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イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
13/56

第13話 任務1


 ここはエスプラタ国の歓楽街。

 メイン通りには酒場が軒を連ね、店内は客で大いににぎわっていた。店内のいたるところで、踊り子たちが華やかに客を盛り上げている。

 踊り子の中に、レナの姿があった。客の中にも仲間が紛れ込んでいる。


 任務はターゲットであるダラムの暗殺――。


 レナにとって、緊張の初任務にして重要な任務だった。

 目撃情報から、この辺りの酒場で張り込みを始めて五日目。レナは踊り子にふんし、店内を見回っていた。

 その時大きな笑い声を上げながら、いかにもガラの悪そうな集団が店に入ってきた。

 レナたちに緊張が走る。

 その集団は乱暴に辺りの客を押しのけ、レナのいる部屋の中央を占領してしまった。

 注意深くその集団を観察するが、ダラムはいない。レナたちは『違う』と目配せをした。

 すると、ガラの悪い集団のひとりが声を上げた。


「この部屋は今から俺たちの貸し切りだ。みんな出て行ってくれ」


 部屋は一瞬静かになり、すぐに酔っ払った客たちから不満の声が上がった。


「なんだよ、おまえら――」


「あ? なんか文句あんのか?」


 しかし逆にすごまれてしまう。


「い、いえ……」


 かなり相手が悪かった。

 部屋にいた客たちは、渋々と移動を始める。酒を持ってくるよう命令された店員も、逃げるように部屋を出て行ってしまった。

 ところが、一緒に部屋を出ようとした踊り子たちは止められてしまったのだ。娘たちの顔が、不安にさっと陰る。

 レナは部屋を追い出される仲間と目を合わせた。


 何もするな――。


 レナは仲間の指示に小さくうなずいた。

 そして部屋の扉が閉じられた。

 するとなぜか、部屋の内側から鍵をかけたのだ。


(どうして、わざわざ鍵なんか……?)


 明らかに不自然な行動に、レナの表情は険しくなった。


(……どうしよう。いきなり計画と違うんですけど! 私、初任務なんですけど!)


 ショックを隠しきれなかった。そう、レナはガラの悪い連中に捕まってしまった――。

 不安そうにしていた踊り子たちは、男に声をかけられた。


「おまえたち、こっちに来い」


 部屋の隅に踊り子たちを集めると、壁に掛かっている装飾の幕をめくる。そこはただの壁だったが、男が壁に手を置くと――。

 なんと、壁の一部が動いて扉の形が現れたのだ。


(隠し扉⁉︎)


 レナも踊り子たちも声こそ出さないが、みんな驚いて息をのんだ。

 奥にはさらに部屋が見えた。


(一体どういうことなの⁉︎)


 レナは予想もしない展開に戸惑った。


「さあ入れ」


 命令された踊り子たちは、不安そうな表情で奥の部屋に入っていく。

 そして隠し扉が閉められると、外側は再びただの壁に戻った。


(部屋が二重になっていたなんて!)


 レナは胸がざわざわした。


(もしかして……)


 どんどん胸の鼓動が早くなる。


(もしかして……この部屋に……)


 ゆっくり顔をあげる。


(ダラムが……いる⁉︎)


 部屋には数人の男たちがいたが、ひときわ目立つ大柄の男がいた。

 一目でわかった――ダラムがそこにいた。


(いた! ダラムだ!)


 レナは緊張と興奮で心臓がバクバクした。

 するとダラムは、うすら笑いを浮かべながら手をたたいた。


「さあ、おまえたち。ぼんやりしてないで早く踊れ」


 レナはターゲットの声を聞いた瞬間、これは本当に現実なんだと鳥肌が立った。

 そして異様な雰囲気の中、秘密の部屋で宴が始まった。


(なんとかして、みんなに知らせなければ!)


 はやる気持ちを抑え、レナは何かいい方法はないかと必死に考えていた。


 その頃、追い出されたレナの仲間たちは、店内の別の広間に集合していた。


「ガラの悪い集団が現れて、部屋を占領されてしまって……レナが一人で部屋の中に取り残されています」


「怪しい連中なのか?」


「いえ、ただ騒いでいるだけです。ダラムとは関係なさそうです」


 不測の事態の時は、レナは踊り子としてやり過ごせばいいことになっていた。


「まあ、レナならバレないだろう」


「……しかし、念のため調べておくか」


***


 ガラの悪い集団が閉じ籠っている部屋の扉がノックされる。

 しばらくして、鍵の開く音がして扉が少し開き、男が顔をのぞかせた。


「何の用だ」


 扉の外に立っているのは、自警団に変装したレナの仲間たちだった。

 そして、適当に用意した手配書を部屋の中の男に見せて言った。


「この男を知らないか? この辺りの酒場に潜伏しているという情報が入って探しているんだ」


「……そんなやつは知らない」


 男はぶっきらぼうに答えて扉を閉めようとするが、レナの仲間たちは何かに気が付き慌てて扉をつかんだ。


「なっ、何しやがる!」


 男は声を荒げた。


「念のため調べさせてもらう!」


 レナの仲間たちは、半ば強引に部屋の中へ入り込んだ。


「なんだおまえら! 勝手に入ってくるんじゃねえ!」


 部屋の中の男たちが殺気立った。

 レナの仲間たちは、部屋の中を見回し困惑していた。


(どうなっているんだ? レナがいないぞ……⁉︎)

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