たちが叫んでいる間にも、煙がみるみる部屋に充満していく。
「燃え広がっている! 早く消せ!」
次第に全員が煙でせき込み始めた。
「やばいぞ、逃げた方がいい!」
「このままじゃ煙でやられる! 隠し扉も開けろ!」
ダラムも怒鳴った。
「ちくしょう、どうなってるんだ⁉︎」
レナも手で口を押さえながら、うつぶせになり耐えていた。
(お願い! 誰か気が付いて!)
外側の部屋で、まだ押し問答を繰り返していた男たちだったが、レナの仲間たちは隣の部屋がやけに騒がしいことに気が付いた。しかも焦った顔をして、そちらをチラチラ見ている者が何人もいる。
「……?」
レナの仲間が壁の方に目を向けた瞬間――。
壁の装飾の幕がめくれ、突然扉が現れたのだ。
「なっ⁉︎ 扉⁉︎」
レナの仲間は思わず声を上げた。
同時に大量の煙と人が扉から出てきたので、今度は外側の部屋の男たちが叫んだ。
「何だ、あの煙は⁉︎」
余りにも突然の展開に、混乱するレナの仲間たち。
(これは一体どういうことだ⁉︎ 奥に部屋があるのか⁉︎)
そして、胸騒ぎがした。
(まさか……!)
一方、秘密の部屋ではレナが必死で煙に耐えていた。
(やった、扉が開いた! チャンスだ!)
レナは、近くにいた男の剣を素早く盗んだ。
「気をつけろ! 外にいるのは敵かもしれないぞ!」
ダラムが叫んだその時だった。レナは剣を振り上げた状態で、ダラムの背後に立っていた。
「⁉︎」
背後に殺気を感じるダラム。
レナは心の中で叫んだ。
(もらった!)
そして一気に剣を降り下ろした。しかし、レナの攻撃はダラムの剣に阻まれた。
「えっ⁉︎」
ダラムは剣を背中に回し、背面でレナの攻撃を遮ったのだ。
振り向いたダラムと目が合う。
「貴様……」
ダラムの目に、レナはぞくりと恐怖を覚えた。
(しまった!)
そう思った瞬間、ダラムの足が飛んできてレナは蹴り飛ばされていた。物凄い痛みで、一瞬息ができなくなった。
ダラムはゆっくりと立ち上がる。
「おいおい、これは一体どういうことだ?」
レナを恐ろしい目で見下ろしていた。
「おまえ……まさか俺の首を取りに来たのか?」
ダラムの低い声が、レナの恐怖をさらに増幅させた。
(甘く見ていた! 油断していると思って安易に切りつけてしまった!)
そして確信する。
(この男は恐ろしい! 逃げなきゃ!)
部屋はすでに炎に包まれていた。レナは煙の中へ逃げ込み、隠し扉の方へ走った。
しかしダラムは素早くレナの前に立ちふさがると、今度は剣を振り下ろしてきた。
慌てて応戦するレナ。ダラムの剣は重く、先程蹴られた場所がズキンと痛んだ。
(まずい! 強い!)
レナはダラムの剣の威力に弾き飛ばされ、煙とともに外側の部屋へ転がり出た。
「レナ⁉︎」
仲間たちが叫んだ。
その時、煙の中から低い声が響いた。
「その娘は刺客だ! そいつらグルだぞ!」
その声にレナの仲間たちは、はっと息をのんだ。出てきたのはダラムだった。
(ダラム――⁉︎)
ターゲットを目の前にして、全員が驚きと興奮で血が沸き立つ思いだった。
しかし、レナたちはすでに取り囲まれてしまっていた。
「レナ、大丈夫か?」
心配する仲間にレナは謝った。
「すみません! チャンスがあったのに……!」
その時、ダラムの低い声が響いた。
「この俺に、こんな小娘をよこすとは……なめたまねしてくれるじゃねーか」
怒りのこもった鋭い目に、レナたちは完全に射すくめられてしまった。